第84話 三期生オフコラボ配信③-なぜか流行らないアレ-
再び虫の話題を出されていじけた真宵アリス。
ついに世界ベッド緑化計画実行に乗り出す。
ギリースーツを身につけてベッドでだらける姿はまさに草むら。
隠れる気など微塵も感じさせない強烈な存在感を放っていた。
そんな真宵アリスの上に桜色セツナが芝生に寝そべるように覆いかぶさる。
真宵アリス:「うぎゅ」
桜色セツナ:「あ……森林浴の香りがする」
真宵アリス:「そのままだと少しゴム臭かったから芳香剤入りで丹念に手もみ洗いした」
桜色セツナ:「やっぱり洗濯が大変なんですね」
真宵アリス:「……洗濯よりも干すときに少し困る。両面干ししないといけない」
桜色セツナ:「なるほど」
真宵アリス:「でもベランダに緑が生まれる」
桜色セツナ:「ベランダ緑化運動ですね」
リズベット:「違うと思うわよ!?」
:森林浴の香り
:ちゃんと匂いにも気を使っているんだな
:やっぱりギリースーツって大変なのか
:両面干し
:こういう生活感あるダラダラした会話がオフコラボって感じするな
:ギリースーツでベランダ緑化運動w
:さすがにリズ姉からツッコミが入ったw
:十代女子同士の突拍子のない謎の会話
桜色セツナ:「そういえばアリスさん。猫耳パーカーでいい製品知りませんか?」
真宵アリス:「セツにゃんも猫耳パーカー欲しいの?」
桜色セツナ:「はい。実は少し前からアリスさんと色違いのお揃いにしようと探していたんです。でもいいのが見つからなくて。アリスさんとお揃いならインパクトがないと! そう思ったら普通の猫耳パーカーでは物足りないんですよね。……本当はサプライズでやりたかったんですけど」
真宵アリス:「うーん……あっ!」
桜色セツナ:「なにかオススメがあるんですか!?」
真宵アリス:「セツにゃんにピッタリなの心当たりあるけど……今は売ってない」
桜色セツナ:「売ってない?」
真宵アリス:「えーとちょっと待ってね。ん……しょ……セツにゃんちょっと体ずらして」
桜色セツナ:「はい。これでいいですか?」
真宵アリス:「スマホ取り出せた。で、このサイトなんだけど」
桜色セツナ:「アリスさんがよく使っている『ファンタジックわん』っていうアパレルブランドのサイトですよね。私もそこは探したんですけど」
真宵アリス:「ここは売り切れ商品はラインナップから外すから。でも月別の商品欄からは確認できる。前に秒で売り切れた幻の猫耳パーカーがあったはず」
桜色セツナ:「秒で売り切れた幻の猫耳パーカー?」
真宵アリス:「確か三月限定商品だから。……あった」
桜色セツナ:「白猫なんですね。商品名は妖精の桜猫パーカー! もうこの時点で欲しくなりました!」
真宵アリス:「この商品も隠者の黒猫パーカーの派生商品。ちなみに今私が着ているのは野生の草猫パーカー」
桜色セツナ:「派生商品。野生の草猫。つまりこの桜猫ちゃんもリバーシブル?」
真宵アリス:「うん。裏返したのがこれ」
桜色セツナ:「可愛い! こういうのが欲しかったんです! 桜満開!」
真宵アリス:「桜吹雪迷彩。満開の桜の中でないと隠れることのできない本当に期間限定の偽装スキル。単純に可愛いから秒で完売した」
桜色セツナ:「うぅ……入手不可能ですか」
真宵アリス:「また季節になれば再販あるかも? 一応要望出しておくね」
桜色セツナ:「お願いします!」
リズベット:「……二人でベッドで重なり合いながら、同じスマホを眺めてファッションについて語らい合う」
七海ミサキ:「本当に仲のいい女子トークって感じだよね」
リズベット:「……それなのにどうしてこんなにも違和感しかないのかしら?」
七海ミサキ:「片方がギリースーツだからだろうね」
:これは濃度の高いセツアリ
:てぇてぇ
:二人って普段はこんな感じなのか
:仲いいな
:アリス御用達アパレルブランドファンタジックわん
:またサイト落ちそうだな
:幻の桜猫パーカー
:リズ姉www
:音声だけならてぇてぇのにw
:そういや片方ベッドの草むらだったw
:実際に見たら笑える光景なんだろうな
七海ミサキ:「さてもうそろそろ時間だね。お昼の準備しようか」
リズベット:「少し早くない? まだ十一時だけど」
七海ミサキ:「昼はこの施設のバーベキューだからね。場所はほぼ個室っていうぐらい隣とは距離は開いている。でも混む時間帯は避けた方がいいでしょ?」
リズベット:「……またアリスちゃんが子供に追い駆け回されても困るわね。二人ともバーベキューするって」
桜色セツナ:「はーい。アリスさんバーベキューですよ」
真宵アリス:「…………」
桜色セツナ:「アリスさん?」
真宵アリス:「……実はダイエット中で。私のことはいいから皆で楽しんできて。グランピングテントの中で留守番しておくから」
桜色セツナ:「嘘ですね」
七海ミサキ:「嘘だね」
リズベット:「またわかりやすい嘘を。アリスちゃんはもっと食べなさい」
真宵アリス:「全員即座に否定!?」
桜色セツナ:「外に出たくないだけですよね」
真宵アリス:「うぐ……実は私には全世界ベッド緑化運動協会会長としての責務があって。今もベッドに草を生やし続けないと他の会員に申し訳が立たない」
七海ミサキ:「ベッド緑化運動とは一体?」
桜色セツナ:「凄くわかりやすい嘘ですね。アリスさんが会長を務める団体なら私が加入してないわけがありません」
リズベット:「……なぜセツナちゃんが自信満々なのか」
七海ミサキ:「まあアリスちゃんの発言は無視するとして」
真宵アリス:「無視された!?」
七海ミサキ:「いやあんまり時間かけると昼食べ始める人が多くなるしアリスちゃんも困るでしょ? それにアリスちゃんにはバーベキュー以外で配信でネタになるような一品を頼んでいたよね。アリスちゃんは頼まれた仕事を放棄しないでしょ?」
真宵アリス:「……それを言われたら緑化運動は中断するしかない」
桜色セツナ:「アリスさんの一品料理! 楽しみです。どんなのですか?」
:もう昼か
:十一時って早いな
:配信用で収録しているからピーク時はずらすんだろ
:アリスのトラブル体質対策だったw
:アリスがダイエット?
:引きこもり少女アリスの抵抗
:全世界ベッド緑化運動協会会長ってなんだ?
:活動内容は全員でギリースーツを寝巻にすること
:全然緑は増やしてない
:セツにゃんが加入してないなら嘘だな(確信)
:アリスの一品料理あるんだ
:またメシテロか
真宵アリス:「施設の用意したバーベキューセットあるから今回は大したのは用意してない。だから期待されても困る。ちょっと待ってね。んっ! シュタ! 緊急脱出成功」
桜色セツナ:「アリスさんの感触が消えた!?」
リズベット:「えっ!? そうやって出てくるの!?」
七海ミサキ:「……あの一瞬でギリースーツを脱皮。セツナちゃんのホールドも抜けて、下から這い出てきた」
真宵アリス:「セツにゃんギリースーツの草むら収納よろしく」
桜色セツナ:「かしこまりました。……これちゃんと丁寧に折りたたまないと入らないですね」
真宵アリス:「今回用意したのはこのクーラーボックスに入ってある。今出すね」
リズベット:「これは……餃子?」
七海ミサキ:「餃子にしては大きいね。種類もたくさんあるし」
桜色セツナ:「あーずるいです。私も見たいです。でも草の収納がなかなか終わりません。どうしても綺麗に戻せなくて」
真宵アリス:「セツにゃん適当でいいよ。あとでやっておくから」
桜色セツナ:「……でも。そうだ! あとで草の収納方法教えてください。一緒にやりたいです」
真宵アリス:「了解。で、これの正体は餃子じゃなくてカルツォーネ」
リズベット:「カルツォーネ?」
七海ミサキ:「なにか聞いたことはあるような?」
桜色セツナ:「……見た目は本当に大きな餃子。カルツォーネって確かイタリア料理でしたよね」
真宵アリス:「セツにゃん正解。日本でいつ流行ってもおかしくない。雑誌などでも何度も推されている。でも一向にブームも来ないし知名度も上がらないカルツォーネ」
リズベット:「……なんだか酷い言われようね。美味しいの?」
真宵アリス:「美味しいけど普通。特別な美味しさはたぶんない。だってこれピザだし」
七海ミサキ:「あっ! ピザを二つ折りにした奴か」
真宵アリス:「うん。ターンオーバーや包み焼ピザとも言われるカルツォーネ。行ったことないから本当かは知らないけど、イタリアでは食べ歩き用として露店で売っているぐらい定番料理」
:脱皮w
:緊急脱出
:セツにゃんまだ上にのしかかっていたのか
:巨大な餃子?
:セツにゃんギリースーツの収納に手間取ってる
:複雑そうだからな
:草の収納方法w
:なるほどカルツォーネか(知らん)
:聞いたことはある
:推されてもブームにならず知名度も低いってw
:二つ折りピザか
:確かに美味しいけどピザ以上の美味しさもないな
桜色セツナ:「でもアリスさんが持ってくるということは配信のネタになるんですよね」
真宵アリス:「ネタになるかどうかはわからない。でも家で作り置きできて持ち運びも便利。調理方法も現地で焼くだけ。中身を工夫すれば汎用性も高くて味もいい。たまに家でピザ生地こねたくなったときに大量生産している。こんな感じで小ぶりに手のひらサイズにして、本当に餃子みたいにピッタリ包むの。冷凍保存も可能だし、軽く焼いておけば冷蔵でも数日は持つ」
リズベット:「たまにピザ生地こねたくなるの?」
桜色セツナ:「アリスさんらしいですね」
真宵アリス:「作っておくと本当に便利なんだよ? オーブンで焼いてもいいし、フライパンで焼いてもいい。揚げるとパンツェロッティっていう違うイタリア料理になるけど美味しい。ポイントは小ぶりに作ること。正直言って普通のピザサイズで作るとあまり美味しくない。大きいと生地に厚みが必要。そうしないと包むときに破れる。でも生地が厚いと二つ折りにしたときの食感がごわついて食べにくい。個人的には生地を薄く伸ばして手のひらサイズで作るのがベスト」
リズベット:「へぇ。考えられてこの大きさなんだ。さすがアリスちゃん」
七海ミサキ:「……ねえアリスちゃん。これって味は何種類あるの?」
真宵アリス:「今日持ってきたのは四種類です。モッツァレラチーズとベーコン。トマトベースのミートソース。卵黄ソースを入れたすき焼き。あと一種だけ保冷剤代わりに冷凍しているクリームチーズと林檎のコンポート」
七海ミサキ:「焼くのにピザ窯は必要?」
真宵アリス:「あれば便利だけどアルミホイルに包んで金網の上で焼けばいい」
七海ミサキ:「うん……うん! 完璧だね。さて昼御飯にしようか」
リズベット:「ミサキさん嬉しそうだね。なにかあったの?」
七海ミサキ:「今最近の悩みが一つ解消された。こういう気づきがあるなら、たまには大人数のキャンプもいいね。もちろん気のおけない仲間限定だけど」
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