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【第2巻発売中】引きこもりVTuberは伝えたい  作者: めぐすり
第二章 ーIt takes all the running you can doー 迷走コラボレーション
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第40話 迷走コラボレーション③ー桜色セツナside with七海ミサキー

 そのスナークはブージャムではない。

 そもそもアリスさんはスナークではなく、アリスさんだ。

 誰も消え失せはしないし、不幸な結末も起こらない。

 バンダースナッチのように素早く、チェシャ猫のように神出鬼没かもしれないが、アリスさんも人間のはず。

 不思議の国の住人疑惑は否めないが、捕まえられないはずはない。


「やっぱり正面からだと無理だね」


「ミサキさんでも無理ですか?」


「無理。技術も手数も読みも、なにもかもがアリスちゃんの方が上」


 身体能力の面では七海ミサキさんは三期生の中で抜群に高い。上限知らずのアリスさんを除けばの話だが。

 ミサキさんは高校時代は陸上部。

 短距離走で県大会の決勝までは常連だったらしい。何度か全国大会にも出ている。本人は高校時代に陸上をやり切った結果「自分には才能がないと見切りをつけた」と言っていた。

 ミサキさんは謙遜しているが立派な経歴なのは間違いない。

 比較対象が全国トップレベル。上には上がいるだけで、全国大会まで出場した人が才能がないはずがないのだ。

 そのミサキさんが無理だと言った。


「もちろんアリスちゃんと短距離走で勝負すれば、余裕で勝てるよ。あの黒猫パーカーのサイズが大きすぎて走りにくそうだし。アリスちゃんは実はそれほど速く走ってはいない」


「あれでですか!?」


 まさかのハンデ戦だったとは。

 それでも勝てる気がしない。


「正面からどれだけ追い詰めてもアリスちゃんの守りは突破できない。実は何度か体勢を崩した隙をついて手を伸ばしたんだけどパリイされたからね。こっちの攻撃を見てからの反応。なのに余裕で弾かれた。回避力も高いけど、本当に問題なのはあの防御力の方だよ。受けに回られると触れることができる気がしない」


「それはゲームとかの話ではないのですよね?」


「格闘ゲームならたぶんフレーム単位で見切られてる。すれ違いざまのアリスちゃんの証言だと『小動物の本能が私に触れようとするあらゆる動きを教えてくれる』って言っていたね。あの後ろに目があるんじゃないか疑いたくなる動きもたぶんそれ」


「……小動物の本能。確かアリスさんは中学時代で小動物レベル五十でしたか」


「今はカンストしてゴリラハンターやジャイアントスレイヤーとかに転職してそうだけどね」


「見事に戦闘職ですね。メイドから上位職の戦闘メイドに転職している可能性も捨てきれません」


「アリスちゃんは攻撃的なものは一切封印しているみたいだから、戦闘を警戒しなくていいのは幸いだね。こっちはただの配信者と事務職だし」


「男性陣はあらかじめ逃げて正解でしたね」


 なぜだろう。

 アリスさんの話をしていると現実が遠くなることが多い。

 不思議の国に迷い込んだ気分だ。なぜアリスさんが不思議の国にいざなう側なのだろう。

 時計ウサギはどこに行った?

 急がなきゃ。遅刻しちゃう。と事務所に遅刻して登場したのもアリスさんだった。

 心が折れそうだ。


「アリスちゃんを捕まえられるとしたらセツナちゃんしかいない。頑張ってね」


「私ですか?」


 無力感に苛まれていると、予期しない言葉を告げられた。

 私はパリイ未経験。おしいところまで手を伸ばしたのはミサキさんだ。

 勝負になっていない。


「アリスちゃんはセツナちゃんに向かうときは楽しそうにしている。その証拠にセツナちゃんにタッチできるタイミングがあっても見逃している。アリスちゃんはセツナちゃんに対しての判定が甘い」


「単純に相手にされていないだけでは?」


「それだったら即タッチで退場させられているよ。アリスちゃんはセツナちゃんに捕まえて欲しいと思ってる。だから気持ちで負けちゃダメだよ」


「……アリスさんが私に捕まえて欲しいと思っている」


 その言葉で心に再び火が灯る。

 配信ではずっと真宵アリスの背中を追っていた。

 技量が劣っている。声の幅が違う。話の組み立て方が拙い。アリスさんに比べて劣っていることはわかっていた。アリスさんの背中は遠い。

 私が成長して理解が深まるほどに遠い背中だと痛感させられた。

 それでも諦めず追い続けている。だからこそ今も私は桜色セツナを名乗っている。

 甘えでも手加減でもなんでもいい。

 アリスさんが私に捕まえて欲しいと思っている。

 ならば応えるのが桜色セツナだ。


「目に力が戻ったね。じゃあ次の作戦に行こうか。こちらをタッチするときを除けばアリスちゃんは基本的に三つの行動しかしてない」


「三つですか?」


「逃げと回避と防御。逃げはその場から走り去る行動。回避は相手の出方を見て避ける行動。防御は相手の攻撃を見て弾く行動」


「それだけ聞くと一般的な防御行動ですね」


「ソフトタッチ以外で反撃とかしてないからね。そしてアリスちゃんが回避と防御に回った時は触れることができないと思った方がいい」


「残されているのは逃げ? でもおかしくないですか。今まで何度もアリスさんが走っている前に待ち伏せしてますけど」


「それは走っている状態であって逃げではないよ。いわばニュートラルかな。待ち伏せしたら当然アリスちゃんは防御スタンスが回避に移行する。だから触れることができない。逃げは一度足を止めてから、走り出して一定のスピードに乗るまでのわずか数秒間のこと。それ以外のタイミングだと全て防がれると考えた方がいい」


「……アリスさんはロールプレイングゲームの初見殺しボスですか?」


「避けないと確定で戦闘不能にされる大技を放ってこないだけ良心的だね」


 ボスが繰り出す大技を必死で避けて、ボスが大技の反動で動きが止まっているとき以外はダメージを与えることができない。ロールプレイングゲームのボスキャラあるあるだが、まさかアリスさんに適応されるとは思わなかった。

 今までのアリスさんの動きを見て、ミサキさんの説明に納得できてしまうのがなんとも言えない。


「短距離直線ならばセツナちゃんはアリスちゃんよりも速い。だから――」




お読みいただきありがとうございます。


毎日1話 朝7時頃更新です。

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― 新着の感想 ―
あれ いつの間にかアリス自身が鬼ごっこ楽しんでないかなコレ
[良い点] この『…鬼ごっこの話だよね?』っていう、本人達『は』真剣なノリが好き。
[一言] アリスによって不思議の国に誘われるというのがある意味この物語の本質ですよねぇ
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