第166話 七海ミサキとコラボ回①-真宵アリスわくわくする-
『このライトノベルが凄い! 2025』
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もうすぐデビューから一周年。
その記念に行われているのが三期生の連続ペアコラボ配信だ。
第二弾は七海ミサキと桜色セツナのキャンプ回だった。
グランピングなんて生温いものではない。
山に入り、一からテントを建てる本格的なキャンプ。
アウトドア恐怖症で虫嫌いな真宵アリスには縁のないイベントだ。
全力で拒絶する。
大自然の中で行うキャンプは、もちろんそれだけで面白い。
面白いのだが、群雄割拠の配信業界ではインパクトに欠ける。
普段の配信では見せない素の表情が垣間見れる。
ファンサービスとして需要はあるだろう。
だがすでに人気のある専門的な先駆者が多いうえに、内輪だけの盛り上がりと取られかねない。
いきなりキャンプ配信を始めても、ご新規さんは見ないだろう。
配信者として成功するならば、どんな回でも『こいつら面白いことをやっているな』と思わせる必要があるのだ。
常に人を惹きつけるチャレンジが求められている。
そんなわけで第二弾の七海ミサキと桜色セツナのコラボ回も混沌とした。
お題に書かれた役になりきりながら、ミッションをクリアを目指す。
クリアできなければペグ一つ貰えない。
そんなサバイバル企画の看板を掲げて始まった。
……最初だけは。
油断させてからのサプライズ。
虹色ボイスの企画ではよくある手法であり、一期生二期生の先輩方も乗り越えてきた道である。
突如キャンプ場内で発生する殺人事件。
そこから推理モノに推移するかと思いきや、唐突に溢れ出るゾンビの大群。
なにも知らされていない二人は二転三転する事態に振り回された。
果たして無事に生きてキャンプ場を脱出できるのか。
七海ミサキの対応力が光り、桜色セツナの演技力がドラマを作る。
そんなリアル脱出キャンプ回だった。
そんな第二弾も無事終了し、始まるのは真宵アリスと七海ミサキペアの第三弾。
その配信にはアニバーサリー祭で活躍したAR技術が用いられていた。
七海ミサキはリアル脱出キャンプ回の疲れを残しているが、対する真宵アリスはうずうずそわそわしている。
いつになく表情に生気が満ち溢れてテンション高い。
落ち着きがない。
非常に珍しい光景だ。
普段はダウナーで無表情。
じっとしていると思ったら、いきなり視界から消えて、移動している系メイドロボが真宵アリスだ。
それなのに今日は3Dアバターで同じところを行ったり来たりで忙しない。
すでに配信が開始されていることに二人は気づいていない。
それもそのはず。
まだ配信開始時間の三十秒前だ。
すでに映像が配信されてしまっていることがおかしい。
これはスタッフの悪戯。
落ち着きのない真宵アリスが珍しくて、行われたフライングスタートだった。
真宵アリスは勘が良い。
異変にすぐ気づく。
普段ならば簡単には欺けない。
今日の真宵アリスは、無断の配信開始に気づけないほどわくわくだった。
ちなみに画面上部のテロップにもこう書かれていた。
【珍しく真宵アリスがわくわくしています。しばしご観覧ください】
七海ミサキ:「アリスちゃん少しおち――あぁーーーっ! もう配信が始まってる!」
真宵アリス:「えっ!? スタートの合図はありましたか?」
七海ミサキ:「上のテロップ見て」
真宵アリス:「………………なるほど。今日のスタッフさんの顔と名前は覚えていますよ?」
【申し訳ありません! つい出来心で!】
真宵アリス:「今日はご機嫌なので許してあげます。でも次やったら酷いことをしますからね」
七海ミサキ:「酷いこと?」
真宵アリス:「スタッフさんの声帯模写配信を始めます。それとなく名前を出しながら」
七海ミサキ:「それはまた……アリスちゃんにしかできない地味な反撃」
【……どうかお情けをお願いします】
そんなわけで今日の配信は、冒頭から戦闘意欲高めでお送りしています。
:あれ始まった?
:まだ時間来てないよな
:二人ともなにも喋らない
:アリスがわくわくしてるw
:おいテロップw
:二人共気付けwww
:虹色ボイススタッフまたフライングスタートやったのか
:また?
:前に一期生のパンダコンビがやられていたな
:あのときは二人が淡々としりとりする音声が本番二分前から配信されたんだよな
:【本番前にもかかわらず、真剣にしりとりし続ける二人をお楽しみください】のテロップ有
:あのときは凄くシュールで笑えた
:一切無駄口を叩かない高速しりとりバトル
:いつも和気あいあいとかけ合いしているイメージだったのにしりとりで真剣勝負だからな
:どちらにしろ仲良し案件
:ミサキチ気づいた!
:アリスが慌てているの珍しい
:ああ……すぐにいつものダウナーに
:スタッフさんの顔と名前w
:さらりと怖いことを言う
:今日はご機嫌なのか
:酷いこと?
:スタッフの声帯模写配信w
:アリスならできるだろうな
真宵アリス:「それでは気を取り直して……おほん。やる気充電完了。お仕事モード起動。皆さまおはようございます。配信スタッフに対する叛逆の意志を内に秘め、今日こそは宿敵を狩る気満々なわくわく闘争型駄メイドロボの真宵アリスと」
七海ミサキ:「周りに振り回されっぱなし。最近は動画投稿だけではない。ちゃんと配信に慣れてきた。でも同期はもっと先を走っている。ようやく一人前になれたかなと思っていたのに、今も同期の皆の背中を追っている七海ミサキです」
真宵アリス:「ミサキさんミサキさんミサキさんミサキさんミサキさんミサキさんミサキさんミサキさんミサキさんミサキさんミサキさん!」
七海ミサキ:「ど……どうした急にセツナちゃんの声真似を始めて!?」
真宵アリス:「ミサキさんミサキさんミサキさんミサキさんミサキさんミザリー!」
七海ミサキ:「ミザリー呼びはやめて! 先日のキャンプとは名ばかりの配信を思い出すから! どうしてお題にサメ映画の冒頭で死ぬセレブなパリピ役とかあるの? 冒頭で死ぬことでお馴染みのセレブなパリピってなに? セツナちゃんはすぐに順応して、いきなり私のことをミザリーとか呼び始めるし。なんであんな無茶ぶりからエチュード始められるのか……本当に混乱いたんだから」
真宵アリス:「『ねえミザリー? 高難易度ミッションクリアの報酬が銀製のペグゲットだって。超ウケる。目指さない?』『あのねセツナちゃん……じゃなくてセツーニャ。ペグはテントを張るときに地面に刺す固定具のことだからね。銀製とか要らないの』」
七海ミサキ:「さすがアリスちゃん。私の最大の戦犯シーンをもう覚えたんだ。その節は申し訳ありませんでした。序盤で銀のペグを手に入れておけば後半が楽だったのに。しかしこれだけは言わせて。ゾンビを封印するための杭として、銀のペグが四つ必要とか、もうアウトドアじゃないから!」
真宵アリス:「あの配信のターニングポイントでしたね。でもおそらく戦犯ではないですよ」
七海ミサキ:「というと?」
真宵アリス:「銀のペグを手に入れていた場合はストーリーが変わります。たぶんミサキさん達がゾンビの封印を解いた犯人として、周りから責められていたのかと」
七海ミサキ:「ああ……なるほど。ゾンビ出現の原因は最初に殺されていた人が、封印の場所から銀のペグを盗んだからだったね」
真宵アリス:「セレブなパリピが余計なことをして災厄が解き放たれる。B級映画の定番です」
七海ミサキ:「嫌な定番だね。まさかあの配役がすでに罠だったとは」
:わくわく闘争型堕メイドロボだと!?
:宿敵を狩る?
:セツにゃんばりの名前連呼w
:ミザリーwww
:ミサキチがトラウマになってる
:普通にキャンプさせてやれよ
:セツにゃんはノリノリだったな
:これぞ桜色セツナの真骨頂と言わんばかりの七変化
:お題出されて数秒で「調いました!」と役に入っていたからな
:打ち合わせなしで振り回されるミサキチ
:相変わらず同期の声帯模写上手いな
:ほとんどのシーンをアリス一人で再現できるから
:戦犯w
:まさか銀のペグが伏線だったとはな
:キャンプ回でいきなりゾンビ出てくるとか思わんし
:インディーというかハムナプトラだな
:なるほどストーリーの分岐点か
:セレブなパリピに対する酷い偏見
:でもB級界隈だと本当に定番なんだよな
真宵アリス:「岬くん!」
七海ミサキ:「翼くん! ……ってだからどうした今日のアリスちゃん。お願いだから落ち着いて。私に声優さんの声真似はできないからね」
真宵アリス:「さっきのは誰の声真似でしょう」
七海ミサキ:「十七歳教のトップ。永遠の十七歳の声優さんがやっていたときの少年期の声帯模写で合ってる?」
真宵アリス:「正解です。同じ十七歳としてリスペクトを込めました」
七海ミサキ:「最近オフにやったばかりだからね。このキャラの声優さんは誰でしょうゲーム」
真宵アリス:「はい。その中でも同じ役なのに、アニメ化の年代で声優さんが違う難問編からの出題でした」
七海ミサキ:「近年はリメイクブームだけど、この作品はそれまでにも何度かリメイクされていたからね。そのたびに声優さんが違う。アリスちゃんには歴代全ての岬くんへのかけ声を再現してもらったし、さすがに間違えられないよ」
:なんでいきなりあのサッカーアニメwww
:十七歳教の人ってやってたの?
:なんでミサキチは答えられるんだよw
:アリスは本物の十七歳か
:その言い方だとあのお方が十七歳じゃないみたいだろ!
:おいおい
:こいつらオフになにやってんだw
:楽しそう
:同キャラ同作品声優別とかムズ過ぎる
:真宵アリスがいるから可能な遊びだな
:配信でやれwww
:この前のアリス劇場でも似たようなことやっていたぞ
:ニチアサの伝説の戦士の二十周年を勝手に記念して名乗りと必殺技と決め台詞の一人オールスター配信したんだよな
:何人いるんだよw
:八十人は超えていたな
:……伝説の戦士多すぎる問題
:時間がなくて配信でやらなかったけど歴代マスコットも全てできるらしい
:オープニングとエンディングもダンス付きで全て可能だとか
:まあエンディングに関してはこの界隈では珍しくない
:大友界隈やべぇ
:ヤバい繋がりで今気づいた……十七歳教の人がこのキャラやっているときも伝説の戦士が始まったときもアリスはまだ生まれてない
:あっちは二十周年だからな
:リアル十七歳が生まれているはずがない
:時の流れは早いな(泣)
真宵アリス:「さてお遊びはここまでにして、今日の配信に入りますよ!」
七海ミサキ:「アリスちゃんのテンションがおかしい。それで今日なにするの? 私は全く聞かされてないんだけど」
真宵アリス:「最近ミサキさんが聞かされてないこと多くないですか?」
七海ミサキ:「それは私も気になっていた。お願いだから指摘しないで。スタジオ入りが怖くなるから」
真宵アリス:「では気を取り直して、このスタジオを見てください!」
七海ミサキ:「アニバーサリー祭でやったメガネ型ARデバイスを用いたFPSのセットだよね」
真宵アリス:「そうです」
七海ミサキ:「まさか私が一人でアリスちゃんと戦うの? 無理だよ無理! どんなハンデもらっても勝てる気しないから!」
真宵アリス:「そこまで力強く対戦拒否しなくても今日は味方ですよ。共闘です。仲間との協力プレイです。アニバーサリー祭では私だけボッチでしたからちょっと憧れです」
七海ミサキ:「あのときは戦力比的に仕方がない。アリスちゃんの実力が突出しすぎているからね。結局あれだけハンデつけたのに、こちらの勝ちとは言えない結末だったし。それじゃあどんな強敵と戦うの? 私では力不足かもしれないけど、アリスちゃんを全力でサポートするよ」
真宵アリス:「ゴリラです!」
七海ミサキ:「へ?」
真宵アリス:「私の宿敵。人類の怨敵。奴です。あの憎きゴリラを今日こそ狩るのです!」
七海ミサキ:「いやゴリラを敵視しているのはアリスちゃんだけだけど。そうか……ゴリラか。今日のアリスちゃんのテンションがおかしいのもゴリラのせいか。なら仕方ないね」
:オープニングトークだったのかw
:今日は声帯模写企画なのだとばかり
:なにも聞かされずに現場に呼ばれるミサキチ
:それで企画を成立させる対応力があるからな
:最近はリズ姉もサプライズが多いな
:虹色ボイスに染まってきている証
:またFPSするの!?
:アリスとの対戦を断固拒否ワロタ
:唯一対抗できそうなのに
:身体能力はともかく武器の練度が違うから
:ミサキチも銃の練度が高いはずなんよ
:アリスみたいに光弾を打ち返したりはできないから
:突出しすぎてボッチアリス
:有能すぎて一人でなんでもできるから
:今日はアリスとミサキで協力プレイ!
:虹色ボイス最強コンビ爆誕
:いったいなにと戦うんだ?
:ゴリラwww
:えっ!? マジで!?
:とうとうゴリラを狩るのか
:本物は無理だからな
:ゴリラは絶滅危惧種だし
:ワシントン条約が邪魔をする
:アリス対バーチャルゴリラ!
:それでアリスのテンションがおかしいのかw
:ゴリラ相手だったら仕方ないよな
:だってゴリラだし
そんなわけでバーチャルゴリラ討伐回です。
さすがに本物のゴリラを狩ったら国が動くので仮想です。
ゴリラを狩るために第五章のアニバーサリー祭でARシステム導入したと言っても過言ではない。
全ての先端技術はゴリラを狩るために用意されてます。
※脇差でゴリラは狩れません。
リーチが足りないし、毛皮を断ち切るのがちょっときつい。
哺乳類の毛と脂と皮下脂肪は厄介です。
常識的に考えてゴリラを狩るには槍です。
脇差の出番は後半になります。
銘は『風切羽』です。




