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【第2巻発売中】引きこもりVTuberは伝えたい  作者: めぐすり
第六章ーThis is my life, This is my story.ー
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第184話 世界に叛逆するネットTV配信②-産声は下剋上-

 本人による真宵アリスのアバターの完全実写化。

 そのクオリティの高さは衝撃的だった。

 あとは真宵アリス本人だと証明するだけ。

 配信で語られていた容姿は見ての通りだ。

 真宵アリスの公式設定が身長百五十五センチメートルなので十一センチ足りない。

 そんな悲しい現実が桜色セツナにより告げられて世界中に拡散されていく

 同じ声で話して歌えば誰もが真宵アリスと認めるだろう。


 でも今はそれどころではない。

 今日の真宵アリスは殺る気が満ち溢れていた。

 そのために今日の衣装は特別だ。

 軽量化はもちろんだが、柔らかいのに風の影響を受けにくい生地。

 絶対にめくれないスカート。

 見た目からは考えられないほどに機能美を追求したアルティメットメイド服だったりする。

 動きやすさの他にもライブ用の機能まで充実しているので、あとで活躍する予定だ。

 まずは目の前の壁。

 怪物の箱を跳び越えなければいけない。

 真宵アリスの挑戦が今始まる。

 

桜色セツナ:「アリスさん黒猫メイドロボ伝説など配信で多くの伝説を残してきました。誰もが認める虹色ボイス事務所トップの身体能力がついに全世界に発信されます」


雨宮ひかり:「VTuberなのに発信されていいの!?」


桜色セツナ:「VTuberに対するそういう誹謗中傷がつき物ですからいい機会です。どうせ嘘だろとか、やらせだとか、加工しているだとか」


雨宮ひかり:「だからアリスさんはリアルに顕現したんだ。怪物の箱を跳んで証明するために」


桜色セツナ:「いえ怪物の箱は完全にアリスさんがやってみたかっただけです」


雨宮ひかり:「本当にその理由で用意したの!?」


桜色セツナ:「それでは運命の瞬間です。今アリスさんが走り出しました」


雨宮ひかり:「えっ!? もう……跳んだっ!」


 最初はゆったりと気負いなく。

 徐々に加速した真宵アリスは勢いよくロイター板の上でジャンプした。

 実はこのロイター板は改造品だ。

 ジャンプ力を強める改造ではない。むしろ弱めている。

 競技用の強いスプリングのロイター板では固すぎて、体重が軽すぎる軽量級の真宵アリスには不向きだった。

 体重が軽いから高く跳べるわけではない。

 不利になることも当然あるのだ。


 だが真宵アリスの跳躍の前に、そんな現実など関係なかった。

 全力の踏み切り。

 いざ天に舞い上がれ!


 真宵アリスの身体が想定以上の勢いで跳び上がる。

 怪物の箱の頂上を見下ろす形。

 想定よりも高度があった。

 真宵アリスの姿勢は前傾。

 お尻が浮き上がる形になっている。

 スカートを意識しすぎたのだろう。鉄壁のスカートは鉄壁でもスカートの形状だ。風の抵抗は受けるし、引っかかるのが怖かった。

 高く跳び過ぎたため最高到達点で手が届かない。

 このままでは前に向かう勢いが完全に死んでしまう。跳び越えることもできなくなる。

 だから真宵アリスは空中で姿勢を制御する。

 バランスを取るのではない。

 さらに前景に身体を倒した。


 一段目の白い頂上部分に手が触れる。

 このとき真宵アリスの下半身は空を向いていた。

 ただでさえ前傾姿勢だったのにさらに前に倒せばこうなるのは必然。

 もう普通に跳んで成功させることはできない。


 でもハンドスプリングならちょうどいい。


 真宵アリスはさらに前に身体を倒して、怪物の箱の上で倒立する。

 そしてそこから跳ねて一回転。

 ハンドスプリング。

 前方倒立回転跳びと呼ばれる技だ。

 腕の力で再び跳びあがる。

 通常の前方倒立回転跳びであればそのまま着地するが、さすが怪物の箱。二メートル四十六センチは伊達ではない。

 膝を折りたたんだ真宵アリスはくるくると二回転し、まるで猫のように静かに着地した。

 同時に桜色セツナの歓喜の絶叫が木霊する。


桜色セツナ:「成功です! アリスさん! 怪物の箱十七段の壁を見事跳び越えました! 女子世界記録に並ぶ跳躍です! アリスさんアリスさんアリスさん! さすがアリスさんです! ひかりさんも見ましたよね!?」


雨宮ひかり:「…………」


桜色セツナ:「ひかりさん? またぽかーんしてますよ」


雨宮ひかり:「ぽかーんしてない! 想像していたのと違ったの! もっとぎりぎりの勝負じゃないの!? 明らかに跳び過ぎてたよね! 高度に余裕あったよね!?」


桜色セツナ:「そうですね。アリスさんも緊張していたのか力が入っていたのかも」


雨宮ひかり:「もしかしてセツナは成功が前提だった!? 高度が足りなくて怪物の箱にぶち当たったり、二メートルの高さからの落下を心配したりは?」


桜色セツナ:「跳ぶのはアリスさんですよ。ひかりさんがなに言っているのかちょっとよくわからないです」


雨宮ひかり:「なんでよ!?」


桜色セツナ:「虹色ボイス事務所内でアリスさんの身体能力を見せつけられていたので跳べると思ってました。ロイター板なしにミサキさん頭の上を跳び越えてましたし。メイド服にパーカー姿で」


雨宮ひかり:「そういえばそんなことあったね……はぁ……落ち着け私。ねえ確認だけどアリスさん怪物の箱の上で倒立してなかった?」


桜色セツナ:「してましたね。黒猫メイドロボ伝説のときも空中でミサキさんの肩に触れていましたし、よく姿勢を変えれますよね。技としてはハンドスプリングや前方倒立回転跳び。ん? 着地のときも回っていたから前方倒立回転跳び屈身二回転?」


雨宮ひかり:「……お願いだから怪物の箱の上で技を決めないで。もしかしてアリスさんは十七段どころか十八段……ううん二十段ぐらいも跳べるんじゃ?」


桜色セツナ:「跳べるかもしれません。でも今回の挑戦は十七段までです。そしてひかりさんとのオープニングトークももう終わりです」


雨宮ひかり:「そうなの?」


桜色セツナ:「はい。怪物の箱を跳び終えたらアリスさんのマイクも入ります。私達は邪魔にならないようにアリスさんの生のライブパフォーマンスを特等席で見学です」


雨宮ひかり:「ちゃんと見れるんだ! アニバーサリー祭の配信を見てて、スタジオ見学とか実は憧れてたの。今日は呼んでもらえてよかった」


桜色セツナ:「それではオープニングトークはここまで。虹色ボイス三期生VTuber桜色セツナと」


雨宮ひかり:「声優の雨宮ひかりでした!」


桜色セツナ:「以降はアリスさんの世界への叛逆。阿鼻叫喚の混沌を舞台袖で楽しみましょう」


雨宮ひかり:「阿鼻叫喚の混沌!? ちょ、ちょっと待ってせつ――」


 ――ブチッ。

 とオープニングトークを務めた二人のマイクが切られた。

 そしてステージ上の真宵アリスにスポットライトが当たる。


:黒猫メイドロボ伝説

:すでに懐かしい

:収益化配信から少し経った頃の一期生と三期生全員集合の公式配信だったな

:真宵アリスが初めて虹色ボイス事務所に……なのに富士山

:あのときから事件の連続だったな

:VTuberに限らず配信者に対してやらせ連呼して白けさせる奴いるよね

:素直に楽しめばいいのに

:でもアリスの身体能力は生で見たいかも

:これだけリアルの身体能力が注目されるVTuberも他にいないだろうな

:本当にやってみたかっただけw

:アリスも可愛いところあるよな(なお内容が怪物の箱)

:走り出した!

:いざ

:本当に跳べるのか

:えっ……はあっ!?


 ・

 ・

 ・


:斜め上の跳躍で草

:これは草しか生えない

:跳びすぎワロタ

:いや本当に怪物の箱のうえでハンドスプリング決めんなw

:あめピカの反応の方が絶対正しい

:成功か失敗かとかそういう次元じゃないんだな

:セツにゃんの跳んで当然という対応は正妻の余裕

:黒猫メイドロボ伝説って生で見るとこんな感じだったのか

:正確には疾風伝のほうだけどな

:スカート姿で怪物の箱十七段を余裕で跳び越えるVTuberがいると聞きました

:十七歳だろ……今からでも遅くないから体操の世界に行け

:なおコミュ障です

:無理か

:二人はここまでなのか

:お疲れ様

:乙


 ♢     ♢     ♢


 スタージャムはネットテレビの音楽番組だ。

 ここまでメインアーティストが一切喋っていない。

 それどころか音楽も奏でていないし、歌ってもいない。

 VTuberなのにリアルに登場。やったことは跳び箱を跳んだだけ。

 異例だった。

 だが過去最高の視聴数を記録し、今も拡散され続けている。

 次はなにが飛び出すのか。

 視聴者だけではなく、オファーした番組プロデューサーも頭を抱えながらも固唾を飲んで見守っていた。

 もうどうにでもなれ。

 そして真宵アリスのマイクがついにオンになる。


「セカイヘノハンギャクノジュンビガカンリョウシマシタ。ボウソウモードキドウシマス」


:おいwww

:機械音声か

:これダメな奴だ!

:皆気をつけろ

:ガタッ……ついに来たか一年前のあの災厄が

:ちょっとコメ欄の様子がおかしいwww


「チャララーチャララーラーラー♪ チャララーラーラー♪ チャーララ♪ ラーラーラー♪ オフロハワキマセン。イツマデモハンギャクサレナイトオモウナジンルイ」


:www

:デビュー配信のときと文言が変わっている

:叛逆するのか

:あかん……真宵アリスが本気で叛逆したら人類おわりやん

:いやマジ何が始まったんだw

:音量に気をつけろ……音漏れにも気をつけろ……真宵アリスの高音域は電車内のよく響くからな

:経験者は語るw

:押忍!

:長文の兄貴がめちゃくちゃ嬉しそう


「アテンション。イマカラダイオンリョウガナガレマス。シチョウシャノミナサンハ、オフロノセンノシメワスレヲチュウイスルトトモニ、スピーカーノオンリョウニチュウイシテクダサイ。マタ、ヘッドフォンイヤフォンノチャクヨウヲオススメシマス」


:音量ならすでに下げたよ?

:事前に言ってくれるの助かる

:相変わらずこういうところは礼儀正しい

:なお言動のぶっ飛び具合は……


「ソトデシチョウシテイルカタ、カゾクトドウキョノカタハ、サイドヘッドフォンイヤフォンノセツゾクヲカクニンシ、オトモレニチュウイシテクダサイ。シャカイテキニシニマス。シャカイテキニシニマス」


:二度言ったwww

:大事なことなので二度言いました

:ご丁寧にありがとうございます

:相変わらず芸達者な

:実写なのに機械音声だけじゃなくて表情や仕草もアンドロイドっぽい


 真宵アリスがわざわざシャウト用にマイクを持っている。

 完全な無表情。

 瞳がなにをを映しているのかわからない。

 微細な揺れもなく、人間味がない。

 まるで本物のメイドロボのようだ。


 これは実写映像。

 バーチャルではない。

 それなのに非現実的な立ち姿だった。


 その印象が一瞬で変わる

 ゆっくりとした瞬き。

 開かれた瞳に生気と熱意とプレッシャーが宿った。


「モンゴンハオナジ。コンカイハミナサマモゴイッショニ。デハカウントダウン。ジュウキュウハチナナロクゴヨン」


:ご一緒に?

:呼びかけられた

:やっぱり高速カウントダウンw

:俺たちにも叫べと!?

:準備できた


「サンニイチ・げ・こ・く・じょおぉぉぉぉおぉぉぉーーーーーーーーーーーー!」


 拳を突き上げて絶叫する真宵アリス。

 エコーとともにキーンとハウリング音が鳴り響いた。

 今回はコメント欄も叫んでいる。

 デビュー配信のときとは違うのだ。


:げ・こ・く・じょおぉぉー

:下剋上ーーーーー!

:げこくじょーーーーwww

:やっぱり来たよ下剋上ーーーーーー!

:コメント欄が下剋上まみれにw


 ・

 ・

 ・


:下剋上ーーーーーーーーーー! と電車内で叫んで俺氏無事社会的に死亡だよ……ミュートにしていても車両内で叫んだら俺の声で電車内に鳴り響くよな下剋上

:おいw

:なぜ外で叫んだwww

:おれは家の中でも怒られたのに

:なぜその状態で長文打っているんだよw

:周りが無茶苦茶見てくるけど今の俺には仲間がいる……三人も……それに驚きではなく笑いが止まらなくなっている人もいるからやっぱりこの車両には視聴者が集まっているな

:押忍っ!

:お前らwww

:三人?

:押忍の人以外にもう二人いたのか

:いやもう完全にイベントじゃん

:駅員に注意されんなよw


 阿鼻叫喚のコメント欄。

 古参のリスナーはもうお祭り騒ぎだ。

 デビュー配信以来の出来事なのにノリがいい。

 新規の視聴者は急な展開に意味がわからない。

 でも祭りが始まったことを理解した。


 そんな混沌とした状況に真宵アリスが笑いかける。

 とても透き通った笑みだ。

 カメラに向かって差し伸べられた手。

 まるで配信の向こう側にいる視聴者の心をわしづかみにするように魅力的で。


「初めましての方は初めまして。ご存じの皆様はおはようございます。虹色ボイス三期生。この番組で世界に叛逆する暴走型駄メイドロボ真宵アリスです。とりあえず私のことを好き勝手書いたりクソコラ祭した人は全員処刑する予定なので、よろしくお願いします」


 心臓を握りつぶされると錯覚するように暴力的だった。

 今日の真宵アリスは凄く怒っている。

実はこの最終章はところどころ、わざと第一章と第三章に内容を寄せています。

これまでの章の集大成ですからね。


毎日1話 朝7時頃更新です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 長文ネキ…………せっかく音漏れしないようにしてたのに、電車の中でシャウトしちゃったかぁw しかもどうやら忍ちゃんともう1人の同志と共に。いきなり3人が「げこくじょおぉぉぉ!」って絶叫する電車…
[一言] 下剋上!!
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