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午前5時、傘になる

作者: 奥泉桃香

午前五時、家を出て少ししたところで今日持ってきたのが、壊れた傘だということに気付いた。


 もはや何時何処で手に入れた傘なのかは覚えていない。玄関に五本程傘が横たわっているのだが、そのどれかは酔っ払って何処かの店で適当に引き抜いてきてしまったものだし、雨の中私に会いにきた男が翌朝晴れているからと言って置いてったものもある。


 私や周りの人間にとって、傘とはその程度のものであり、その程度のものだという認識。で、私が生きてきた。


 まあ、傘くらい、いいや。そんな風に扱って、使い物にならなくなればさようなら。


 期限付きで、代わりがいて、どれだけ持ち主に尽くしたって最後は呆気なく捨てられてしまう。


 ふと自分が物凄く最低な人間に思えてきて、いや今まで自覚が薄かっただけで本当にそうなのかもしれないという説まで浮上してきて辛くなってきたので考えることを中断した。


 渋谷行きの電車に乗り込む。この時間の車内はゆったりとしていて、今から仕事へ向かう人か、髪型や服装がくたっとしている、恐らく朝まで飲んでいたのだろうという人のニ種類で車内は構成されていて、そのニ種類が大体無防備にうとうとしている。


 五月を過ぎて、また日が顔を出している時間が長くなってきたようだ。


 早起きは嫌いだが、この時間、窓から差し込む朝陽に照らされた、たった一瞬だけ私は世界を愛おしく思える。


 広々とした車内にぽつり、ぽつりと等間隔に座り浅い眠りについているその誰もが穏やかな顔つきに見えた。


 太陽が昇れば朝が来るのと同じように、ただ当たり前に季節は巡って、私はあなたを忘れてしまうのだろう、と思う。


 大人になればなるほど自分が大切にしたいものではなく、大切にしなければ、守らなければならないものを優先して生きていかなきゃいけなくなるものだ。


 どんな約束だって、それには勝てない。勝てないんだよね?頭ではわかってはいるけれど、いつだって少し寂しい。


 また余計なことを考えてしまったことに気付き、リュックからプラスチックの容器に入ったラムネを取り出し、口に放り込み、電車を降りていつものビルへ向かう。


 そしていつも通り働き、いつも通り帰り満員電車に揺られ、いつも通りビールを胃に流し込み、一日の終わりにこう思うのだろう。


 いつもと何一つ変わらない日だった。


 ビル向かう途中、突然雨が降ってきたので今朝間違えて持ってきた壊れた傘を開いた。雨に濡れると、泣いているように見えた。


 壊れたんじゃなくて、私が壊してしまったのかもしれない。


 いつもと何一つ変わらない日だった。貴方が居ないことを除いては。


 こうして絶えることなく、日常は続いていく。

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