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【第2巻発売中】引きこもりVTuberは伝えたい  作者: めぐすり
第四章 ーBe yourself, Everyone else is already takenー
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第92話 真宵アリスのスランプ脱出会議⑥

この話で第四章の折り返しです。


次回からは真宵アリスの快進撃(異常さ)を第三者の視点から観測することになります。

『あなたが望んでくださるならば私はショーを続けましょう』


「思い出せましたか?」


 収益化配信のときの私は確かにそう語っていた。

 配信することが楽しかった。

 リスナーが楽しんでくれるのが嬉しかった。

 自分の言葉を伝えるのが怖くて、でもちゃんと届いていて泣きたくなった。

 だから期待してくれる人のために精一杯頑張ろう。

 そう思っていたはずなのに。


「……初心忘るべからず、だね」


「迷子は見つかったようですね」


「うん」


 顔を見られないように俯いたまま返事をする。

 最近の私は色々な声に惑わされて上手くやろうとしていた。

 声優のお仕事も歌も成功しなければいけない。

 求められている役割は果たさないといけない。

 与えられた仕事を上手くこなそう。

 そんな義務感が先行していた。


 ショーは楽しい場所でなければいけない。

 それなのにいつの間にかお仕事になっていた。

 自分が楽しむことを忘れていた。

 どうすれば相手に楽しんでもらえるのか考えていなかった。

 自分が伝えたい言葉も飲み込んでいた。


 だから息がつまっていた。


 今カチリと歯車がかみ合った気がする。

 ズレていた心と体が重なった。

 ゆっくりと。

 確実に全身を巡り始める。

 演技することを楽しんでいなかった。

 歌っている間もずっと上手く歌えているかを気にしていた。

 配信前のルーティーンも崩れていた。

 自分らしさを模索する以前の問題だった。

 いつも通りにできていないんだから、自分らしくなくて当然だ。


 デビュー配信のときはどうだっただろうか。

 上手くやろうなんて考えていなかった。

 社交性が皆無な私には上手な配信なんて無理だと断言出来たので割り切れていた。

 だから暴走型。

 自分の世界に閉じこもっていた私の苦肉の策。

 最初から周りを自分の世界に巻き込むつもりでやっていた。

 常識的な世界で上手くできる自信がなかったからだ。

 どうして今更になって、多くの人の期待に応えようとしたのだろう。

 常識的な優等生になれると勘違いしてしまったのかもしれない。

 自分を見失うのも当然だった。


 ダメダメな自分を再確認できた。

 だからもう十分だ。

 積み重なったバグまみれの真宵アリスを一度アンインストールする。

 アンインストールできたら初心に戻るための再インストール。


 自分がいいと思ったモノ。

 参考にしたいこと。

 模倣するべき技術。

 今まで積んだ経験を取捨選択してアップデートだ。


 私は思い悩み引きずってしまう性格だとわかっていた。

 だから配信前のルーティーン。

 自分を入れ直すつもりで『インストール』という言葉をルーティーンに組み込んでいた。

 それなのにそのことさえも怠っていた。


 アップデートには時間がかかるのでまだ途中だ。

 でも久しぶりに頭がスッキリした気がする。

 今の自分ならたぶん大丈夫だ。

 歌える気がする。

 演技もできる気がする。

 でもその前にまず大切なことがある。

 大事な仲間からもらった今日の経験を最優先でアップデートしないといけない。


「ねえセツにゃん。リズ姉。ミサキさん」


「どうしたんですか?」


「今日はありがとうね。こうして集まってくれて。実はかまってもらえて嬉しかった」


「そっか。ならよかった。さっきも言った通り私は楽しんでいる。もちろんリズ姉もセツナちゃんもね。だから気にしなくていいよ」


「うん。ミサキさんの言う通り楽しむって大切」


 たぶん一番大切な行動指針だ。

 ミサキさんはそこがブレることがない。

 強い人だ。


「リズ姉もコンプレックスを語ってくれてありがとう」


「いいのいいの。あたしのコンプレックスは『容姿で評価を決められたくない』っていうただの我がままだから。深刻でもないし」


「でもどうしても受け入れられないことがある。だからそれ以外の道を歩む。コンプレックスは抱えたままでもいい。自分を隠すことで自分らしく在れる。こういう生き方は凄く参考になったから」


「……真っすぐに褒められると照れるわね」


 自分が自分らしく在れる生き方をすることが間違いなはずがない。

 コンプレックスは克服しないといけない。

 そんな思い込みはとても疲れてしまう。

 抱えたままでも自由になれる世界があるならばそれでいいではないか。

 無理に自分を曲げて、常識に自分を当てはめようとするから壊れていくのだ。


「それからセツにゃん」


「なんですか! いつでもアリスさんからの誉め言葉絶賛受付中です! 今回の私はかなり頑張ったと思いますよ!」


「……セツにゃんはやっぱり自分を見直した方がいいと思う。好きを貫くのはいいけど、自分らしさに他人の布教が入っているのは残念だと思う」


「この流れで注意された!? ここは褒めるところじゃないんですか!」


「セツにゃんはもう少し自分の良さアピールした方がいい。本当にセツにゃんはとても頭が良くて、凄く優しいいい子だから。もちろん残念なところもある。その残念さが可愛いところだと思う。でも残念さを全面に押し出すのは違うと思うの」


「これは褒められている? それとも貶されている? ……これはもしかして! アリスさん内の好感度が一定以上になったため、遠慮がなくなり時折出るという伝説のアリスさん暴言では!」


「……そういうところが残念なんだよ?」


 そっと顔を上げて皆を見る。

 今の私は心の底から笑えている。

 そう確信できる。

 自分の素直な気持ちを伝えよう。


「今日は本当にありがとうね。私は皆のことが大好きだ」


「…………」


「………………」


「……………………」


「えっ? 急に黙り込んでどうしたの? もしかして私泣いてる? 涙で出て変な顔になってないよね?」


 顔を上げて告白すると、皆が驚いた顔をして固まった。

 これは予想外だ。

 別に涙で顔がぐちゃぐちゃになってもいない。

 少しして最初に復活したのがミサキさんだった。


「……なるほど。最近サバゲーのお仕事で着ぐるみパジャマ先生が連呼している『萌え』という概念。私には難しかったんだけど、今ようやく理解できた」


「萌え?」


「ハートを撃ち抜かれるほどの衝撃的かつ過剰な『カワイイ』攻撃。これが萌えだね。火力が違う」


「……ミサキさんなに言っているの?」


 ミサキさんの言動がおかしい。

 なぜ納得した表情で頷いているのだろう。

 次にリズ姉が動き出した。


「……奇遇ねミサキさん。あたしも似たようなことを考えたわ」


「リズ姉?」


「普段無表情がデフォなメイド服の美少女に満面の笑みで『大好き』と言われる。頭の中で『このメインヒロイン以外絶対に勝たん』という架空のギャルゲーがダウンロードされた気分。アリスちゃんをヒロインで作ったら絶対に売れる」


「……リズ姉がセツにゃんみたいになった」


 リズ姉が自分の大きな胸を押さえながらなぜか陶酔している。少しいけない人だ。

 私はどうすればいいのだろう。

 ミサキさんもリズ姉もたぶん駄目だ。

 セツにゃんは確認しなくてもわかる。

 この二人がこの調子ならばセツにゃんは絶対に外さない。

 きっとろくでもない。

 ……うん今日のグランピングは終わりにしてもう帰り支度を始めよう。

 けれど私の行動は遅かった。

 セツにゃんが急に飛び上がったのだ。


「アリスさん!」


「な、なにセツにゃん」


「式場はどうしましょう!」


「……式場?」


「その前に婚姻届ですね! わかりました。今すぐ役所に行って本名、本籍、必要項目全て記入し、実印を押してきます!」


 やっぱり予想は裏切られなかった。

 どうしよう?

 セツにゃんの様子がかなりおかしい。

 身の危険さえ感じる。

 でも伝えるべきことは伝えないといけない。

 すでに経験済みなのだから大変さはわかっている。


「セツにゃんストップ! 記入済み婚姻届はダメだよ。処分するの大変なんだから!」


「……処分が前提なのね。婚姻届」


「すでに一度もらったことがあるのが凄いよね」


 うん。あれは非常に困るので受け取れない。

お読みいただきありがとうございます。


毎日1話 朝7時頃更新です。

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[一言] 出た! アリスの対人リーサルウェポン大好きだ砲 この破壊力はつおい
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