閑話 虹色ボイス四期生決起集会
本編完結しているのに完全新キャラ四人の閑話という暴挙。
エピローグの少女の話。
他に期生に比べてキャラが薄いかもと心配に……濃いなこいつら。
新章開幕とかではなく四期生構想と思ってください。
私――御剣・キング・忍はなんと!
なんと虹色ボイス四期生に選ばれました!
……え? 本当に受かったの? 私でいいの?
合格の連絡を貰った今も疑っている。
未成年なので親を交えて虹色ボイス事務所で手続き。
正式に契約しても信じ切れていない。
なぜなら虹色ボイス四期生の公募は超難関だと噂されていたから。
想定よりもはるかに多い応募があったらしい
諸々のスケジュール遅れの連絡は私にも届いていた。
二期生と三期生の募集のときは、これほど大きな規模ではなかったらしい。
ファンの視点でも最近の虹色ボイス事務所の躍進は凄まじかった。
三期生のデビューと二期生の復活劇。
驚くほどメディアの露出も増えている。
コンビニのコラボ商品などもあった。
全てたった一年の出来事だ。
知名度も上がっている。
一期生しか知られていなかった時代が嘘のようだとお父さんが語っていた。
いや……父よ。VTuberも追っかけていたんだね。
そりゃあ四期生に挑戦するとき誰よりも応援してくれたはずだよね。
ただ超難関と呼ばれた要因は人気だけではない。
活動内容がとても広いのだ。
一般的なVTuberの活動は配信、企業案件、ネットライブなどネットの世界が中心となる。
けれど虹色ボイス事務所はそれだけではない。
ネット以外の活躍の場が存在する。
コンサート会場を貸し切っての生ライブやアニメ声優。
仮想空間などの最先端の技術にも強い。
活動内容が広ければ集まる人材も多様化する。
今からVTuberを目指す人や個人VTuberだけではない。
声優の卵。
芸能事務所に所属している現役タレント。
すでに実績を重ね、実力もある方々も応募していた。
虹色ボイス事務所でならばもっと自分は輝けると信じて。
一応、私が採用された理由も聞かされた。
新メンバーは単純に経歴の人材から選ぶわけではない。
メンバー全員が揃った場合のバランス。
四期生のコンセプトにあった人選。
様々な相性を考慮する必要があるらしい。
私以外の四期生は個性豊かな面々だ。
輝かしい実績と実力。
なにより本人の強い意志と明確な活動ビジョンにより採用されている。
改めて言おう。
本当に私でいいの!?
わかるよ?
私は四期生の色物枠だって!
そんな不安を抱えた私は現在ソファーで膝枕をされていた。
相手は出会ったばかりの初対面の女性。
私もなぜかはわからない。
膝枕させろ圧に負けて流された結果だ。
察してほしい。
なにを察するのかは私も理解できてないけど
今日は虹色ボイス四期生の決起集会。
虹色ボイス事務所の催しではない。
メンバー間で決めた自発的なデビュー前の顔合わせだ。
だから場所は都内のカラオケ店だったりする。
なでなで。
なぜ私は膝枕されながら頭を撫でられているのだろう。
まあ気持ちいいからどうでもいいか。
眠い。
あくびが出そう。
そんな私の危機を察したのか、本日の発起人が立ち上がった。
「まず今日は呼びかけに応じてくれてありがとう。私の名前は周防院シキ。虹色ボイス四期生。いえ……虹色生徒会の生徒会長の周防院シキよ。これから末永くよろしくね」
「おーーーーーー!」
「…………おー」
「……私は膝枕されたままスルーされるのですね」
挨拶を始めたのは四期生のリーダーの周防院シキさん。
名前は虹色ボイス四期生としてのアバター名だ。
互いを呼び合うときはアバター名で統一するようにしている。
四人の中では一番の年長者。
登録者数三万を超える個人VTuberからの転生者。
虹色ボイス四期生に挑戦することも自身のチャンネルで配信していた。
すでに個人活動の卒業配信も終えて、多くのリスナーから新たな門出を祝われていた。
そのことからもわかる人柄とリスク管理能力、そして自己プロデュース能力が買われてリーダーに抜擢されている。
銀髪ショートで伊達眼鏡をかけた女性。
身にまとっているの純白の学生ブレザーだ。
生徒会長の腕章もつけている。
銀髪もウィッグだ。
彼女だけではない。
四人全員が学生服のコスプレで服装を統一している。
『虹色ボイス生徒会』
これが四期生のコンセプトだ。
でもリアルで集まるのに自分のアバターのコスプレする意味はたぶんない。
制服やアバターの髪色に合わせたウィッグは虹色ボイス事務所から借りたらしい。
ただ役職が書かれた腕章はシキさんの自作。
膝枕されている私を見てもにっこり笑うだけ。
間違いない。
シキさんはとても真面目でとても変な人だ。
そのシキさんに促されて、サーモンピンクの髪のお姉さんが立ち上がった。
さっき消極的だったが空気を読んで声をあげていた人だ。
たぶん四期生の中で一番真面目でまともな人。
実はさっきから何度も目が合っている。
お姉さんは一番最後にカラオケルームに入室してきた。
入室の際に膝枕されている私を二度見したのがわかった。
もちろん私も視線で助けを求めたよ。
『助けて』
『えっ? どういうこと?』
お姉さんは私と私を膝枕している女性を見比べた。
そしてすがるようにシキに視線を送った。
でもにっこりと笑い返されて困惑しながら着席したのがついさっきの出来事だ。
人生って……色々あるよね。
お姉さんはマイクを持ち、瞳を閉じた。
そして口を開き世界を変えた。
最初は厚みのある低く声。
そこから一気に駆け上る美しい高音がカラオケルームを支配した。
歌に満たない歌唱を終えたお姉さんはにっこりと笑い一言。
「みんな愛してる」
それだけ。
わずか十秒に満たないパフォーマンス。
それだけで聞く人を恋に落とせる人だった。
「改めて自己紹介。歌で心を動かせ。火を灯せ。虹色ボイス四期生の心動トウカです。役職はえーと会計? うへぇ数学苦手なんだけどな。元アオフユ。二年前に解散した女子高生ガールズバンドのボーカルを務めてました」
「本当に上手いね。事前に楽曲も聞いていたけど、生だとここまでなんだ」
「凄い凄いトウカちゃん凄い!」
「えっ? アオフユ!? あのアオフユ!? 聞いてました! なんで私は膝枕されながら聞いてしまったの!?」
女子高生ガールズバンドのアオフユ。
全員が現役女子高生でメジャーデビューし、テレビで生演奏するなど実力派と知られていた人だ。
人気絶頂期にメンバーの大学進学を理由に解散していた。
まだ音楽活動していたんだ。
「えーと……次はそちらの二人だよね。いい加減聞いていい? なぜ膝枕? されている金髪碧眼の子はよくわかってなさそうだけど」
「ようやく聞いてくれました! なぜ私は膝枕されているのでしょう!?」
「それはウチらが母娘やからや」
「母娘!? 私と年齢変わらない見た目なのにそんなに大きな娘さんが!?」
「そうだったんですかお母さん! って違う! 私は今日も実の母に送り出されて家を出ましたけど!?」
衝撃の事実が明かされてしまった。
どうも私には母親が二人いたらしい。
「ぷっ。二人ともリアクション良すぎ。これでデビュー配信時のトークのネタには困らないね。これだけで今日集まった意味があったかも」
「シキさん!? まさかそのために私はずっと放置していたんですか?」
「まあね。シノビちゃんは戸惑いながらもとりあえず膝枕を受け入れるんだ。本当にいいキャラしているな、ってさっきからずっと観察してた。それではイロハさん、ちゃんと自己紹介してね。膝枕したまま立たなくていいから」
「このまま!?」
「了解や! さすがシキさんわかってるな」
膝枕継続決定らしい。
わからない。
シキさんとイロハさんにしかわからない世界がそこにあった。
トウカさんも困惑している。
「ウチは虹色ボイス四期生の色彩イロハ。役職は書記や。そしてシノビちゃんのママや」
「イロハさん? ちゃんと。それだと他の二人にわからないから」
「しゃーないなぁ。ウチは現役イラストレーターでな。シノビちゃんのアバターのモデリングを担当しとるんよ」
「そういうことね。さすがに一児の母ではないか……いやそれでも膝枕していた意味は分からないよ」
「イロハさんが私のママなんですか!? あの可愛いアバターの生みの親?」
「せやで。ウチがシノビちゃんのママや。他にも皆が今着とる制服のデザインも担当しとる。ふっふっふ……ウチに逆らったら制服のスカートが少しずつ短なるからな」
「怖い!」
「……それは困るな」
私のアバターのママはどうにも愉快な人らしい。
でも本物イラストレーターさんで面白そうな人だ。
本当に私以外の四期生の皆は凄い。
自分の地味さや個性のなさが嫌になってくる。
「それじゃあ最後になったけどシノビちゃんの番だね。四期生の真打登場。もう立っていいから自己紹介よろしく」
「わかりました」
「あぁ~太ももが寂しくなってもうた」
イロハママがわかりやすく項垂れているけど無視だ。
一番年下。
一番実績がない。
おそらく実力もない。
一番地味な私だけど、怖気づくわけにはいかない。
私は主人公になるのだから。
そう意気込んで自己紹介を始めようとしたが、シキさんから待ったがかかった。
「シノビちゃん帯剣忘れてるよ。武器は装備しないと効果がないから」
「わ、わかりました。あれ……本当に背負うんですね」
「帯剣?」
トウカさんが首を傾げている。
私も初めてキャラ設定を聞いたときは耳を疑ったので気持ちはわかる。
部屋の隅に寝かせてあった豪華な宝剣を背負い、指だしグローブを手に嵌める。
これで完成のはず。
うん意味がわからない。
でもわからないなりに頑張らないと。
たぶん一番キャラの薄い私のために虹色ボイス事務所が頑張ってくれた結果だから。
「虹色ボイス四期生のシノビ・カリバーンでござる。役職は隠密。本名は忍・キング・御剣です」
「役職が隠密!? そして本名を名乗るの!?」
トウカさんの新鮮な反応が嬉しい。
配信ではさすがに本名は名乗らないが、本名でのつかみは相変わらずバッチリだった。
「凄い本名ですよね。この名前でデビューしても大丈夫みたいな。でもさすがに未成年を本名でデビューさせるわけにいかない。ただ私には名前と見た目以外の武器がない。バイリンガルで洋楽は歌えるぐらいです。そんな地味な私に虹色ボイス事務所が武器を与えてくれました。それがこの剣です!」
「地味? 一番キャラ濃いよね! 名前と見た目だけじゃなくてバイリンガルで洋楽歌えるなら十分だよね!」
「……実績のない未成年はキャラに頼るしかない。私は母国で王選定の宝剣を抜いてしまったが王になりたくなくて亡命。日本で虹色ボイス三期生の真宵アリスさんに弟子入りし、主君に仕えて陰に生きるニンジャの道を歩み出したごく一般的な少女という設定が与えられました。シノビ・カリバーンは世に忍ぶ仮の姿で偽名ですね」
「だからなに一つ一般的なところがないから! え? 王選定の剣カリバーン? 役職が隠密だし、なに一つ隠してない! そして真宵アリスさんに弟子入りして忍者って……違和感ないのが凄い。アリスさんってメイドロボのはずなのに」
さすがアリスさんだ。
弟子がニンジャでも違和感がない。
ちなみにアリスさんに弟子入りして私がニンジャになる設定は最初にできたらしい。
「……一人だけぶっ飛んでいる」
「本当によかった。シノビちゃんが虹色ボイス四期生にいて助かる。虹色ボイスの先輩方は実力はもちろんだけど全員個性的。ただ上手いだけではダメ。一発で認知される爆発力。四期生の顔になれる個が必要だと思っていたんだよね」
「ウチの娘は可愛いな」
「なるほど。実力だけで売れる甘い世界じゃないのはわかっていたけど。これが個性」
普通に挨拶して、キャラ設定を公開しただけ、
それなのになぜか感心されてしまった。
私は虹色ボイス四期生色物枠だ。
まだ与えられた設定しか武器がしかない。
ここから私は歩みだす。
私が私の物語の主人公になるために。
『This is my life, This is my story』
四期生の物語とかはまだ考えていません。
キャラクターができていたので書いてみました。




