第47話 三期生集合公式生配信⑧ー大惨事ネコミミ大戦ー
5/19(日)二話目の更新。
アバター連動型脳波感知式感情解析機能付きネコミミ。
脳波を読み取る感情センサーはすでに実在する。
感情センサーと連動してネコミミやネコ尻尾を動かすアイテムもすでに存在する。
今回試験的に実践投入されたのはアバターと連動する脳波感知感情解析機能付きネコミミである。
虹色ボイス事務所と某大学の研究室が共同開発している試作品だ。
感情を読み取り動くネコミミとネコ尻尾。リアルだと少しぎこちなさが残るが、バーチャル空間のアバターではヌルヌル動く。
それだけならただのアバターと連動して動くネコミミでしかない。
この装置の面白いところはネコミミが感知している感情をアバター側で表示して、アバターの動きにも変化を加える機能だ。
リアルタイムの感情の数値化と分析結果による感情の言語化。
それによってネコミミやネコ尻尾の動きが変化するまさにVTuberのためのアイテムといえる。
これはただのジョークグッズではない。
実はけっこう真面目な研究だ。
ネコミミは変化をわかりやすくするための付属品。
本質はアバターと感情センサーの連動実験にある。メタバースなど今後の仮想空間の発展と感情表現豊かな次世代のアバターに備えた研究だ。
そんな未来を見据えた実験装置が、この公式生配信で世の中にお披露目されたわけだが。
注目されるのはそんな新技術よりも、やはりネコミミアリスと猫語謝罪のみ。
今回のことは『大惨事ネコミミ大戦』としてトレンド入りすることになった。
真宵アリス:「……やる気はすでに枯渇気味ニャ。お仕事モードで無理して頑張ってみるニャ。みニャさまこんばんニャ。世界の理不尽さを痛感しているネコミミ型駄メイドロボ真宵アリスですニャ」
桜色セツナ:「みニャさまこんばんニャ。桜色に輝くいミャを大切にしたい桜色セツニャですニャ。現在私の脳内では桜が満開ですニャ!」
白詰ミワ:「登場だけで全てを持っていった挙句、まだツッコミどころしかないだと!? これが三期生の未成年エースコンビの実力だと言うの?」
竜胆スズカ:「まずネコミミに触れるべきか。猫語に触れるべきか。それともネコミミと連動してそうな画面に表示されている感情ステータスに触れるべきか」
胡蝶ユイ:「アリスちゃんの『羞恥』と『反省』そして……『傷心』。すごく気になるけど、これはいいとして。セツナちゃんの『歓喜』『本望』『仰げば尊死我が死の恩』ってなに!? これ感情の表示なの!?」
竜胆スズカ:「『死』という漢字が含まれたワードでいまだかつてこれほど幸せそうな言葉はあっただろうか」
リズベット:「セツナちゃん……アリスちゃんに会えた喜びで暴走しちゃったかぁー。完全に欲望のまま動いてる」
七海ミサキ:「そのネコミミって例のあれだよね?」
桜色セツナ:「はい! 虹色ボイス事務所が某大学の研究室と共同開発しているアバター連動型脳波感知式感情解析機能付きネコミミです! いい機会だったので試作品の実験投入モニターをさせていただいてます」
白詰ミワ:「アバター連動型脳波かんち……えーと」
桜色セツナ:「アバター連動型脳波感知式感情解析機能付きネコミミです。感情に合わせてリアルでもアバター上でもネコミミがピクピク、尻尾がクネクネ動きます。それだけでなく画面上でもリアルタイムで計測した感情を表示します。仮想空間の発展に備えて、いずれは感情を感知してアバターに反映させるシステムの構築が目標だとか。個人的に可愛いのでネコミミと尻尾が終着点でいいのですけど」
花薄雪レナ:「そのネコミミいいなぁ。他にないの?」
桜色セツナ:「残念ながら試作品は予備含めて二つまでです。アリスさんとお揃いになる権利は渡せません」
:ネコミミかわええ
:仰げば尊死我が死の恩はたぶん最高の人生の卒業ソングだな
:わが生涯に一片の悔いなし!
:綺麗な顔しているだろ……死んでいるんだぜ
:むしろセツにゃんは生命力を満ち溢れさせているけどな
:対してアリスはなんというかネコミミが垂れてて目が死んでる
:さっきの出来事で傷心だし
:ずっと反省とか遅刻したり直前で逃げたことを気にしてるんだな
:見ている側とすれば一日中真宵アリスだったが
:ちゃんと謝れてえらい
:ちゃんと?
:大惨事になるくらい可愛く謝れてえらい
:黒幕は欲望に負けたセツにゃん
:アバター連動型脳波感知式感情解析機能付きネコミミか
:感情が可視化されて羞恥に悶えながら目が死んでるアリスとかご褒美かな
:割とちゃんとした研究で草
白詰ミワ:「……あーうん。ネコミミのことはおいておくとしてアリスちゃん」
真宵アリス:「ニャンです?」
白詰ミワ:「無理して猫語しなくていいからね。今日のことで誰もアリスちゃんのことを責めたりしてないから。気にしなくていいのよ。こちらこそ無断で生配信の出演させたりしてごめんなさい」
真宵アリス:「……いえ。事情を聞いたら元々は私の遅刻が原因です。そこはちゃんと自覚して、私が反省しないといけないところです」
白詰ミワ:「…………」
竜胆スズカ:「ミワちゃんどうしたの?」
白詰ミワ:「……今日の出来事を振り返ってできる真宵アリス像と実物の真宵アリスのギャップに脳がフリーズしていたわ。普通にいい子なのね」
胡蝶ユイ:「アリスちゃんは普段は大人しくて真面目ないい子。なんだよねリズ姉?」
リズベット:「そうですね。聞き上手で礼儀正しい子ですよ」
白詰ミワ:「……それなのにゴリラ討伐」
竜胆スズカ:「こらミワちゃん。本人を前に変なこと言わない。アリスちゃんのステータスが『羞恥』『反省』『困惑』になっているでしょ。ネコミミもピクピクしてるし」
白詰ミワ:「……そのネコミミ割と便利ね」
:アリスは基本的に大人しくて真面目ないい子だよな
:常識外れの言動が目立つのにちょこちょこ育ちの良さが出てる
:それなのになぜゴリラを倒そうしているんだか
:その理由は収益化配信で語られているだろ
白詰ミワ:「アリスちゃん。ごめんね。それで一年ぶりの外出で色々……うん……一年ぶりと関係なく、本当に色々なことがありすぎたと思う。外出してみてどうだった?」
真宵アリス:「……すごく疲れました」
白詰ミワ:「……でしょうね」
真宵アリス:「でも収穫もありました。富士登山用の金剛杖がとても手に馴染む鍛錬にちょうどいい重さと長さだったんです」
白詰ミワ:「鍛錬って槍の?」
真宵アリス:「そうですけど……槍の鍛錬している話をしましたか?」
竜胆スズカ:「ミサきちから聞いた」
真宵アリス:「ミサキさんからですか。まだ目標には程遠く、拙い児戯のような腕前なので恥ずかしいです」
白詰ミワ:「恥ずかしがるところなの? ……そして目標に届いたらゴリラをやるのかしらこの子は」
真宵アリス:「ん? なにか言いましたか?」
:アリスは”基本的に”大人しくて真面目ないい子だよな
:育ちいいはずなのによく常識から逸脱する言動
:槍の鍛錬目的で金剛杖購入するなw
:対ゴリラ基準で児戯のような腕前
白詰ミワ:「えーと金剛杖以外にはなにかないかな?」
真宵アリス:「そういえばさっき事務所の休憩室で見つけたんです! ドラゴンブレイク自販機限定味の『白龍皇の癒し』と『炎獄龍の刻印』! 引きこもりには入手できない。そう諦めていたので嬉しかったです。一度に二本飲むのはさすがに無理だったんですけど、セツにゃんが手伝ってくれたんです。二本とも買ってさっき一緒に回し飲みしていたんですよ!」
白詰ミワ:「えっ! それでテンションが急にあがるの!? そんなネコミミがピンって伸びるほどに!? そして『白龍皇の癒し』と『炎獄龍の刻印』ってなに!?」
胡蝶ユイ:「アリスちゃんのステータス『歓喜』『おススメ』『布教』になった」
リズベット:「……セツナちゃんのステータスが『本望』『甘酸っぱさ』『後ろめたさ』になったのは触れないで置いた方がいいのかな」
桜色セツナ:「私の行動になに一つ恥じることはありません。けれど深く掘り下げないでいてくださると助かります」
七海ミサキ:「……感情ステータスが見える形で表示されるのは便利だけど怖いね」
花薄雪レナ:「『白龍皇の癒し』はヨーグルト味で『炎獄龍の刻印』はトマト味。ドラゴンブレイク愛飲者の世界では常識。個人的にはすでに発売禁止になった旧黒龍皇の『黒龍皇の絶望』がおススメ。甘ったるい炭酸コーヒー味で不味い。一度飲んだら本当に絶望が味わえる」
真宵アリス:「……それまだ冷蔵庫に保管してあります。すぐに代替わりした『黒龍皇の再誕』はガラナ味で普通ですけどね」
白詰ミワ:「え? え? ドラゴンブレイク愛飲者の世界ってなに? なんでそんな名前ついているの?」
真宵アリス:「ドラゴンブレイクの世界を掘り下げると話が長くなります。簡潔に言うと缶にQRコードの印字されたシールが貼っていて、専用アプリで読み取ると対戦型トレーディングカードゲームのカードが一枚手に入るんです。龍種ごとに読み取れるカードの種類が違うからそろえるのが大変で」
白詰ミワ:「まさかのトレーディングカードゲーム!? 飲料水の話ですらなかった!? 少し興味出てきたんだけど!」
花薄雪レナ:「ミワちゃん。そこを掘り下げると沼になるからダメ。今度教えてあげる。それより我が妹のアリスちゃん。……まさかあなたもドラゴンスレイヤー?」
真宵アリス:「『も』ってことはレナ様もですか。こんなところでドラゴンブレイク愛飲者。いえデッキ構築に成功したドラゴンスレイヤーに出会えるなんて」
花薄雪レナ:「色は? 私は白龍皇」
真宵アリス:「……黄色か黒。覇道真龍と黒龍皇です」
花薄雪レナ:「色違いのドラゴンスレイヤーが出会ってしまったなら妹と言えど容赦しない。いざ尋常に――」
真宵アリス:「――デュエルスタンバイ」
竜胆スズカ:「――はいストップ! 今生配信中だからね! 長くなりそうなのはストーーーップ! アリスちゃんのステータスも『歓喜』『布教』『闘争心』になっているから抑えてね」
:相変わらずドラブレ好きだな
:『白龍皇の癒し』と『炎獄龍の刻印』ってw
:回し飲みに後ろめたさを感じるセツにゃん
:トマト味だから甘酸っぱさと後ろめたさは仕方ない
:後ろめたい味ってなんだw
:そりゃあ……罪の味だろ
:コーヒー炭酸味は日本の飲料水メーカーのタブー
:え? ドラブレって対戦型トレーディングカードゲームできんの?
:特に宣伝もしてないし知らない人多いんだよな
:マイナー過ぎてカード集めても対戦する相手がいない
:ドラゴンスレイヤー同士が相対するところさえ始めてみた
白詰ミワ:「一年ぶりに外に出た感想を聞いたら……金剛杖に自販機限定の飲料水に対戦型トレーディングカードゲーム。えーと……初めて事務所に訪れてどうだった? 休憩室の自販機以外で。多くのスタッフと顔を会わせたはず……って追い駆け回されてたんだから良い印象はないよね」
真宵アリス:「うーん中学時代を思い出しました」
胡蝶ユイ:「アリスちゃんの中学時代って例の暗黒時代?」
真宵アリス:「その狭間のマスコット時代です。時計の針が十三時を示すとき、私を膝の上に乗せていた者に幸福が訪れる。無病息災、合格祈願、恋愛成就なんでもござれ。なんてデマが全校に広まってしまってですね。毎日昼休みに十三時まで襲い掛かってくる全校の女子生徒から逃げ回る日々です」
竜胆スズカ:「すでに大人数から追い駆け回されることまで経験済みだった!?」
真宵アリス:「十四の昼……私が残した足跡はまだ母校の壁や天井に残っているのでしょうか?」
白詰ミワ:「なぜそんな遠い目をして尾崎豊のような台詞を……。いや壁や天井!? どうやって残したの!? どんなアクロバティックな逃げ方をすればそんなことに!? ある意味盗んだバイクで走り出すより驚愕だよ!?」
七海ミサキ:「……アリスちゃんはそんな頃からアリスちゃんだったんだね」
:†暗黒中学時代†
:マスコット時代ってw
:時計の針が十三時を示すとき膝の上に乗せていた者に幸福が訪れるは確かにマスコット扱い
:全校の女子生徒から逃げ回るアリス
:十四の昼www
:壁や天井に足跡ってホラーかな?
:なるほどホラー映画もアリスの仕業か
:もしかしてゴリラを倒すための修行とか関係なくただアリスだから身体能力が高いのでは
:とうとう気づいてしまったか
:もはやただのアリス劇場
:今日はずっとアリス劇場だからな
白詰ミワ:「よし。もう単刀直入に聞くね。アリスちゃん欠片でもいいから、今後も外出することを検討してくれる気になった? 引きこもりを脱却するぞ、みたいな」
真宵アリス:「正直疲れたので、しばらく引きこもりたいです」
胡蝶ユイ:「だよね。今日一日トラブル続きだったし」
真宵アリス:「……でも外に出ないと得られない収穫物もありました。たまになら外出してもいいですね」
白詰ミワ:「本当に! 本当だよね!? ……良かった。今日は事務所命令でアリスちゃんを外出させたようなものだったから。嫌な思いをしました。また引きこもります。二度と外出しません。そんな風に後悔されていたらどうしようかと思っていたの」
:ミワちゃん気にしてた
:事務所に挨拶させるために無理やり外に連れ出したんだったな
:無理やり外出させて「嫌な思いしかしませんでしたのでまた引きこもります」だとな
:一日外出するだけでどうしてこんな大騒動に
:(トラブルの)神様の寵愛を受けし娘
真宵アリス:「ただこれだけは言わせてもらうと」
竜胆スズカ:「言わせてもらうと?」
真宵アリス:「……ねこ姉の車には二度と乗りたくないです」
「「「「「「「うん。それはわかる」」」」」」」
この発言は満場一致で可決された。
こうして真宵アリスのたまの外出時には事務所から送迎の車が用意されることになる。
一期生三期生全員集合オフコラボはなおも続き、大好評のまま幕を閉じた。
第二章はこれにて完結。
第一章とはがらりと空気が変わったドタバタコメディですね。
ちなみに2024年7月電撃の新文芸から発売の第二巻では、追加書き下ろしのエピローグなどもあり、ちゃんと感動できる話になってます……この流れでストーリーをなにも変えずに、感動できる内容に仕上がってます。
続巻のためにご購入お願いします。
また一区切りとして、評価、レビュー、応援などがもらえれば嬉しいです。
続く第三章は更なる混沌とメシテロ回になります。
とうとう虹色ボイス事務所一番の問題児である二期生の四人が登場します。
ある意味一番濃いです。
問題児で一番の苦労人枠。
混沌とした活動の裏に感動のエピソードもあるのですが、書かれているのは第五章。
第三章はボケ倒してます。
次章幕開けも毎日1話 朝7時頃更新です。
第一章は序章、第二章第三章は起承転結の承、下準備が終わった第四章の声優挑戦編から感動のヒューマンドラマや人間的な成長の色合いも濃くなります(コメディ色は薄めず)
今後とも『引きこもりVTuberは伝えたい』をよろしくお願いします。




