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【第2巻発売中】引きこもりVTuberは伝えたい  作者: めぐすり
第二章 ーIt takes all the running you can doー 迷走コラボレーション
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第30話 勝利報告生配信⑤ー同期アフレコ_覚醒のセツにゃんー

 人生の転機はいつ訪れるかわからない。


 結家詠の人生が変わったのはVTuber真宵アリスになったときだろう。

 その道に進むきっかけを転機と呼ぶならば、ロリコーン事件が人生の転機となる。ネット冤罪を晴らす手段を思いついたのがそのときだ。

 けれどロリコーン事件はそこまで重要だとは思えない。チンコロ事件のネット冤罪の方が人生に与えた影響は大きい。

 それにデビューしてからの日々の方が自分の成長を実感できる。

 一つ一つの積み重ねが今の自分を構成している。

 これが人生の転機。そう認識できる人の方が少ないのかもしれない。


 それでも人生の転機は確かにあるらしい。

 全身に衝撃が走るほどの出会いだった。あなたと出会えたから私は変われた。

 桜色セツナは目を輝かせながらそう語る。


「ストイックなまでの努力家。クールで真面目かと思えば割と悪戯好き。三期生を姉妹で例えるとしっかり者の四女です。私よりほんの少しだけ背が高い。拳二つ分ほど高くとも四女です。一つ年下ですから妹です。そんな桜色セツナことセツにゃんの収益化配信は始まりからアフレコスタート」


『皆様おはようございます。桜色に輝く今を大切にしたい桜色セツナです。本日は収益化記念配信にお集まりいただきありがとうございます。けれどまだ収益化設定をしておりません。皆様は私の同期である真宵アリスさんの収益化記念配信を見ましたでしょうか』


 冒頭からいきなり私の名前が出てくるのは気にしてはいけない。

 ここで気にしたらダメだ。後半の方が酷い。


『当然見たはずです。見てない方は私の配信を抜けていいので見てきてください。感動しますから』


「……なぜ自分の配信より私の配信を薦めているの? こんなの絶対おかしいよ」


:冒頭から糞ワロタwww

:アリスのツッコミw

:桜色セツナってこんな感じだったか?

:デビュー配信ではもっとちゃんとしてたような

:デビュー配信の桜色セツナはセツにゃんから嫌われているからな

:収益化配信が一番ぶっ飛んでたけど前からアリスとのてぇてぇトークが多かった

:配信スタイルをアリスに寄せて行ったと思ったら一気に突き抜けたんだよ


 配信では桜色セツナがコメント欄を確認して頷いている。


『コメント欄を見る限りほとんどの人がアリスさんの収益化記念配信を予習してますね。さすが私のリスナーです。ならば私が収益化設定をしていない理由はもう察しているでしょう。私も皆様に話さなければいけないことがあるのです』


「どうしてリスナーも私の配信で予習していることが前提なのかな?」


:アリスとこの温度差よ

:アリスは人付き合いに積極性がないだけでセツにゃんと仲いいよな

:本当に仲がいいのかセツにゃんの妄想疑惑が出たときもすぐに駆けつけたアリス

:いまだにコラボしてないのが不思議なくらい

:事務所的には収益化でコラボのテコ入れだっけ?


『もちろん私にアリスさんのような壮絶な過去はありませんよ。子役時代にそんなスキャンダルあったらバレてます。私が話したいのは汚点とも言うべき私のデビュー配信についてです』


「……子役時代とかそれだけで壮絶な過去だよね。それと比較されて壮絶と言われる私」


:アリスの過去はぶっ飛び過ぎてるから参考にならん

:汚点と言うほどデビュー配信失敗だったか?

:セツにゃんからすればつまらない駄作らしい


『デビュー配信の私はなんの覚悟もありませんでした。なんとなくの憧れで声優になりたいと口にした。すぐに声優が無理ならと薦められるがままVTuberになった。全ては子役だった氷室さくら時代のコネです。真剣に目指している人からすれば許されません。最低な愚か者です』


「実はこの部分。セツにゃんは三期生のグループチャットでも謝罪していました。全員のデビュー配信を終えた直後のことです」


 聞けば事務所のスタッフにも謝罪して回ったらしい。

 それから怒涛のレッスンスケジュールを組む。

 子役出身。芸歴は一番長い。それでも最年少だ。年下がひたむきに頑張る姿を見て、周りが奮起しないわけがない。


『デビュー配信のあとは事務所の人に「良かった」と褒められて満足していました。失敗はない。評判は悪くないスタート。でもそれだけ。なにも記憶に残らない。新人だから見逃されただけのつまらないデビュー配信です』


 無味乾燥な語り口。淡々と自分のデビュー配信をこき下ろす。

 見ている方が胸が締め付けられるような酷評は続く。


『あのような配信を続けていれば私は消えていたでしょう。声優もVTuberも考えの甘い子供が生きられる世界ではないんです。それを思い知ったのはすぐあとでした。アリスさんのデビュー配信です。衝撃でした』


:そんな言うほど悪くなかっただろ

:確かにアリスのデビュー配信は衝撃

:セツにゃんはアリスに傾倒しているからな

:ここからセツにゃん怒涛のアリス語り


『アリスさんが話すたびに次はどうなる? 先が読めない。でも期待感は裏切らない。声色の細やかな調整。声のトーン一つで話の盛り上がりなど全てが演出されていく。まるでオーケストラの指揮者。いつしかリスナーも配信の世界に没入する。これが生配信。ライブとはこういうものか。否応なく理解させられました。私のデビュー配信なんて台本を読んでいるだけの駄作です』


:次はどうなるではなく次はなにをしやがるだけどな

:暴走型と名乗って本当に暴走していくスタイル

:でもアリスって無計画どころかちゃんと計算してやっているんだよな

:デビュー配信ってそこまで求められるものなのか


『その衝撃はちゃんと数字に反映されます。ネットは正直です。私のデビュー配信後の登録者数の増加は微増。でもアリスさんのデビュー配信では登録者数が一気に何倍にも膨れ上がりました』


 配信前にねこグローブ先生作の待機場がバズって倍近くに増えていた。

 配信後はそこから約三倍の増加。合わせれば配信が始まる前から六倍近くの増加になり十万人を突破していた。

 非現実過ぎて実感がわかなかった。でも当時マネージャーがすごく上機嫌で喜んでくれたのだけは覚えている。


『しかも配信内で紹介された他の三期生の登録者数も倍に近い増え方をします。情けないことに私のデビュー配信のときよりも多かったんです。アリスさんのデビュー配信後の方が私の登録者数の増加幅が大きかった』


:改めて言われると凄いな

:バズると一気に増えるのはネットの特徴だけど

:三期生でアリスが特別扱いされている理由

:ここでラッキーとか思わなかったから今の三期生があるんだろうな

:誰一人として慢心せずに頑張ってる


『以前公式配信でリズ姉も語っていました。このままではいけない。今の評価は分不相応だ。アリスさんを除く三期生全員が焦燥感に襲われました。特に私は現実を見せつけられました。子役出身の知名度の上げ底なんて一瞬で抜かれたんです。なんとかなる。傲慢な思い込みをしていた私は恥ずかしくなりました』


「……実はこのとき私を除く三期生でリアルの決起集会があったらしいです。あとで教えてくれました。私ハブられてる」


:ハブられwww

:そりゃあアリス呼べないわな

:引きこもりだし

:事後でも教えてもらっているから愛されてる


『それから必死でVTuberのことも声優のことも勉強しなおしました。トークや演技についても一から学び直しです。子役時代のコネも使って色々な人にご教授を願いました。その中で私はVTuberを薦めてくださった先生にもう一度会いに行ったんです。本当に涙が出ました』


 ここで桜色セツナの声色が変わる。

 男性的な低めの声。もちろん声質には限界はある。私も少女から少年ぐらいの変化が限界だ。それを語り口だけで年配の男性だと印象付ける。


『いい目をするようになったね。こんなに早く変わるなんて思ってなかったよ。すぐに挫折して潰れると思っていたから。ネットは怖いでしょ。素直な反応がダイレクトに返ってくる。だれも言葉を濁さない。今の君なら声優事務所も紹介できそうだけど、紹介してほしいのはレッスン先でいいんだよね』


 桜色セツナのデビュー配信の全てが裏返る発言だった。

 紹介者は子役の氷室さくらを完全に見限っていたのだ。


『当時の私が甘ったれな子供なことを見抜かれていたんです。かなりオブラートに包んで「お前には無理だ」「声優になれるわけない」と拒絶されただけ。元子役と言う色眼鏡とか単価が高いとか私を諦めさせるための方便でした。一切期待されてなかっただけです』


 デビュー配信ではVTuberになることを薦められたと語っていた。

 桜色セツナ誕生のきっかけ。

 それが挫折と失敗。心が折れることを前提としたただの皮肉だった。

 知名度も実績も実力も全てを持っていたはずの子役の氷室さくらは終わった存在だと切り捨てられていた。


『本当にVTuberになるとも思われてなかった。当時は言葉の裏にも気づけない愚か者だった。けれどそんな私に対して変わったと言ってくださいました。今の私ならば紹介できると認めてくださいました。情けなさと嬉しさで涙が零れました』


 自分を否定する言葉。

 それを真正面から受け止められる人がどれだけいるだろう。

 桜色セツナはとても強い。


:うわぁ

:きついのか優しいのか

:潰れる前提でVTuberを紹介するとか

:かなり人を見る目はあるんだろうな


『そして先生の言葉で気づいたこともあります。私はアリスさんから夢ももらっていたんです。私も人を魅了できるような配信がしたい。声優は憧れの仕事です。仕事をもらえるならば喜んでやります。でもそれ以上に虹色ボイス所属の三期生VTuber桜色セツナとして活躍したい。それが今の私の叶えたい夢です』


:桜色セツナって最年少だよな

:現役の高校一年生だよ

:俺らその頃なにしてたっけ?

:言うな


『私の決意表明は終わりました。最後は尊敬するアリスさんの配信にならい座右の銘で締めます。言葉は以前から知っていた。そのときは気にも留めなかった。でも今の私にこれほど刺さる言葉はない。最近できた座右の銘です。鏡の国のアリスに登場する赤の女王より』


『It takes all the running you can do, to keep in the same place.』


『その場にとどまるためには全力で走り続けなければならない』


『これは赤の女王仮説として多くの学者に引用された一説です。生物の生存競争や国家間争いに引用されていますが今は関係ありません。私が言いたいのは配信者の世界にも当てはまるということです』


 ただ私の配信を真似ているわけではない。

 全て桜色セツナから生み出された言葉だ。手順や演出を真似ただけのまがい物では多くのリスナーから認められるわけがない。

 桜色セツナの言葉で発信しているから認められる。本物だから説得力が生まれる。


『ネットの世界は常に変化し続けます。発信し続けなければすぐに忘れ去られてしまう厳しい世界です。同じことを続けてもダメ。環境に適応して、全力で走り続けなければ生き残れない。人気も維持できない』


 元から努力家だ。子役としての下積みと経験がある。実力も実績もある。

 でも本人が言うのであれば心が未熟だったのかもしれない。

 足りなかったのは覚悟と本気の夢。

 桜色セツナは見事に開花した。


『虹色ボイス所属の三期生VTuber桜色セツナは私の夢です。同期にリズ姉がいて七海ミサキさんがいて、そして真宵アリスさんがいる。この環境が私の夢です。この夢みたいな今にとどまるために全力で走り続ける。それが現在の私の座右の銘です。以上です。収益化解禁しますね』


「以上、桜色セツナさんの収益化配信アフレコでした。興味を持たれた方でまだしていない方はチャンネル登録をお願いします。もうセツにゃんを子役上がりと色眼鏡で見る人もいないでしょう」


:今の桜色セツナってこんなに変わってたの?

:セツにゃんも凄かったけど再現できるアリスも凄い

:配信の流れはわざとアリスに寄せているけど引き込まれるものあるな

:配信を見ると子役時代の印象が桜色セツナに塗り替えられるぞ

:でも覚醒の部分だけで終わり?

:このあとが面白いのに

:なんかあったの?

:覚醒桜色セツナが覚醒セツにゃんになった

:突然始まったリスナーのコメント反映型企画「桜色セツナの真宵アリスと仲良くなりたい」がカオスに振り切った

:なんだそれwww

:アリスもコメントで参加して懸命にツッコミ入れてたぞ

:ヤバい見たいw


「……このあとが気になる方は桜色セツナさんのチャンネルを登録をして、配信を確認してください。私は絶対にアフレコしません。私は頑張りました! 頑張ってセツにゃんがリアルでネコミミ常備するキャラになるのだけは阻止しました。珍しく事務所からも褒められたんです!」


お読みいただきありがとうございます。

毎日1話 朝7時頃更新です。


そして重大発表!

2024/7 に電撃の新文芸より第二巻発売決定です。

現在投稿中の第二章の内容を大幅加筆修正に書き下ろしエピソードを加えた書籍版です。

WEB版はドタバタコメディを書くつもりで連載していたので、作品内比では第二章の感動要素は薄めなのですが(そのぶんかなり暴れてます)、書籍版ではしっかりと感動要素も補強されています。


第二巻発売前に発売中の第一巻も買ってください。

WEB版よりも大幅加筆修正(二万文字以上)されている完全版です。

昨今の出版不況もあり、WEBで完結していても売れないと続刊できないのですよね……

カクヨムで先を読んで「この作品は続きを出すべきか」判断してくださってから買っていただいても構いません。

常に新たな展開が続き、異なる成長、気づき、テーマが連続していて、最後には積み上げたものがまとまる作品になっています。

VTuberモノでは「いくらでも続けられる」「終わりがない」作品になりがちですが、本作は綺麗に完結します。

同じような展開が続き、続けるために新キャラを出すタイプの物語でもありません。

主人公の成長を描き切る作品です。

安心して続きを読んでください。


そんなわけで改めて作品と作者の紹介案内。


カクヨムの『引きこもりVTuberは伝えたい』ページ

https://kakuyomu.jp/works/16816700428600671727


作者『めぐすり』のX(旧ツイッターアカウント)

https://twitter.com/HxvbXa

よろしければフォローお願いします。

@HxvbXa

一応毎日ポストしていますし、作品情報なども一番早いと思われます。

気軽に絡んでください。


この作品はカクヨムからの転載作品なので。

どうしても先を読みたい方はカクヨムでも読めます。

第四章ぐらいから設定もキャラも揃ってメッセージ性も濃くなりますが、第一~三章が薄めというわけでもないので、ゆっくり更新をお待ちいただいてもいいと思います。

またかなり細かく設定やネタを仕込んでいるので、第一~三章の内容で不審な点などがある場合、後半の章で回収されることも多い一気読み推奨作品だったりします。

こう書くと「最後まで読まないと意味が分からない作品」扱いされそうですけれど、章ごとでちゃんと完結もしていますので安心してください。

ただ第一章と第六章は対比構造になっていて、積み上げたものや主人公の成長や、この作品全体のテーマがハッキリと伝わる作品になっています。

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[一言] やっぱり覚醒セツにゃんの濃さはよいやねぇ
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