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【第2巻発売中】引きこもりVTuberは伝えたい  作者: めぐすり
第六章ーThis is my life, This is my story.ー
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第163話 リズ姉とコラボ回②-冷凍マグロ流れる電波なライブ-

 冷凍されたクロマグロが如きおっさんが猛スピードで滑ベり落ちていく。

 その光景に真宵アリスは考えるのをやめた。

 配信を見ただけで宇宙ネコの境地に至れたのだ。

 現地でライブを行っていた二人の心労はいかほどだろうか。

 黄楓ヴァニラとリズ姉の禊は色々な意味で電波なライブだった。


 虹色ボイス事務所は変革期を迎えている。

 区切りとなった三周年アニバーサリー祭は大成功で幕を閉じた。

 そこに至るまで道のりを振り返れば、波乱に満ちた一年間があった。

 二期生崩壊の危機のどん底から始まり、三期生デビューで跳ね上がる。

 そこから始まった二期生三期生の大躍進。

 想定外の連続だ。

 結果的に危機を乗り超えての成功だが、慢心をすることはできない。

 マネージメントの立場で想定外は許されていないのだから。


 成功の裏に事務所のブランド力が影響したのは事実だろう。

 知名度による初動と拡散性の影響は大きい。

 けれど躍進したのは事務所の力ではない。

 個の力。仲間の絆。二期生も三期生も一人一人が輝きを放ったから躍進できた。

 虹色ボイス事務所は愚かではない。

 成功の喜びに浸ることなく、この一年間で起こったことをちゃんと分析していた。


 重要なのは演者の自主性と個性。

 二期生三期生は、プロとして与えられた仕事を完璧にやり遂げる一期生とは異なる強さを持っている。

 アニバーサリー祭のような事務所主体の大規模イベントは大切だ。

 けれど演者が本物の輝きを放つのはやりたいことをやっているとき。

 その個性が存分に発揮されたときに一期生のクオリティの高さを上回る爆発力があった。


 マネージメントを担当する事務所としてはその強みを活かすしかない。

 演者の輝きと爆発力が発揮されるようにバックアップする。

 想定外を想定する。

 計算できなくても許容範囲に収める。

 制御不能な暴走に対しても方向性と道筋だけは指し示す。

 そしてあらゆる障害は取り除く。

 全てを管理しようとしてはいけない。

 禁止事項で押さえつければ軋轢を生む。

 大切なのは自由に遊べる安全な公園を創るイメージだ。

 未来に向けてチャレンジ。

 虹色ボイス事務所はそんなマネージメント方針を掲げた。


 その第一弾が二期生の禊であり、ヴァニラ先輩とリズ姉の電波ソングライブである。

 普段から献身的に同期を盛り立てている二人だ。

 この機会に思いっきりはっちゃけてもらう狙いがあった。

 お姉ちゃんと幼女。

 二人のアバターが対照的だったのも大きい。

 コンビを組ませると面白いかもしれないという期待もあった。


 その結果、リスナーからは惨劇の裏アニバーサリー祭と呼ばれるほどのインパクトを残した。

 事務所スタッフもアニバーサリー祭の熱気に当てられておかしくなっていたのだろう。

 やりすぎた感が否めない。


リズ姉:「まずはあたしとヴァニラ先輩のライブから振り返りましょうか。リスナーの皆様は見てくれたかな? アリスちゃんは見てくれたんだよね」


真宵アリス:「リズ姉とヴァニラ先輩の本気の歌は凄かったです。本当に上手いんですけど、上手いよりも凄い。熱い気持ちが伝わってきました。……ライブステージの周りは地獄でしたけど」


リズ姉:「歌を誉めてくれてありがとうね。誰でもいいからあたしたちの歌を聞け! みたいなやけくそ気味だったから。本当にステージ周りが地獄だ……だから今日は膝の上でいいよね」


 ――ぺちぺち。


真宵アリス:「……もう諦めたので許してあげます。それであの芥川龍之介の『蜘蛛の糸』と太宰治の『走れメロス』を合体させて、電波漬けにして、腐らせたような、地獄のアイドルライブはなぜ開催されてしまったんですか?」


リズ姉:「……芥川に太宰。あの地獄を的確かつ文学的にまとめてくれてありがとうね。元から不穏ではあったのよ。禊内容が電波ソングライブと聞いた時点で違和感はあった。禊として弱いのよ。電波ソングを振りつけ有で歌って踊るのはそりゃあ恥ずかしい。でもプロが仕事としてやるのであれば、割と普通だったから」


真宵アリス:「私も歌うだけなら電波ソングでも気にしないですね」


リズ姉:「その不安は的中した。打ち合わせの開口一番に言われたの。『異次元チャンネルで生配信します』って」


真宵アリス:「……その時点で逃げたい」


リズ姉:「アニバーサリー祭で決められたのよ! 逃げられない。気づけば完全に外堀埋まっていた状態だったの。そしてヴァニラ先輩の本当の禊の内容が告げられた」


真宵アリス:「リアバレの恐怖との戦いですか?」


リズ姉:「そう! 二人同時に歌えなくなったらアバターを剥がして、リアルの姿を公開。当日アイドル衣装を身に着けてステージに立っている姿ね」


真宵アリス:「あんなことがあったヴァニラ先輩に対して酷な」


リズ姉:「むしろあんなことがあったからかな。ヴァニラ先輩も『自分から公開するつもりはないけど、すでに一度ネットに出ているからそれほど気にしない』と言っていたし。『私の禊に相応しいと。今度は自分でリアルの姿を守る』って」


真宵アリス:「プロ根性。……強いですね」


 あえてネタにすることでコンプレックス克服の証明にする意図だろう。

 企画に乗れる時点でコンプレックスを克服できていることが伝わってくる。

 リズ姉は完全にとばっちりでリアバレの危機にさらされていたが。


:俺も見た

:衝撃だったな

:二十四時間テレビ越え

:歌は本当によかった……歌は

:ほかのメンバーの影に隠れているけどヴァニラもリズ姉も上手いんだよな

:おねロリに目覚めた

:おねロリコンビ爆誕の地獄配信(アバター基準)

:もうカオス

:地獄絵図だったな

:異次元チャンネルはヤバい

:アリスwww

:蜘蛛の糸と走れメロスを合体させて電波漬けで腐らせた地獄ってなんだw

:言い得て妙

:地獄で仲間のために走っていたな

:蜘蛛の糸にすがるかのように

:ヴァニラはロリボイスで電波ソングをよく歌っていたから禊としては弱いか

:だからってリアバレをネタにするの禊として強すぎるだろ

:ヴァニラ強え

:そこに巻き込まれたリズ姉は芸人の鑑

:本番は途中で歌えなくなるほど過酷だったからな


リズ姉:「歌うだけ。歌えなくなったら罰ゲーム。これだったら別に問題はなかったのよ。あたしたちが練習して完璧に仕上げればいいだけだから」


真宵アリス:「ですね。リズ姉とヴァニラ先輩が歌って踊るだけなら、異次元チャンネルで配信しなくてもいい」


リズ姉:「それなのにうちの運営は全力であたし達を笑わせにくるのよ! マスクをかぶったおっさんサバイバーの面々が女装してバックダンサーとして踊るってなに!? しかも歌毎に足つぼシートや金ダライなどの仕掛けがあって、後ろから悶絶する声や甲高い金属音が聞こえてくるのよ。なにが起きているのか後ろが気になって仕方がない!」


真宵アリス:「……特に三曲目は反則でした。ヴァニラ先輩が笑い転げて歌えなくなったアレ」


リズ姉:「おっさんサバイバーの面々が一人ずつ決めポーズを決めて、落とし穴に消えていくやつね。隣で落ちる瞬間を目撃してしまったヴァニラ先輩が崩れ落ちて……しばらくあたし一人で歌うことに」


真宵アリス:「迫りくるリアル配信の恐怖。もう歌ではなく状況が電波でしたね」


リズ姉:「なにより酷いのはステージ上よりも、ステージから広がる光景の方が頭おかしかったことよ。なにあの大規模セット! 絶対にあたし達のライブステージよりもお金がかかっていたわよね!?」


真宵アリス:「おっさんが冷凍クロマグロのように流れていく」


:リズ姉とヴァニラは本当に仕上げていたからな

:二人ともマジで歌うめぇってなった

:アリスやリンが目立つけどリズ姉もヴァニラも普通に歌うまいんだよな

:歌と踊りは完璧だったな……後ろも含めて

:後ろもキレキレだったんだよな

:バックダンサーの主張が激しいんよ

:足つぼでのたうち回り金ダライの直撃を食らうおっさん

:前門の冷凍マグロおっさん後門の罰ゲームダンサーおっさん

:そして誰もいなくなった(落とし穴)

:ちょうどいいポーズで落ちていくんよ

:あまりにシュールすぎてヴァニラの腹筋が崩壊して戦線離脱したからな

:ステージ前の地獄にダンサー組も参戦

:禊の電波ソングライブがまさかの前座という壮大なスケール

:冷凍クロマグロwww


リズ姉:「本当になんなのよ。ステージの目の前で行われる坂道ローション障害物耐久マラソンって。……マラソンというほど距離もないし」


真宵アリス:「距離はあっても困りますね。一応異次元チャンネルを見ていない人のために説明すると、ダイバースーツに身を包んだおっさんサバイバーの方々が、ローションまみれ坂道を駆け上がり頂上のフラッグを取りに行くゲームです。コースはヘアピンカーブの折り返しありのカップ型。途中で凹凸エリアやバレーボールのスパイクエリアや大量のバナナの皮エリアなど障害多数のぬるぬる地獄でした」


リズ姉:「なぜライブステージの目の前にあんなものを用意した!?」


真宵アリス:「おっさんサバイバーがフラッグを取るまで、ライブを終われない仕様にするためですね。リアル公開の恐怖に抗うためには、いつまでも歌い続けないといけない」


リズ姉:「元々ライブの予定時間十五分だった。それなのに予定時間過ぎてもフラッグは頂上に立ったまま。用意した電波ソングのレパートリーはそこまで多くない。途中からぶっつけ本番で流れてくる曲を歌う羽目になったのよね」


真宵アリス:「むしろ十五分過ぎてからが本番でしたね。曲的に」


リズ姉:「……事前に許可取っていたんだろうけど、なぜ選曲が二十四時間テレビのラストなのよ。お陰で間違えずに歌えたけどさ」


真宵アリス:「ぬるぬる坂道の頂上にたどり着けたときに、君に打ち明けられるモノってなんでしょうね?」


リズ姉:「追いかけていた遥かな夢の道程に絶対ぬるぬるの坂道はない!」


真宵アリス:「でもおっさんサバイバーの方々は真剣でしたし、コメントも熱い応援で大盛り上がり。歌の力って凄いと改めて実感するにはいい企画でした。最初は大草原だったコメント欄が、リズ姉とヴァニラ先輩の歌に感化されて、一斉に応援を始めるんです」


リズ姉:「あんな必死に負けないでの想いを込めて歌ったことは人生初ね。早く終わってくれないと、アバターが剥がれてリアルの姿を晒すことになるんだから」


:えっ本当になにそれ?

:坂道ローション障害物耐久マラソンwww

:異次元チャンネル見てないんだけどマジなに?

:今すぐ見に行け! 産地直葬されるから

:こえーよ

:言葉通りだな

:アリスの解説ありがた……いや解説されても理解できねーわ

:フラッグ取るまで終われないライブ

:終わらないのっ!? という二人の悲鳴が耳にこべりついて離れない

:なにも聞かされていないのに次に歌う曲が流れ出すという地獄

:まさか電波ソングライブなのに電波ソングが前座で状況が電波だったからな

:二十四時間テレビの最後の二十分間だけ見たときの空気感

:あるあるwww

:時間調整したの丸わかりの本家より真剣に応援した

:本家越えのパロディ

:歌唱力は完全に上回っていたな

:本当にヴァニラとリズ姉の歌が盛り上げてくれた

:(リアル晒しの恐怖にさらされて)本気の応援歌

:リズ姉も上手いんだけどヴァニラが綺麗にハモってくるからな

:ヴァニラのまともな歌は意外な発見だった


真宵アリス:「十五分の予定が四十分まで延びたんですよね? その間ずっと歌い続けて」


リズ姉:「ええ……スタッフ的には二十四分を狙っていたらしいけど」


真宵アリス:「その間におっさんサバイバーの方々は、何回冷凍クロマグロみたいにローションの上を流れていたでしょう」


リズ姉:「黒いダイバースーツに身を包んで姿勢よく綺麗に滑り落ちていったからね。本当に冷凍クロマグロみたいに」


真宵アリス:「途中で滑り落ちるのに慣れてましたね。綺麗にヘアピンカーブも曲がり切って、出発地点に戻る人までいましたからね」


リズ姉:「慣れるな! ローションに抗え!」


真宵アリス:「最終的に俺の屍を越えてゆけ作戦が成功して、一番若い桂木シックスパックさんがフラッグを取りましたね。坂道の途中で止まることに成功した同僚を足場に突き進む姿は、涙の数だけ強くなっているようでした。フラッグを取った直後に足場が傾いて、滑り台からのジャンプ台の流れもよかったです。高く打ち上げられてプールにざぶーん」


リズ姉:「ローションを落とすためのプールだったらしいわね。他のおっさんサバイバーの方々もあとを追ってプールに飛び込んでいったし」


真宵アリス:「ローションの海から抜け出せなくなり、救護されている人もいましたね」


リズ姉:「最後までグダグダ」


真宵アリス:「ステージ上のリズ姉とヴァニラ先輩は楽しそうでしたよ?」


リズ姉:「笑うしかない状況だったからね。ヴァニラ先輩と一緒だと歌いやすいし、なんか絆で結ばれた気がする。あんなライブを経験すると、生半可なステージだと緊張しなくなるわね。身バレはもちろんだけど、ステージに仕掛けがあってローションに落とされるんじゃないか。そんな恐怖との戦いだったし。ステージ上に落とし穴がないか何度も確認したわ」


真宵アリス:「……あのカオスに勝る経験はあまりなさそうですね」


リズ姉:「じゃあ次はアリスちゃんの話?」


真宵アリス:「その前に師匠の禊について軽く触れましょうか。許可もらっているので。リズ姉はなにがあったか聞いていますか?」


リズ姉:「ううん。ライブの疲労で二期生の先輩方とは連絡をとってなかったから。碧衣リン先輩は寺送りだったよね」


真宵アリス:「はい。凄く真面目に修行していたみたいですよ」


リズ姉:「そりゃあご実家からの命令だもんね」


真宵アリス:「いえ……ご実家は関係なくて。寺生活二日目で管理している尼さんを病院送りにしてしまったみたいで」


リズ姉:「そっか二日目で尼さんをびょ……え? 今なんて?」


真宵アリス:「尼さん病院送りです」


 リズ姉がきょとんとした。

 真宵アリスが繰り返しても理解できなかったらしい。

 虹色ボイスの配信では割とよくある現象だ。


:四十分間で狂気と笑いと感動と狂気を存分に味わえた

:狂気成分多めだな

:二十四分テレビw

:たった四十分に永遠を感じた

:絶対に途中で諦めて遊んでいたよな

:この長い長い下り坂を~

:ブレーキ握りしめてもローションで止まれないんよ

:ローションの滑り選手権

:ローションボブスレーかな?

:一人だからスケルトン

:フラッグを取った瞬間に落とし穴とジャンプ台でプールに投げ落とされたのはもうw

:酷い以外の感想がない

:そりゃあ舞台度胸がつくだろうな

:ステージに落とし穴がないか確認するライブw

:おねロリコンビの次回作に期待

:最後までアバターの姿を死守したんだよな

:正直生のリズ姉見たかった

:テレビのバラエティだったら晒されたんだろうけどつまらない仕込みはしないから

:だな……あの緊張感の中で本気で歌ってアバターの姿を守ったからいいんだよ

:展開が読めると萎えるからリアル晒しはなくてよかった

:ガチだから面白い

:実家の命令で寺送りになった碧衣リンか

:はあ?

:二日目で尼さん病院送りwww

:なにしてんだ碧衣リンw

:軽く触れる内容でこの破壊力か

:さすが残念という概念の擬人化

:リンのことだから悪意はないんだろうけど

:予想外すぎるわ

:前言撤回……少しは読める展開を用意してくれ





 今回、書いてしまったネタの裏話。

 最近のテレビを見て、せっかくの大仕掛けでも演出が残念だな。

 そんな風に感じた反動です。


 せっかく大仕掛けを作っても、カメラに映る空間全てを演出してないと没入感がない。

 本当に安っぽく見えます。

 夢の国のアトラクションを単体で街の真ん中に設置しても夢がないのと同じ。

 演出は全体で作り上げるものです。

 あと対象人数が一人とか、セットに対して人間が少ないとか、カメラワークが寄り気味になってせっかくの大仕掛けが活かされていないとか。

 予算が限られているのだとしても、有効活用できないならば大仕掛けなんて作らなければいいのに。

 みたいな感情の産物ですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 事務所の悪ノリが酷いw オッサンサバイバーってことは当然専務も参加してるのよね。バックダンサーか障害物走かは知らんけど、何やってんすか専務w 往年の名曲がいくつも脳裏に浮かぶ……
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