第181話 真宵の桜色配信こぼれ話-背中越しに見る世界-
『引きこもりVTuberは伝えたい』
電撃の新文芸から発売中!
玄関前で遺書を読み上げるところから始まったオフコラボ。
シュレッダー、メイド服交換、背負い投げ、豆乳鍋、シャイニングろり、撮影会。
そして絵本の朗読会からの真宵アリスの子守歌。
多岐にわたったオフコラボがもう終わろうとしていた。
桜色セツナ:「そういえば本当によかったんですか」
真宵アリス:「なんのこと?」
桜色セツナ:「ねこグローブ先生とマネージャーさんのお食事です。コンビニ飯と言ってましたけど、アリスさんはさっき食事の準備をしてましたよね。用意したならば声をかけてあげればいいのでは?」
真宵アリス:「……あれは朝ご飯用」
桜色セツナ:「それにしては量が多かったような」
真宵アリス:「明日の朝はセツにゃんもいるから」
桜色セツナ:「本当にそれだけですか?」
真宵アリス:「どうせ時計の長針と短針が十二の数字で重なったら、勝手にお酒のあてを食べ始めるから。すぐに食べられるものを用意したの。放っておくと準備した朝ご飯の用意まで食べちゃうから」
桜色セツナ:「……本日コンビニ飯って本当に日付縛りだったんですね」
真宵アリス:「うん……毎回日付が変わったら勝手におつまみを探し始める。だからすぐにつまめるモノを準備してる。夜中にインスタント麺などの炭水化物を食べるよりマシだし」
桜色セツナ:「ぷっ……毎回……ははは。やっぱりアリスさん優しい。本当にお姉さん達のことが大好きですよね」
真宵アリス:「……そんなことない」
桜色セツナ:「あります! 私はずっと嫉妬してたんですから! ねこグローブ先生とアリスさんのマネージャーさんに」
真宵アリス:「嫉妬? せつにゃんが?」
桜色セツナ:「アリスさんがVTuberを始めることができるようになるまで、心が回復できたのはあの二人がいたからですよね。あのお二人を通してならば世界と関わっていいと思えた」
真宵アリス:「それは……そうだと思う」
桜色セツナ:「アリスさんの心を救った。私が憧れた役割です。今日でその嫉妬もなくなりましたけど」
:もうそろそろ終わりか
:アリスの飯の準備?
:まさか今から飯テロの準備を!?
:あの二人のために
:アリスはやっぱりアリスだな
:そんな時間に厳密な縛りなのw
:アリス優しい
:お姉ちゃん大好きっ娘
:いい妹だな
:嫉妬か
:セツにゃんの独占欲?
:なるほどだから嫉妬したか
:嫉妬してましたと自分から言えるのは自分に自信が持てた証拠だな
:セツにゃん心晴れやか
真宵アリス:「二人には感謝しているけど、改めて言われると認めがたい」
桜色セツナ:「ふふ。認めがたいって」
真宵アリス:「だってあの二人はずぼらだし」
桜色セツナ:「……ずぼら。たぶんそれがよかったのだと思います」
真宵アリス:「ずぼらがよかった?」
桜色セツナ:「これは子役時代に理解したことです。大人は思ったよりも大人ではないし、ちゃんとしていない」
真宵アリス:「思ったよりも大人じゃない。事務所の先輩だと師匠とかはそうかも」
桜色セツナ:「碧衣リン先輩は特殊だと思いますが。昔から色々な大人と接してきました。優しい。怖い。礼儀正しい。仕事ができるできない。色々とあります。大人だからと偉ぶり、子供だからと下に見てくる大人は避けますよね」
真宵アリス:「子供相手だからと年齢で露骨に態度を変える人は信用できない」
桜色セツナ:「でも完璧すぎる大人は遠くに感じられます。大人らしい大人。イメージ通りの大人も苦手です」
真宵アリス:「苦手だね」
桜色セツナ:「子役時代に親しみやすかったのは、ちゃんと子供にも目線を合わせてくれる人でした。普段は少し子供っぽくて情けないところもある。けれど大事なところでは、凄く責任感を持っていて完璧な仕事を成し遂げる。それが私が抱く理想の大人像ですね」
真宵アリス:「なるほど。そういう意味だとねこ姉達は該当するかも」
桜色セツナ:「お二人以外にもミサキさんやリズ姉。それに先輩方。虹色ボイス事務所には尊敬できる大人が大勢いますね」
真宵アリス:「そうだね。スタッフさんや月海先生。どこか子供っぽい部分をそのままで一緒にいて楽」
桜色セツナ:「特にアリスさんは社会や大人そのものに忌避感を持っていた。たぶん一番大変なときに大人らしい大人が周りがいたらダメでした。『私は大人になれない』とさらに落ち込んだと思うんです」
真宵アリス:「……だね。私もねこ姉に拾われたのがよかったと思ってる」
桜色セツナ:「いきなりメイド服を渡してくる人ですからね!」
真宵アリス:「ぷっ……あれで不安も抱いたけど気が楽になった」
桜色セツナ:「意図してないとは思いますけどね。家に引きこもっていてもやることがある。世話をする相手がいる。その人を通して外の世界を知ることができる。そんな環境だったからアリスさんはもう一度世界と向き合えたと思うんです」
真宵アリス:「私は普通の社会に挫折感があった。色々と世話を焼かれてお客様扱いされ続けたら自分から動けなくなっていたかも。なれなかった大人像を突きつけられたわけだし」
桜色セツナ:「だから私はアリスさんとねこグローブ先生。それにマネージャーさんとの関係に憧れていたんです」
真宵アリス:「そっか。情けない背中にも意味があるんだね」
桜色セツナ:「ちゃんとした大人の背中も見せてくれていることが前提ですけどね。いざというときに頼りなるから尊敬できるので」
真宵アリス:「ねこ姉は普段ポヤポヤしているけど作品見ると凄いと思う。マネージャーは普段はしっかりしている。あの二人を見ていたから私はもう一度立ち上れたのは確かだと思う。……でも」
桜色セツナ:「でも?」
真宵アリス:「やっぱりジェラートを勝手に食べつくしちゃったことは許せない!」
桜色セツナ:「そこは許さなくていいと思います。ダメなところはダメ。反面教師にしましょう!」
未成年組の話を肴にお酒を呑んでいた二人の大人は、この話を聞いて下を向いたという。
自分の行いを恥じたのか。
それとも溢れ出る涙を隠したのか。
当の本人達だけの秘密だ。
ただ普段よりも深酒して、翌朝アリスからお説教をもらっていた。
:大人は割と大人じゃない
:社会に出て思うよな
:さすが元子役
:早いうちから大人社会で働いている桜色セツナ
:さすが残念の概念の擬人化……こんなところでもネタにされる
:子供は下に見てくる人には敏感だから
:そういう態度って実は子供から見透かされている
:ちゃんと相手を人間として尊重しないとな
:目線を合わせるのは大事か
:虹色ボイス事務所は……まあ
:一期生は凄いよな
:なお二期生はカオスの模様
:あそこはもう積極的にバカをやる大学生のノリだから
:……クオリティが学生レベルじゃないんよ
:会話だけ聞いていると完全に漫才だからな
:アリスは過去が過去だから
:それにかなり真面目だからな……アリス
:心が折れた人が自分から動きやすい環境か
:尊敬できて安心できる大人がいる社会だから向き合えたわけか
:うん
:まあ……そうだ
:勝手に食べちゃいかん
:尊敬できるけど反面教師にもされる大人か
:ダメなエピソードも大量にあるのにカッコいい大人はいるよな
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