表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第2巻発売中】引きこもりVTuberは伝えたい  作者: めぐすり
第六章ーThis is my life, This is my story.ー
187/218

第186話 世界に叛逆するネットTV配信④-不思議の国の真宵アリス-

『急がなきゃ。急がなきゃ』


 暗闇の中に浮かび上がるのは幼さを残した少女のアバター。

 容姿は真宵アリスに似ていた。

 けれど背が低い。

 メイド服も着ていない。

 白いブレザーの制服姿の少女アバターが仮想空間の中を走り、改札を通っていく。


 ステージ上に投影された立体的なアニメーション。

 ズレた位置でその少女を見守っていた真宵アリスにスポットライトが当たる。

 モノローグが始まった。


「あなたが大人になったと思ったのはいつですか? 私は中学に進学したときでした。正確には電車通学が始まったとき。仕事に向かう大人と同じ電車に乗って学校に通う。ただそれだけで大人の仲間入りをしたと思い込んでいました。では聞いてください。第一の国の冒険。不思議の国アリスです」


 瞳を閉じて息を吸い込む。

 そして始まったの独唱。

 語りかけるように紡がれる歌に沿って、再びアニメーションが投影され始める。


 飛び乗った車両は満員電車。

 周りの大人との体格差に目を白黒させる。

 座れない。前に進めない。潰される。リュックサックを顔にぶつけられる。

 少女から見た世界は巨人の世界。

 三メートル以上ある大人達。

 その足元を五十センチくらいの少女が踏み潰されないようにすり抜けていく。

 けれど少女を執拗に狙う毛むくじゃらのお化けが現れる。

 逃げた先で少女は格闘漫画を読み、豆乳を飲む。

 すると身体が巨大化し始めた。

 巨大化した身体でお化けにエルボーを食らわせる。

 撃退に成功したがお化けの毛むくじゃらは実はカツラだった。

 本体を倒したもののカツラの直撃を食らった少女は悲鳴を上げて倒れてしまう。


『にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ-ーーーーーーっ!』


 目覚めた少女は再び改札をくぐろうとする。

 けれど改札は錆びついていて反応しない。少女も恐怖によってその場でうずくまってしまう。

 真宵アリスの歌が止まった。

 再びモノローグが挿入される。


「これが最初の挫折。世界に拒絶された気がした。世界を拒絶してしまった。私が抱いた大人像は崩れ去り、大人への変化を恐れるようになっていた。それでも時間の流れは止まらない。心も身体も成長していく」


:ロリアリス?

:学校の制服可愛い

:小学生

:いや改札だから中学生だろ

:電車通学が大人か……昔はそうだったな

:なれると面倒なだけだけど

:行動範囲が一気に広がる時期

:アニメーションは不思議の国っぽいけど現実なんだよな

:アリスの歌やっぱうまい

:結末はわかっているけど

:痴漢はそのまま描けんよな

:カツラw

;にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁl

:にゃあぁぁ!

:悲鳴がw

:ボスを倒して大冒険の終わり……にはならないんだよな

:反応しない改札とうずくまるロリ

:ロリ書くなw

:世界の拒絶か


『電車に乗れない? ならお受験で入った中学校を諦めて、公立の中学校に行けばいい。普通のことだよ。君が普通になれるかは知らないけどニャハハアハハハハハハ』


 そう言って首だけのチェシャ猫が笑い、真宵アリスが歌い始める。

 アニメーションの舞台は学校に移り、少女は授業を受けていた。

 帽子をかぶった先生からお話。

 同じことが繰り返される日々。

 少女は天真爛漫に振舞って笑っている。

 赤いトランプの女子生徒に追いかけられても笑っていた。

 でも黒いトランプは怯えて避けていた。

 周りは徐々に成長していく。少女の姿だけは変わらない。


 でも変わらないはずがなかった。

 少女は倒れてしまう。

 少しだけ大人になって倒れてしまう。

 倒れてしまったあと、黒いトランプからの視線が送られるようになっていた。

 その視線から逃げるように少女は教室というお茶会の場から抜け出す。

 そしてハートの女王のいる保健室に入り浸るようになる。


 そこから始まる大冒険。

 見つけたカメラを覗き込み、ハートの女王と会話する。

 進まない捜査。

 警官姿のグリフォンから情報を得る。

 少女の顔には笑顔が戻っていた。

 つまらない授業も気を使わせてしまうクラスメートもいない。

 自分で考えて行動する非日常にワクワクしていた。

 だがそれも本当に危機が迫ると笑えなくなった。

 ステージ上が赤く染まり、裁判の舞台も炎に包まれる。

 少女はグリフォンの背に乗り、脱出した。

 ついに少女は不思議の国の眠りから目を覚ます。


 そこは大型のディスプレイが置かれた自分の部屋。

 部屋の時計は午前九時。

 ディスプレイの前に座って少女は動かない。

 ずっと動かず、時計の針だけは進んでいく。

 時計の針が午後の三時を指したころ、少女が眺めるディスプレイの中でチェシャ猫が笑った。


『ほら。やっぱり君は普通にもなれなかったニャハハアハハハハ……もう一度頑張るの?』


『うん』


『そっか……じゃあ今度こそちゃんと普通の女の子を目指そうね』


 少女はコクンと頷いて、アニメーションが消える。

 ステージ上にいるのはスポットライト浴びる真宵アリスだけ。

 劇の第一幕の終わった。


「見ていただいたアニメーションは不思議の国のアリスの物語になぞらえた私の過去の物語。以前配信で語ったことのある私の中学時代の話です。あまり明るい話ではないですね」


 言葉とは裏腹に真宵アリスは影のない笑みを浮かべている。

 全ては乗り越えた過去の話。

 一年前の収益化配信のときは声が震えて、話を躊躇うこともあった。

 今の真宵アリスはもう過去を過去として笑って語ることができている。


「第一の国の冒険は終わりました。次は舞台が変わり、再起をかけた鏡の国のアリスです。引きこもりになってしまった私は引っ越しをして高校に進学します。目指せモブキャラ。白のポーンになります。それでは第二の国。鏡の国のアリスです」


:チェシャ猫の声もアリスか

:授業がお茶会でマッドハッターは先生か

:トランプの赤と黒が……

:トランプに追いかけまわされる

:そういえば女子生徒にマスコット扱いされていたんだよな

:あっ……倒れた

:いくら真宵アリスの背が低くても成長しないわけがないしな

:実物見ると納得するスタイルの良さ

:そりゃあ視線も集まるか

:ハートの女王がいる保健室

:隠しカメラを見つけてワクワクするなw

:グリフォン警官か

:裁判所が燃えた

:大火事ワロタ

:真似してはいけない火炎放射器か

:笑えないよなアリスの顔は恐怖に引きつっているし

:グリフォン警官ナイス

:アリス起きた!

:中二病からの目覚め

:目覚めたらもう引きこもるしかないというね

:部屋の中でずっと動画見続けるとか俺らかな?

:チェシャ猫

:引きこもりからまた頑張りはするんだよな

:高校に進学するだけ偉い

:普通になるとか目指せモブキャラとか実は難易度が高いんだよな

:モブは白のポーンか

:続きを知っているだけに鏡の国が不穏だよな

:ついにゴリラ登場か



 今回は暴走少な目の過去の振り返りと、名前の由来にである不思議の国のアリスのオマージュ回。

 次回は鏡の国のアリスのオマージュ。

 そしてオリジナルの光り輝く真宵の国のアリスに繋がります。


 もしかして不思議の国のアリスの物語がどのようなものか知らない人も多いかもしれませんね。

 かなり変えていますが、これまでも色々と引用していたりします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こうしてみると不思議の国のアリスのオマージュだったんだなーと納得
[一言] あとがき カクヨム時代のままです?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ