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【第2巻発売中】引きこもりVTuberは伝えたい  作者: めぐすり
第三章 ーFor Dear Lifeー 一期一会編
54/218

第54話 第九種接近遭遇生配信①-碧衣リンの自己紹介アフレコ-

 第九種接近遭遇。

 この言葉の意味がわからないムーの読者はいないだろう。

 ムーの読者ならわかる。

 つまりほとんどの人は意味が解らないということだ。

 ちなみに私はムーを読んだことはない。

 たまたま知っていただけである。

 だが恐ろしいことに待機所にはネットの住人が集まっていた。

 このタイトルをネタにまさかの盛り上がり。

 配信前に思わず首を傾げてしまった。


:アリスは宇宙人と交流したわけだ

:まあアリス自身が宇宙人説もある

:つまり俺らは配信を通じて宇宙人と交流してた?

:話は聞かせてもらった

:人類は滅亡する!

:な……なんだってぇーーーーー!


 相変わらずの定番のやり取りだが、みんな事前に打ち合わせでもしているのだろうか。

 楽しんでいただけているならばなによりである。

 でも本日の配信に宇宙人ネタはない。

 第九種接近遭遇というワードだけで盛り上がられるのは想定外だった。

 配信始まったらお詫びと訂正をしなければ。


 配信の時間が迫っている。

 事務所の休憩室では真宵アリスへの切り替えが上手くいっておらず、出会い頭に固まってしまった。

 そのせいで二期生の先輩方にフォローされることになった。

 やはり私はまだまだ未熟者だ。

 息を整えていつものルーティーンを唱える。


『キャラクター真宵アリスをインストール』


 真宵アリスというキャラクターイメージを想起して自分に降ろす。

 結家詠としての思考は客観的な第三者に置かれる。

 意識の分割。メタ思考というらしい。

 配信の方法はVTuberによって人それぞれ違う。

 素のままの人もいれば、アバターのキャラクターになりきる没入型の人もいる。

 私の場合はメタ思考型。

 もう一人の自分を作って主観と客観を並列思考させて配信するスタイルだ。

 配信前の緊張が消えて、心がうずうずしてきたら真宵アリスが馴染んだ合図である。

 さあ今日もショーの幕は上げよう。


「やる気充電完了。お仕事モード起動。皆さまおはようございます。自分以上に暴走する先輩方に圧倒されて、自身のアイデンティティ喪失の危機を恐れる奮起型駄メイドロボ真宵アリスです。駄メイドロボは吞んだくれに勝てるのか! 残念という概念の擬人化には立ち向かうことができるのか! 私は必ず暴走型を取り戻す!」


 最初はいつもの明るい妹キャラボイスで丁寧に。

 そこから一気にヒートアップしてリスナーを飲み込む。

 始まる前からすでに待機所が盛り上がっていた。

 ならばこっちも相応のテンションで始めなければリスナーの空気感と齟齬が生じる。

 だからリスナーと空気合わせをする。

 空気合わせが完了したら、一転してクールダウンだ。

 平坦な声色の目隠れ少女系の声で謝罪する。


「そんなわけで今日は事務所内で二期生の先輩方と第九種接近遭遇した話です。タイトルから宇宙人の話を期待させてしまったリスナーの皆さま申し訳ございません」


:おはよー

:アリス以上に暴走する先輩?

:吞んだくれと残念w

:それだけで誰かわかるのが凄いw

:果たして暴走型は取り戻すものなのか?

:宇宙人の話はなしか

:ある意味宇宙人よりも未知との遭遇だから許す

:二期生はリスタート後一気に爆発したな


「リスナーの皆様もご存知と思いますが、今から虹色ボイス二期生の先輩方について紹介をさせていただきますね。本来ならば後輩の私が先輩方を紹介するなど恐れ多いのですが」


 二期生の先輩方は再始動を掲げている。以前と方向性が変わった。

 それを踏まえて私の配信中にアフレコで紹介してもらえば、より変化が強調できる云々。

 色々説明されたが二期生の先輩方が悪ノリして私にモノマネをさせたがっただけである。


「先輩方から私の配信アフレコで二期生の紹介をしてほしいとめいれ……ではなくお願いされまして。各人が思い思いの自己紹介ボイスを私に押しつけ……てはなく用意してくださいました。どうも全体的に『どうせ自分ではやらないし』という悪ノリが過ぎる気がしないでもないのですが。そんなわけで二期生の先輩方が絶対に言わない自己紹介をなぜか三期生の私がアフレコします」


 先輩方に文句は言えないけど無茶振りされました。

 そんな後輩の悲哀を強調することが私にできる精一杯の抵抗だ。

 伝わってほしい私の苦悩!


:二期生の紹介アフレコか

:本人たちが絶対に言わない自己紹介ボイスw

:悪ノリw

:無茶振りすぎる

:どこの世界でも後輩って大変なんだな

:二期生無茶苦茶楽しそう

:アリスにアフレコしてもらいたい願望は理解できる


「まずはクール系王道美少女。二期生きっての歌姫……を事務所は目指していた! 現在は残念という概念の擬人化とすら称えられ、なぜか演歌歌手としてアイドル声優もやっている碧衣リン先輩の自己紹介からです」


『……自己紹介ね。うーん朝起きて軽くストレッチ。

 そのあとテレビ会議で二期生のみんなと次のコラボをどうするのか打ち合わせしてしてた。

 今は二期生内でのコラボが中心だから最近はほぼ毎日このスケジュール。

 でも今日は午後から事務所で公式配信の打ち合わせがあってね。

 それで今ここにいるわけだけど』


 ポツポツと。

 碧衣リン先輩の声色を真似て、穏やかな口調で話は続いている。

 すでにコメント欄ではツッコミが入っているが無視する。


『寝巻から仕事用の外着に着替えて電車に乗る。

 そしたらなぜか多くの人から見られていてね。

 実は私にとってそういうことは珍しくない。

 前は頭にタオルを巻いたままで注目されたし、その前はお気に入りの『働いたら死ぬ』文字シャツで二度見された。

 だから今日もなにかしたかな?

 そう思って頭も服も確認した。頭は爆発もしていなければタオルもターバンも巻いてない。上は珍しくもない白いデザインブラウス。下も珍しくないジャージ。なぜ見られているんだろうと疑問だった。

 さっきまでは。

 アリスちゃんの視線で今気づいた。

 うん……上が白のブラウスに下が小豆色ジャージの組み合わせはおかしい』


「……色々とツッコミどころしかないので一つずつ。聞かされた時は先輩相手。さすがにツッコミを入れられなかったので」


 聞かされた時からずっとツッコミを入れたかった。

 溜め込んだ想いがついに解き放たれる。


「これ自己紹介! 自己紹介をしてください! 名前をどうして名乗らない!? 自己紹介ボイスですよね! 碧衣リン先輩がなにも思い浮かばなかったのはわかります。ノープランでその日のエピソードを朝から順番に話しているなと途中で気づきました。気づきましたけど! 本当に最後まで名乗らないのは予想外だった!」


 そこまで一気に叫んだのにまだ止まらない。

 碧衣リン先輩の残念さを表現するにはまだまだ足りない。


「引きこもりの私が言うのもあれですが碧衣リン先輩やらかし多すぎませんか。頭にタオル巻いたまま外出のうっかりまだ理解できます。シャワーでも浴びて髪を乾かす途中だったとか。でもターバン! ターバンを巻いて二度見された経験ってなに!? うっかりターバン巻くことがあるのですか!」


 あのターバンは一体どこから出てきたのだろう。


「あと『働いたら死ぬ』文字シャツは私も持ってました。今も実家にあると思います。それは置いておいて。出会ったときから気になっていた下がジャージの理由が明かされてビックリです。なぜ電車内で一度ジャージをスルーしたの? 確かにジャージの人がいないわけじゃない! ジャージだからおかしいとは決めつけてはいけない! 上が白のブラウスに下がジャージの組み合わせがおかしいという感性があって本当によかった! メイド服の私が言うのもおかしいけど!」


 ふう。溜め込んだツッコミを出し切った。

 スッキリである。

 少し落ち着こう。


「碧衣リン先輩はアバターだけじゃなくリアルでも見た目はクール系の美人さんです。だからこそ上が白のデザインブラウスで、下が小豆色の学生ジャージというファッションにとても驚きました。初対面なのにファッションであれほどインパクトある残念さを出してくるとは恐ろしい先輩です」


:アリス怒涛のツッコミwww

:自己紹介の概念が残念に塗り替えられた

:まあ碧衣リンの残念さを紹介するには正しい

:美人で歌も上手いのに一番のストロングポイントが残念だからな

:アリスの『働いた死ぬ』文字シャツは私も持ってましたも衝撃だけどな

:メイド服しか着なくなったから実家に置いて行かれた文字シャツ

:これまだ二期生一人目だよな

:え……このボケ倒しがまだ三人続くの?

:前の二期生ならばあり得なかったけど今の二期生ならあり得る

:お笑い集団として再始動したからな

:……それは再始動として正解なのか?


お読みいただきありがとうございます。


毎日1話 朝7時頃更新です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 先輩方に文句は言えないといいつつも黒い感情がそこかしこに見え隠れしているのがよき! あおりんは宇宙人以上に地球人離れしてる。さすが概念の擬人化w
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