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【第2巻発売中】引きこもりVTuberは伝えたい  作者: めぐすり
第六章ーThis is my life, This is my story.ー
166/218

第165話 結家詠の成長

『このライトノベルが凄い! 2025』

の投票が始まっています。


応援よろしくお願いします。

「……やっぱりないか」


 先日行われたリズ姉とのオフコラボ配信。

 その中で気になるコメントがあった。

 確認するために読み返していたのだが、すでに削除済みだった。

 内容は覚えているので問題はないのだが。


『アリスなんかあった?』

『粘着されてた……個人情報晒し系だったからすぐにバンされたけど』

『うわっ最悪』

『しかも情報が偏ったデマゴギーで犯人はアリスのいた学校関係者って話』

『まとめサイトとかにはまだ出没しているらしいな』

『学校に関しては正しい情報もあるけど真宵アリスに関してはほぼデマらしい(在校生情報)』

『学校名と本名書き込んだ時点でアウト』

『卒業済みの事件起こした学年と在校生の対立とかあの学校はまだドロドロしているから』

『在校生からしたら問題の学年を先輩と呼びにくいだろうな』


 こんな感じだ。

 配信者をやっていれば誹謗中傷は避けられない。

 悲しいことだが事実だ。

 数の力は影響力が大きい。多くの人の目に止まる。その全員から肯定されることはない。

 一定の層には否定される。

 多くは無関心で離れていくが、悪意を持って貶してくる人はいる。

 今までも私に対するデマや誹謗中傷はあっただろう。

 VTuber自体に否定的な人もいるので、ないほうがおかしい。


 私たち三期生は誹謗中傷が起きにくい時期にデビューした。

 二期生のロリコーン事件があり、虹色ボイス事務所が誹謗中傷に対して法的措置を打ち出していたのだ。

 そのため悪意にさらされることが比較的に少なかった。

 けれど時間が経てばみんなロリコーン事件の顛末を忘れる。

 同時視聴数や再生数が伸びれば露出が増える。

 アンチも増える。

 誹謗中傷は増えていく。


 今までは事務所に対応を任せて無視していた。

 けれど今回は今まで無視していた悪評とは異なるようだった。

 個人情報晒しとデマ。

 私の通っていた学校関連の情報が書き込まれていたらしい。

 あと結家詠という本名も。


 個人情報の書き込みははっきり言って犯罪行為だ。

 酷ければ即座に法的措置に踏み切れる。

 まともなサイトは危険だとわかっているから、書き込みを禁止するだろう。

 実際に犯人は各所で追い出されている。


 おそらく犯人はすでにブラックリスト入りされている。

 配信で目に付くところには現れることはできないだろう。

 プロバイダー経由で警告が行っているかもしれない。

 通常ならばこの辺りで消えるはずだが、まだ粘着し続けているらしい。


 具体的な誹謗中傷の内容などは私に届いていない。

 虹色ボイス事務所が隠匿して抹消している。

 私を守ってくれている。

 けれどその危機意識が私にも伝わってきていた。

 最近ずっとマネージャーがピリピリしている。

 マネージャー以外にも私を心配そうに見ている人がちらほらといる。

 月海先生とか隠すの下手だから。


 ネットの深いところまでエゴサーチすれば調べられるのだろう。

 でも私が知ったところでどうにもならない。

 それはチンコロ事件で学習済みだ。


「届かない人にはどんな言葉も届かない」


 ネット社会には四種類の層がある。

 私に興味がある層とない層。

 善意を持っている層と悪意を持っている層。

 この組み合わせで四層ある。


 いくら私が配信者として成功していても、私に興味のない層が大半だ。

 私の言葉は私に興味があって善意を持っている層にしか伝わらない。


 相手が悪意を持っていればどんな言葉も届かない。

 興味がなければ簡単に風評に流される。

 善意は持ってくれていても、興味がなければ言葉を聞いてくれないのは同じだ。

 法的措置で判決が下されて、ようやく悪意を持っている層が黙り込む。

 興味がなくて善意を持つ層も犯人たちが悪かったと信じてくれる。

 もちろん私に興味があって善意がある層は大切だ。

 力強い味方。

 居てくれるだけで心が救われる。


「あのときとは状況が違うよね」


 チンコロ事件のときは完全に私の言葉が届かない状態だった。

 誰も私に興味がない事件で犯人が捕まっても、なにも修正されずに私の名前だけが独り歩きしていた。

 だから絶望した。

 救いがなかったから。

 当時のことを思えば、今の状況は危機とは思わない。


 私の伝えたい言葉が多くの人に届く。

 私が言わなくても擁護してくれる人たちもいる。

 私を守ろうとしてくれる虹色ボイス事務所の存在も大きい。

 私自身が取れる手段も無数に思いつく。


「今ならどんな窮地も覆せる」


 鏡を見るといつもの無表情な自分の顔。

 自分の顔は大きく変わっていないが、瞳に生気が宿っている。

 引きこもっていたときは瞳がずっと死んでいた。

 あのころとは違うと断言できた。


「世界が敵に回ったとしても関係ない。反逆すればいい。ずっとそう言い聞かせてきたんだから」


 学校関連のゴタゴタに関して、沙羅さんに確認するべきかも悩んだ。

 でも連絡していない。

 今は多くの人が私を面倒なことから切り離す努力をしてくれている。

 なにも知らされていないのがその証だ。

 自分から関わりにいくのはダメだろう。


「私が配信に集中できるように皆が頑張っている。だから次の配信に集中しないと」


 ディスプレイから目を離して、大きく伸びをしながら後ろに倒れ込む。

 私が勝手に不安になっているだけだ。

 引きこもっている間に世界が一変して、多くの悪意に晒された。

 なにも反撃できなかった。

 そんな経験をしているから、不安を拭い去ることができない。

 今は周りに任せるしかないのに。


 枕に預けた頭をコテンと横に向ける。

 この一年で物が増えた。

 自分たちのグッズだ。私だけではない。三期生の仲間のグッズもあるし、一期生二期生の先輩方のグッズもある。

 大切な想い出が積み重なっている。

 この一年の成果が目で見てわかる。


 今の私はデビュー前の私よりも強い。

 チンコロ事件でなにもできなかった頃の私ではない。

 これから先の予定も詰まっている。

 光に照らされた未来が見えているのだ。

 私は闇の中にはもういない。

 天井に手を伸ばし、グッと拳を握りしめる。


「次はゴリラを倒す」


 その一言でミサキさんとのコラボ配信に意識が向いた。

 とうとう宿敵のゴリラをこの手で狩れるのだ。


「その次はセツにゃんが家に来る。部屋を片付けないと」


 セツにゃんの切望により、私の家にお泊りオフコラボが決まったのだ。

 私の思い通りにセツにゃんが動くわけがないので内容は任せている。

 段ボールハウスやマジックや大道芸のセットなど引きこもり時代の遺物はこれを機に捨てよう。


「それから四人全員でコラボして」


 楽しい未来が待っている。

 開演予定が詰まっている。

 その邪魔させない。


「世界に叛逆を目論む暴走型駄メイドロボ真宵アリスは暴走して、止まらない。応援してくれる人がいるから幕は降ろさないし、降ろせない」


『The Show Must Go On』


「皆に誓ってVTuberの真宵アリスになったんだから、もう屈しない」


 結家詠はもうネットの誹謗中傷に怯えない。

 身体に漲るのはかつて燃え尽きたはずの闘争心だ。

 心に刃を宿す。

 未来を切り開くために。


「あっ! そういえば私の脇差はもうできるかな。日本刀は長くて持てないけど、脇差なら切り裂けるよね」

お読みいただきありがとうございます。


毎日1話 朝7時頃更新です。


そんなわけで脇差回です。

とうとうゴリラと戦うおバカ回。

そこが終われば真面目で感動できるセツにゃん回となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] チンコロ事件と違って自分を守るために動いてくれている大人たちがいる。そしてアリス自身もそんな大人たちを信頼して対応を委ねている。自分自身も前より強くなったと実感している。 アリス、強くなっ…
[良い点] 前向きになっているところ! [一言] 脇差し!? も、もちろん鑑賞用ですよね? (でもそれなら普通のサイズの日本刀でいい?つまり)
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