閑話 真宵アリス先輩になる! ……先輩とは?
こちらも試しに書いた閑話です。
虹色ボイス事務所に四期生が誕生した。
新入りだった三期生が先輩になる。
前歴がなにもない。
本当にデビューしてから一年しか経験してない真宵アリスにも後輩ができるのだ。
新人がデビューして箱内に新たな枠が生まれる。
虹色ボイス事務所の運営が好調な証だ。
人数が増えればそれだけ新たなファンが獲得できる。……みたいな甘い話は存在しない。
必ず同じ箱内でリスナーの奪い合いが起きる。
リスナーの時間は有限だ。
VTuberの配信時間の重複もある。
今まで応援してくれたリスナーが新人に流れてしまう事態は当然ながら発生する。
それでも四期生のデビューに踏み切った。
運営側が二期生と三期生の活動が完全に軌道に乗ったと判断した証だ。
そんな四期生のデビューに伴い、各期生のコンセプトもリニューアルして発表された。
一期生は変わらず『虹の架け橋アイドル』。
リアルでのライブツアーも成功させて、個人チャンネルも開設する。
個人活動を強化する方針だが、アイドルであることからブレることはない。
これからも皆の虹の架け橋となって虹色ボイスを支えてくれる。
二期生は『呑まずにいられない社会人』。
いつもお酒と笑いを振りまいている二期生。
けれどずっと応援していた古参リスナーからすれば苦労人のイメージが強い。
リスナーの年齢層も高め。
呑み会配信が多いのも理由だが、挫折と失敗から復活した遍歴が共感を呼んでいるのかもしれない。
三期生は『なんでもありのファンタジア』。
セツにゃんは妖精。
リズ姉はエルフ。
三期生がファンタジーでもおかしくはない。
おかしくはないのだが『真宵アリスは存在がファンタジー』との声がネット上で一番多いのはなぜでしょうか?
メイドロボですよ?
どちらかといえばSFですよ?
解せぬ。
しかし私はまだマシな方だと思う。
ミサキさんは『異世界転移して現地に順応してしまった大学生』と書き込まれて、苦笑いを浮かべていた。
そして今度デビューする四期生は『虹色ボイス生徒会』だ。
コンセプトは学生。
全員が純白の学生ブレザーで衣装を統一している。
ユニット全員の衣装統一は一期生以来だ。
最初からコンセプトが固まっていることからも四期生のデビューは入念に準備されていたことがわかる。
これはさぞかし個性的で凄いメンバーが揃っているのだろう。
そんな期待の声もあったのだが、実は四期生は研修生扱いだ。
だからこそコンセプトが学生なのだとか。
これはマネージャーから聞いた話だが、この一年で虹色ボイス事務所上層部の意識改革が進んだらしい。
『過去の成功体験に縋るな。俺たちはこの業界の新参者だ』と。
元々上層部はマネージメント経験豊富な業界人だった。
だからこそ人気声優だった一期生のVTuber活動を軌道に乗せることができた。
けれどそれはネームバリューと経験と実力ある一期生だったから成功したに過ぎない。
そのメンバーを集めた功績こそあるが、新人デビューするVTuberのマネージメントに関して素人だった。
その被害を被ったのが二期生。
全員が無名の新人からのデビュー。
一期生と違い個人チャンネルを開設していた。
虹色ボイス事務所としては二期生こそが本当の意味でのVTuber運営の第一歩だった。
結果として、二期生が潰しかけた。
ロリコーン事件など誹謗中傷もあったが、最大の原因は経験豊富な一期生と比較され続けたことにある。
実績ある先輩と比べられる重圧。
配信業はなにが正解かわからない。
単純に上手い人がウケる業界ではない。
配信中は誰も助けてくれない。
あのままでは二期生全員が潰れてもおかしくなかった。
現在の復活と快進撃は奇跡と言っても過言ではない。
そして三期生はデビュー構想自体が存在しなかった。
二期生で二名の活動休止。
虹色ボイス事務所全体が落ち込んでいた。
そのカンフル剤として投与されたのが三期生デビューという荒療治だ。
話題性を求めて元の子役の氷室さくらを起用した。
その補助として落ち着いた雰囲気のあるリズ姉を配置した。
考えていたのはここまで。
ミサキさんは動画作りに専念する想定だったし、真宵アリスは歌手枠で配信する予定さえなかった。
もちろん真宵アリスがデビュー直後から話題になることなんて想定していない。
その後も人気を落とすどころか人気を伸ばし続けたのは衝撃以外なにものでもなかった。
喜ぶよりも驚愕が先にきて、上層部が身動きを取れなくなったのだ。
しかも真宵アリスに触発される形で他の三期生メンバーも躍動し、二期生までもが自分たちの力で結束した。
いつの間にか虹色ボイス事務所全体の難局を乗り切っていた。
自分たちが関わっていないのだから再現なんかできるはずがない。
陰ながら支え続けていた一期生の努力こそあったが、虹色ボイス事務所のマネージメントのおかげと驕る愚か者は上層部にはいなかった。
上層部が至らなくても現場は育っている。
ならば細かいところは現場に任せよう。
安心して活動できる環境づくりのために自分たちの人脈を使うべきだ。
そう切り替えたらしい。
おかげで現場が動きやすくなり、生き生きしているとか。
その流れの中で生まれた新たな試みが四期生のデビューだ。
新生虹色ボイス事務所の第一歩。
そんな気持ちで話が進んだ。
ただ今の状況でデビューするとなると、一期生どころか二期生や三期生と比較される。
二期生のデビュー時よりもかかる重圧がはるかに大きい。
笑い。歌。トーク。演技。個性。
あらゆる面で比べられてしまう。
特にデビュー直後から強烈なインパクトを放った三期生との比較されれば、なにをやっても地味と評価されかねない。
……という評価だったらしい。
今の時期に普通にデビューすれば、二期生と同じ轍を踏んでしまう可能性が高い。
だから研修生とすることで猶予を与える。
研修中と称して先達とコラボして経験を積ませる。
また四期生がコラボするのは虹色ボイスの箱内だけではない。
他の事務所や個人VTuberとも積極的にコラボすることで、他の期生との差別化を図る方針だ。
そのために一番最初に採用されたのが三万を超えるチャンネル登録者を持つ個人VTuberだった周防院シキさんだった。
VTuberとしてベテランでVTuber仲間もいるある意味で大先輩。
実は二期生募集時にも応募はしていたらしい。
そのため燻っていた二期生に複雑な感情を抱いていた時期はあったのだとか。
けれど復活した二期生の躍進を目撃して、やっぱり企業勢として活動の場を広げたいという想いが再燃したのだとか。
二番目の採用はイラストレーター業界との繋がりが強い色彩イロハさん。
現役イラストレーターでねこ姉とマネージャーの後輩。
私も面識がある。
初対面で私に「ウチの娘さんになってください」と土下座し、ねこ姉から我が家への出禁処分を食らっている困った人だ。
三番目は元ガールズバンドのボーカルだった心動トウカさん。
月海先生の弟子入り志願者だったとか。
月海先生から指導を受けたくて四期生に応募した才媛だ。
四期生の歌枠で私とも関わることがあるだろう。
そして最後はシノビ・カリバーンさん。
一つ年下でセツにゃんと同い年。
私と同じく経験がまるでない新人。
面接会場で声をかけた少女が、四期生に採用されたらしい。
名前と容姿のキャラクターの強さ。
バイリンガルで洋楽という特技もある。
けれど採用された理由は面接時の胆力。
開き直ったときの強さと爆発力が期待されたらしい。
ただ設定がおかしい。
なぜか真宵アリスの弟子入りしたことになっている。
しかもニンジャとして……帯剣しており役職も隠密。
……どゆこと?
私と関わりが深くなりそうなシノビちゃんだが、初コラボは同い年のセツにゃんと決まっている。
演出だとわかっているが私を巡って争うセツにゃんのライバルだとか。
もう一度……どゆこと?
なんにせよ四期生がデビューし、虹色ボイス事務所も新体制で再始動するらしい。
全てマネージャーからの伝聞。
私は相変わらず蚊帳の外である。
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