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【第2巻発売中】引きこもりVTuberは伝えたい  作者: めぐすり
第六章ーThis is my life, This is my story.ー
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第167話 七海ミサキとコラボ回②-ゴリラ狩りまでの道程-

『このライトノベルが凄い! 2025』

の投票が始まっています。


応援よろしくお願いします。

 七海ミサキは運命を呪った。

 あの過酷だったリアル脱出キャンプ回のあとにこれはきつい。

 どう考えても真宵アリスとゴリラの組み合わせは危険だ。


 いつものダウナーな真宵アリスでさえ手に余る。

 ゴリラを前にした暴走状態の真宵アリスなど制御できるはずがない。

 鉄砲水のごとく全てを押し流す光景が容易に想像できた。

 今日の配信は常識の範囲外。

 生きて帰れるだろうか。

 けれど逃げるわけにはいかない。

 さっき真宵アリスは言った。


『共闘です。仲間との協力プレイです。アニバーサリー祭では私だけボッチでしたからちょっと憧れです』


 軽い口調だったが本心のはずだ。

 仲間として奮起するしかない。

 普段から色々とボッチ行動させてしまっている。


 全ては周りの力不足が原因だ。

 追随できる力量がない。

 真宵アリスは単独で動かした方が面白い。

 それが虹色ボイス事務所の判断だった。


 結果として成功だったが三期生の他の面々はアニバーサリー祭で行われたライブは眺めるしかなかった。

 ステージに一人で立たせてしまった。

 あの羨望と後悔が入り混じった経験を忘れたことはない。

 力のなさをどれだけ悔いたことか。

 七海ミサキは死力を尽くす覚悟で決めた。

 対ゴリラで決める覚悟ではないのに、命をかけると決めてしまった。

 そんなコラボ相手の重い決意など露知らず、真宵アリスは意気揚々とゴリラ狩りまでの道程を語り始める。

 ずっと今日この日を心待ちにしていたのでワクワク顔だ。

 二人の心の内の落差が酷い。


真宵アリス:「今日のゴリラ狩りに至るまでには色々とありました。ゴリラは一日にしてならずです!」


七海ミサキ:「つまりずっと前から準備していたの?」


真宵アリス:「本当はアニバーサリー祭のお披露目でした。実はあの日PvMを行う予定だったんです」


七海ミサキ:「PvMというとプレイヤー対モンスターの略称だよね。じゃあアニバーサリー祭ではゴリラと戦うはずだったんだ」


真宵アリス:「そうです。ゲーム名は『ゴリラスタンピード!(仮)』です。結局仮のままリリースが遅れてしまいましたけど」


七海ミサキ:「スタンピード!? もしかしてゴリラが大群で襲ってくるの?」


 真宵アリスはコクコクと頷く。

 七海ミサキはゴリラの大群を想像して天を仰いだ。

 一匹だけじゃないとか、なにその絶望的な光景は。

 世界の終わりかな。

 など色々と言いたいことはあったが、楽しそうな真宵アリスを前になにも言えない。


真宵アリス:「輸入バナナが入ったコンテナをゴリラ強盗団から死守せよ。プレイヤーはコンテナを守るために陣形を組んで、大量に湧き出るゴリラを迎え撃ちます」


七海ミサキ:「もしかしてフィールドが港湾コンテナ区画だったのも?」


真宵アリス:「完全にゴリラの名残ですね。実はアニバーサリー祭のゲームでは、一つだけバナナが描かれたコンテナが目立つところに配置されていました。ゴリラのイースターエッグです」


七海ミサキ:「……ゴリラの名残にイースターエッグ。まあいいや。ジャンルはFPSではなく、タワーディフェンス寄りだね。自分の身体をリアルで動かす必要があるから、どちらも正確ではないんだけど」


:まずゴリラ狩りに至ろうとすることに疑問を……

:アリスにとってゴリラは宿敵だからしゃーない

:いまさらそんなことを気にするとか新参者か?

:ゴリラスタンピードwww

:ゴリラの大群に襲われるとか悪夢かな

:輸入バナナの入ったコンテナがゴリラの集団に襲われるニュースとか見てみたいw

:フィールドにバナナコンテナのイースターエッグ

:全部ゴリラの名残だったのか

:特定した! アニバーサリー祭でもマジで一つだけバナナのコンテナがあるw

:はえーよ

:早すぎるwww

:まだ全コンテナを調べたわけじゃないけどバナナコンテナは本当に目立つところにあるから

:あまり入り組んでなかったり迎え撃つための陣形が組みやすいフィールドだったのもアリス対策ではなくゴリラ想定だったのか

:なぜか脅威度をアリス一人>ゴリラの大群で判定してしまった


真宵アリス:「しかし残念なことお蔵入りしました。開発が間に合わなかったのです。前のバージョンにはテストプレイヤーとして参加したんですけど。問題点は二つ。一つ目はゴリラの再現度があまり良くなかった」


七海ミサキ:「ゴリラの再現度?」


真宵アリス:「グラフィックは文句なしの合格点。でも躍動感がなかった。加速と急停止も今ひとつ。動き出しの筋肉の動きがおかしかった。動作に単調さが目立ち、移動も横滑り気味。頭の高さが動かないのは良くないですね。ヘッドショットも決めやすかったです。回避や防御までの判断も遅くて。ゴリラ感があまりよくありませんでした」


七海ミサキ:「なにその専門的なゴリラ感。つまり簡単だったんだね」


真宵アリス:「少なくとも私はそう思いました。テストプレイも一人でクリアできたんです。でも周りの評価はそうではなかった。……二つ目の問題は難易度です。一期生の先輩方が四人で挑んで全滅したらしいんです。曰く『難しすぎる』『弾が当たらない』『当たっても倒せない』『避けるし防がれる』『ダッシュから飛び掛かってくるゴリラとかトラウマ』『クリアできるかこんなの』と」


七海ミサキ:「えーと……アリスちゃんは一人でクリアしたんだよね?」


真宵アリス:「はい」


七海ミサキ:「一期生の先輩方は」


真宵アリス:「四人で挑んだそうです」


七海ミサキ:「……もう一度聞くけど、アリスちゃんは一人でクリアしたんだよね?」


真宵アリス:「はい。私の方が先だったので、私がクリアしたから難易度調整が入ったのかも? それとも人数で難易度の変動があった可能性があります」


【一切ありません。真宵アリスと全く同じ内容で、一期生の四人には挑んでもらいました。四人にはフォーメーションの確認があったので、最初から好きな陣形を組んでいます。むしろ有利でした。それでも全滅しました。曰く『人類にはまだ早い』】


 テロップが流れて、真宵アリスの憶測は公式で否定された。

 真宵アリスはきょとんとしている。


七海ミサキ:「……難易度真宵アリスの弊害が出てる。普通のテストプレイヤーとしては不適格な人選だろうけど、イレギュラー検知として最適なのかな」


真宵アリス:「うーん先輩方が慣れてなかっただけかも。ヘッドショットで確殺なので倒せないことはないはずです」


七海ミサキ:「アリスちゃんも初見だったでしょうに。あとヘッドショットを当てれば勝てるが基準のゲームはたぶん理不尽だよ」


:ゴリラの再現度は重要だな

:思っていた再現度と違うw

:造形とかグラフィックじゃねーのかよw

:躍動感に動き出しの筋肉の動きにダメだしされるとは誰も思わない

:ヘッドショット決めやすかったはたぶんない

:アリスの思うゴリラ感とはいったい?

:難易度低かったんだ

:安定のボッチクリアw

:へ?

:一期生が四人で挑んで全滅?

:言っていること真逆じゃねーかwww

:さすがミサキチ確認は大事

:なるほど難易度の変動が……公式から即否定されたwww

:イレギュラー検知のデバッグ要因アリス

:存在がイレギュラー

:一期生でテストプレイやってよかったな

:アニバーサリー祭で鬼畜ゲー放送事故になるところだった

:その場合ソロクリアのアリス無双ゲーが始まるだけだろ

:本番のアニバーサリー祭がアリス無双だったんだが

:エイム力が違い過ぎる

:ヘッドショット確殺系女子


真宵アリス:「そんなわけで『ゴリラスタンピード!(仮)』は公開が見送られました。そしてアニバーサリー祭では、なぜか私がボッチで敵役に回るPvPが行われることになったんです」


七海ミサキ:「難易度調整よりもアリスちゃんの扱いが難しくて諦めたんだね。そのせいでアリスちゃんがレイドボス化したと」


真宵アリス:「本日は『ゴリラスタンピード! 真宵アリスバージョン(仮)』の公開テストプレイです。ゴリラ感マシマシ! 難易度は私に対する挑戦状として設定したと聞いてます。私もあのとき以来なので楽しみです」


七海ミサキ:「真宵アリスバージョン? えっ!? ちょっと待って! なんで私はそんな地獄に巻き込まれているの? 一期生の先輩方が全滅したときよりも確実に難しくなっているよね!?」


真宵アリス:「地獄?」


七海ミサキ:「あ……いや。まず普通の難易度から試してみたいなと思ってね。いきなり難しいのはちょっと」


真宵アリス:「ミサキさんの仰ることもわかります。ですから今からチュートリアルを行います。再現度の増した新ゴリラさんが一体だけ襲ってくるのでミサキさんが迎撃してください。私も新しいバージョンのゴリラを見るのは初めてです。はい光線銃です。チャージ制限などもないので撃ちまくりましょう!」


七海ミサキ:「あーうん……ここまで来たらやるしかないよね。はぁ……真宵アリスバージョンに挑戦か……」


真宵アリス:「それではチュートリアルスタートです!」


:難易度設定をバグらせる存在

:正真正銘の公式チートキャラ扱いワロタ

:『ゴリラスタンピード! 真宵アリスバージョン(仮)』とか絶対にやりたくない

:ミサキチもポロリと本音が漏れたな

:難易度真宵アリスに挑まされるのはさすがに理不尽だから

:チュートリアル開始か


 視線の先、フィールドの反対側に光のゲートから一体のゴリラが出現した。

 紛れもなくゴリラだ。

 デフォルメもされていない。

 全身が黒く巨大なマウンテンゴリラがそのまま再現されていた。

 前傾で両手を地面につき立っているその姿はどこまでもゴリラだった。

 そのゴリラが牙を剥いて、真宵アリスたちに向かって駆け出してくる。


七海ミサキ:「ゴリラの再現度高い! あと早い!」


真宵アリス:「ミサキさん早く撃たないと危険ですよ。突進してくるゴリラの時速は四十キロ。伊達ではありません。短距離走金メダリストよりも奴らは早いんです」


七海ミサキ:「わかってる。よし当たった! って倒れないの!?」


真宵アリス:「ヘッドショットなら確殺ですけど胴体は三発必要です」


七海ミサキ:「あれだけ上下左右に動くのにヘッドショットなんて無理! 避けられるし! よし当たっ……えっ!? 右手で防がれたんだけど!?」


真宵アリス:「ゴリラですから銃弾ぐらい避けるし防御もしますよ。でも確かに前よりも動きに躍動感があってゴリラ味が増してますね。少しヘッドショットも狙いにくいかも」


七海ミサキ:「そんなゴリラ味いらないから!? なにその理不尽さ。というか少し狙いにくい程度なの!? よし二発目当たった!」


 七海ミサキから放たれる光弾がゴリラの身体に吸い込まれた。

 当たったのはこれで二発。

 ゴリラも万全ではない。

 光弾を防いだ代償に右手が垂れ下がっている。

 そのせいでバランスが崩れて機動力が落ちていた。

 光弾も当てやすくなっている。


 倒せない相手ではない。

 ないのだが遅すぎた。

 すでにゴリラの間合いに入っている。

 ゴリラが左手を振り上げて跳躍する。

 虚を突かれた七海ミサキは反応が遅れた。

 人間の視覚は横移動する物体には反応しやすいが、上下運動への反応は鈍い。

 光線銃を持ち上げる動きが遅い。

 間に合わない。

 ゴリラの振りかぶった左拳が迫ってくる。

 あまりのリアリティに七海ミサキは本気で死を覚悟した。


 だがゴリラの拳は届かない。

 光り輝く槍がゴリラの首を抉り、脳天まで貫いたからだ。

 槍の主は真宵アリス。

 いつのまにか槍を持ち、涼しい顔でクルクル回していた。


七海ミサキ:「し……死んだかと思った」


真宵アリス:「油断大敵ですね。思ったよりも難易度は上がっていないですけど、リアリティと躍動感は合格です」


七海ミサキ:「これで難易度上がってないの!? 先輩方の言う通りトラウマものなんだけど!」


真宵アリス:「上下運動と回避防御の反応がよくなってます。でも引くことは知らないし、フィニッシュブローの跳躍中は割と隙があります。ヘッドショットの狙い目ですよ」


七海ミサキ:「できないからね!?」


真宵アリス:「でもミサキさんなら大丈夫です。胴体には当たってましたし。本番は輸入バナナコンテナの上に陣取って、スナイパーライフルで迎撃する役目ですから。スナイパーライフルならば胴体でも一発確殺ですよ」


七海ミサキ:「……それだったらできないこともないかも。三発当てるのは無理だけど」


真宵アリス:「今回はたぶん私も一人ではクリアできないでしょうし、ミサキさんが頼りです。前回は私も銃だったんですけど、今回槍なので」


 真宵アリスは再び槍をクルクル回す。

 その姿は様になっている。

 なっているのだがなぜか銃を持っていなかった。


七海ミサキ:「さっきは助けてくれてありがとう。でもどうして槍なの? やっぱりゴリラと対決するときは槍と決めているとか?」


真宵アリス:「いえ一対一ならともかく、さすがにゴリラの大群相手ならば私も銃を選びますよ。射程距離の差は絶対なので」


七海ミサキ:「ではどうして?」


 そこで真宵アリスは遠い目をした。

 少し切なげだ。


真宵アリス:「スタッフさんが『真宵アリス対ゴリラなら槍ですよね』と言ってきまして。私は『大群相手なら銃の方がいい。近接武器はスティレットのように頑丈で鋭い短剣もセットで』とお願いしたんですよ。でもスタッフさんは『真宵アリス対ゴリラなら槍ですよね』と繰り返すばかりで」


七海ミサキ:「もしかして……アリスちゃんまたナーフされた?」


真宵アリス:「ミサキさんがいるから心強いです。今回はボッチジアリスじゃないんですから」


 真宵アリスは黄昏ながら言い切った。

 真宵アリスの銃禁止。

 それが『ゴリラスタンピード! 真宵アリスバージョン(仮)』の意味だった。

 真宵アリスのヘッドショットが防げない。

 ヘッドショットで確殺などの機能をなくすと、ただ理不尽に難易度が跳ね上がるだけで面白くない。

 スタッフも苦渋の決断でナーフを決行した。

 そのお詫びとして呼ばれたのが七海ミサキだ。

 憧れの仲間との共闘。

 今回はボッチじゃない。


:ちょっと待てwww

:グラフィックが完全にゴリラw

:再現度高すぎワロタ

:まるで本物のゴリラがそこにいるかのよう

:時速四十キロ

:短距離走の金メダリストより上か

:胴体だと三発必要とかきついwww

:高速移動しながら避けて防御する的に三発か

:無理ゲー

:ヘッドショットなら確殺だから

:普通に当てるのも難しいのにヘッドショットなんてできるかw

:ゴリラ味www

:あっ!

:跳んだ

:ミサキ死んだ

:臨場感ヤバい

:えっ? なんか横から光の槍が出てきたんだけどw

:アリスかっけー

:槍をクルクル回すな

:スタジオでは高解像度でリアリティあるグラス型デバイスを使用しているんだよな?

:そのはずだけど

:仮想現実ゲームでゴリラに跳びかかられる体験とか絶対にやりたくねーわ

:ああいう機器を使うと画面越しとは映像と臨場感が完全に別物だからな

:納得のトラウマ案件

:一体でこれか

:そりゃあ一期生も投げるわ

:アリスまたナーフされてたwww

:それで槍か

:完全武装希望のアリスにこの仕打ちw

:完全武装案も酷いけどな

:スティレットでなにを突き刺す気だ

:ボッチジアリスw

:一人の方が上手いかもしれないけどやっぱり仲間とやりたいんだな


お読みいただきありがとうございます。


毎日1話 朝7時頃更新です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミサキチチェックは絶対必要。 アリスに基準の適度な難易度なんて常人が楽しめる代物じゃないよね。特殊部隊の訓練用として軍が導入を検討するレベルでしょ
[一言] 人類にはまだ早いゲームを初プレイでクリアしたのか… メイドロボは恐ろしい
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