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【第2巻発売中】引きこもりVTuberは伝えたい  作者: めぐすり
第一章 ーThe Show Must Go Onー
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第4話 デビュー生配信③ーこれはただのドラゴンブレイクですー

 配信者にとってチャンネル名とはブランドだ。


 大切なのは覚えやすさ。配信内容のわかりやすさ。そして差別化。

 専門チャンネルならば専門分野アピールして方向性を絞るチャンネル名にすることで視聴者を誘導する。

 では活動内容が多岐にわたるにVTuberはチャンネル名はどうするのか。

 チャンネル名の多くがアバター名だったりする。


 アバターというキャラクターを持つVTuberの最適解。

 覚えやすさ。わかりやすさ。差別化。全てを満たせていた。

 しかし、それも過去の話だ。ブーム到来でVTuberは一気に増えた。そのためアバター名だけでは差別化ができない。今は肩書、ファンネーム、開始のルーティーンなどで特徴付けを行うことが多い。

 ただアピールするだけではなく、他のVTuberとの差別化がこそが重要なのだ。


「いいですね。『アリス劇場』採用。チャンネル名は『真宵アリス劇場』に決定」


:チャンネル名が変わった

:真宵アリスちゃんねるだったのに

:確かに劇って感じだからな

:劇場型配信っぽい


 評判は悪くない。むしろ共感が多い。

 真宵アリスのキャラクター性と配信の方向性が受け入れられた手応えがある。


「好評いただいてよかったです。『真宵アリスちゃんねる』だとデビュー寝坊配信や居眠り配信してやろうかと悩んでいたから」


:この暴走型なに考えてやがったw

:普通に事故

:アリスちゃん寝る

:目覚めないメイドロボ

:チャンネル名変えて正解

:アリスに与えてはいけない名前


「さてチャンネル名も決まったし、そろそろ今日のノルマは達成です」


:ノルマ?

:なんか課せられてたの

:チャンネル名変えるのが?


「デビュー配信どうすればいいの? そうマネージャーさんに尋ねたら『気負わずに丁寧に自己紹介と自己アピールしなさい。インパクトを与えようと奇をてらったことをして空回り。そんな失敗パターンが一番怖い』とアドバイスもらいました」


:なんかわかる

:初手炎上は嫌われる

:初回から寒い空気流れるとね

:アリス全然守ってねーじゃねーか

:まともな奴はゲリラ先行ライブとかやらん


 アドバイスと配信内容の乖離。コメント欄で笑い話になるなら奇襲は成功だろう。

 真宵アリスの瞳からハイライトが消えて無表情に戻る。

 たぶん素の結家詠に一番近い。

 詠に戻ってしまうと本当に喋れなくなるが。


「でも私は自己紹介や自己アピールとかが死ぬほど嫌いです。陰キャだし、学校とかでも嫌で吐きそうになるタイプでした」


:……お、おう

:急に死んだ目に

:トラウマ刺激した

:わかりみ

:陰キャに自己紹介はつらい


「私からネタと勢いを奪ったら放送事故になりますよ。なにも喋れない。沈黙の黙示録です。黒歴史どころか本当になかったことにされます。待機者一万人超えとかあり得ません。本番直前に頭痛と腹痛と吐き気に襲われました」


:そう言われるとアドバイスが無理筋

:胃薬と頭痛薬いる?

:かなりやばい状況で配信したんだな

:一万人の前で喋るのは陰キャじゃなくてもきつい


「一年間引きこもっている陰キャコミュ障舐めちゃダメです。我この一年喋ったのねこ姉とマネージャーの二人だけぞ? 直前になってバズるし、ねこ姉の裏切り者。バズって二万人ってなんぞ? 見渡す限りねこ姉とマネージャーが一万人ずつ埋め尽くすの? かぼちゃやニンジンでもホラーだよ。カロテン豊富どころじゃないよ。野菜人によって人類終焉するよ。やっぱりサイヤ人はゴッドなの?」


:これガチか

:一年間引きこもりの陰キャコミュ障ってマ?

:この配信も拡散されて三万人逝ってるな

:喋れてえらいガチで偉い


 突然の告白に盛り上がりが増すコメント欄。確認してなかったが、同時接続者数はなぜか増えていて三万人を突破している。

 時計を見ると、予定されていた本来の開始時刻が近づいていた。


「さて『気負わずに自己紹介と自己アピールしてください』も終わったのでお仕事モードも終了」


 そのままカメラの前から去り、部屋においてある小型の冷蔵庫からエナジードリンクを取り出す。


:え?

:配信終了?

:切り忘れ?

:生活音が聞こえてくるんだけど。

:足音と冷蔵庫を開ける音?


 カメラの前に戻ると、案の定コメント欄は勢いよく流れている。

 そのままプルタブを開けて、ゴクゴクと喉にエナジードリンクを流し込んだ。


:飲酒?

:ヤバいんじゃないの?

:アリス未成年って言っていたし

:本当に放送事故?


 盛り上がるのはいいけど炎上をダメだ。

 さすがにやりすぎた気がしたので、すぐさま訂正する。


「困惑させてごめんなさい。終了でも切り忘れでもないので安心してください。ひと段落ついたら喉が渇いただけです」


:あーよかった

:急に去るからビビった

:この暴走型は本当に何するかわからないから

:なに飲んでたの?

:まだ安心するには早い

:未成年で飲酒はダメ


「そちらも大丈夫です。一応缶で成分を確認して……アルコールは入っていません。これはただのドラゴンブレイクです」


:よか……ってやっぱりヤバい飲料じゃねーか

:ドラブレwww

:下手な酒よりヤバい

:エナドリ界のドクペ

:……ただでさえヤバいエナドリのドクペとは一体?

:なぜあれに年齢規制ないのか

:悲報『真宵アリスデビュー配信でドラブレをキメてしまう』

:やっぱり放送事故だった

:これは切り抜きって……今のところ切り抜かれないところがない

:振り返ると事件しかなくママが一人生贄になっている


 猫かぶりな妹ボイスやめて、年相応のけれど落ち着いた声音を作る。

 引きこもり宣言したのにハイテンションな配信を続けても痛々しいだけになる。


「皆さん落ち着いてください。もうそろそろ時間です」


:時間?

:なんの?

:あーわかった

:まだ始まってなかった


「さんにーいち。改めて……皆様初めまして。世界に叛逆を目論む引きこもりの陰キャな堕落型駄メイドロボ真宵アリスです」



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