第130話 ARクッキング②-紅カレンは呑みの締めのために料理する-
『引きこもりVTuberは伝えたい』第2巻
電撃の新文芸から今夏発売中!
【できあがった料理は演者スタッフ一同で美味しくいただきます。また深夜配信でも今回紹介する料理は出てきますのでご安心ください】
料理の行方を説明するテロップが流れて、三期生の七海ミサキと一期生の白詰ミワのコンビはカレーを片付けてスタジオから去って行く。
次に現れたの三期生のリズ姉となぜかフラフラしている二期生の紅カレン。そして紅カレンを支えている困り顔の二期生の翠仙キツネだった。
リズ姉:「さすがミサキさんとミワ先輩です。ARクッキングの便利さが皆様にも伝わりましたよね! 後続が楽です。本当に助かります。次はあたしの番なのですが……なに吞んでいやがるのでしょうかカレン先輩? なにまだ配信予定あるんですよ?」
紅カレン:「わたしゃーまだ呑んでにゃいってヒック!」
リズ姉:「赤ら顔で呂律回ってないのに!?」
全く信じていないリズ姉の糾弾。
その言葉に応えるのは紅カレンではなく介護している翠仙キツネだった。
理解が及ばず困惑している。
翠仙キツネ:「リズ姉……信じられない気持ちはわかる。でもマジやねん。カレンは今日まだ一滴も酒を呑んでないねん」
リズ姉:「えっ……ではなぜこんなフラフラに?」
翠仙キツネ:「カレンの奴さっきライブのときにバーカウンターで酔い潰れる演技していたやろ」
リズ姉:「はい。見事に末期状態で酔い潰れていました。見事と言っていいのかわからないですけど」
翠仙キツネ:「そしたらこうなった」
リズ姉:「こうはならんやろ!? 演技ですよね!?」
翠仙キツネ:「一応仮説はある。カレンは普段から呑み過ぎやろ?」
リズ姉:「そうですね。常軌を逸して呑んでますね。たまにカレン先輩の身体の体積よりも呑んでいるのではないかと錯覚しますね」
翠仙キツネ:「せやろ。たぶんカレンの身体の中には処理しきれない超過したアルコールを貯蔵しておく器官でもあって、呑んでないときにもアルコールを処理してんねや。だからわざと酔った状態になろうとすると、熟成されたアルコールが全身に回って本当に酔ってしまうと」
リズ姉:「勝手に酒呑み特化型新人類に進化しないでください!? えっ……じゃあ本当にお酒を一滴も呑まず、酔おうと思えばいつでも泥酔できると? 酔う酔わないも自由自在だと!?」
翠仙キツネ:「ああ……カレンの体内にアルコールが貯蔵している限りな」
リズ姉:「自分の血を酒に醸造でもしてるんですかこの人!」
紅カレン:「酔えば酔うほど私は強くなる!」
リズ姉:「酔拳か!」
:スタッフが美味しく召し上がります
:軽い休憩中らしいからガッツリした食事はないらしい
:お約束だな
:確かにわかりやすい説明だったな
:本当に安心と安定のみさきちとミワちゃん
:リズ姉が嬉しそう
:ん?
:まさかマジで酔っているのか
:酔った状態で生配信に出るなんてやっていいわけ……カレンの場合いつもでは?
:むしろ呂律の回らないカレンがレアな件
:どれだけ泥酔してんだ
:食事後に大運動会的な運動イベントもあるから今日はダメだろ
:キツネが介護要員で出てきている
:なんだ吞んでないのか
:カレンのバーカウンターに突っ伏す姿は深夜の末期状態の関わってはいけないОLを体現していたな
:カレンの呑みすぎ問題
:体積を超える量とか草
:ん?
:………ん?
:???
:なるほど……わからん
:紅カレンは人間じゃなかった?
:バーチャルだからな
:そういう問題じゃないw
:酒呑み特化型新人類www
:ヤバい人間はいつの間にか進化していた!
:なんだってぇぇぇーーー!
:いや草
:そっか紅カレンは体内で血を酒に醸造している……なぜか納得できた
:キリストかな?
:呑んだくれ新人類説はキリストもキレるだろ
:酔えば酔うほど……カレン酔拳無敵では?
:呑まなくても泥酔できる最強の酔拳
:このお笑いトリオは相変わらず安定してるな
翠仙キツネ:「まあ落ち着き。あと十五分もすれば酔いも完全に引くらしいから」
リズ姉:「酔いがさめる時間もコントロールできているんですね。はあ……カレン先輩の生態は気にしたら負けなのでいいです。メニュー発表をお願いします」
紅カレン:「ん! ヒック……好きなものごった煮のカニすき風のおでんで作る締めのラーメン!」
リズ姉:「ちょっと待て! えーとカニすきなの? おでんなの? ラーメンなの?」
紅カレン:「リズ姉はちゃんと乳に記憶しろ! 私の好きなものごった煮のカニすきの風味が香る関西風のおでんもどきで作るラーメンは酒の締めにいいよね二十歳の夜だよ!」
リズ姉:「なんか複雑になった!? あと乳に記憶しろって喧嘩売ってますよね!?」
翠仙キツネ:「あー話が進まんから。関西風おでんのベースを作ります。昆布とカツオの出汁。薄口醤油。酒。味を調えるための塩。で……ええんやんな?」
リズ姉:「キツネ先輩ありがとうございます。結局おでんでいいんですね」
紅カレン:「そう言っているでしょ。甘めのカニすき風に仕上げるため酒ではなく本みりん。あとカニの匂いを足すためにカニすきの粉末出汁も入れる」
リズ姉:「あー甘めで……あの表示されるレシピの分量が全て適当なんですけど」
紅カレン:「いつもそうだから。ヒック……ん出汁のベースに薄口しょうゆと本みりんを適当に入れて味を調節するだけだし。一応おでんだから煮詰めることを考えて全体的に薄めだよ。あと煮込む具材も出汁出るから塩味は控えめ。というか基本が出汁と醤油と酒とみりんと砂糖と塩だよ? 濃くしすぎたりしなければどうやっても不味くならないし、細かい味付けは好みでいい」
リズ姉:「好みって……これ配信用のレシピ紹介ですけど」
紅カレン:「じゃあ、そのまま使える市販の液体の関西風おでん出汁を少し水で薄める。そこに本みりんを加えてカニすきの粉末を投入でベースは完成」
リズ姉:「スタッフ! どうしてカレン先輩にレシピ提供させた!?」
:好きなものごった煮のカニすき風のおでんで作る締めのラーメン?
:リズ姉困惑のメニュー
:乳に記憶しろw
:乳に記憶できるのか
:カレンwww
:しかもメニュー名が変わってる
:本当に感性だけで生きてるなこいつ
:酒の締めにいいよね二十歳の夜は料理じゃなくて感想では?
:そしてキツネが間に入ると
:ただの夜呑み配信じゃねーか
:先ほどまで真面目にクッキングしていたみさきちとミワちゃんって凄いんだな
:この同じコーナーでメンバー変えるとこうも別物になるのか
:レシピが適当は草
:カレンの言わんとしていることはわかるけど
:市販のおでん出汁www
:そういう意味ではミワちゃんのレトルトカレーも同じなのになぜかカレンだと手抜き感が出るな
:こうしてリズ姉はツッコミ技術を向上させてきたのか
翠仙キツネ:「さて具材ですが大きくちぎったキャベツ。適当に切った人参。ゆで卵は好きな数。二口ぐらいで食べることができる皮のパリッとした市販のウインナーを丁寧に水洗いして一パック。……これおでんなん? ポトフと間違ってないか?」
紅カレン:「ツネちゃんなに言ってるの? 日本酒や焼酎に合うのがおでん。ビール以外の洋酒にも合うのがポトフだよ」
リズ姉:「……せめて和風出汁ベースかコンソメ出汁ベースで判断して。それにウインナー以外の具材が適当だし」
紅カレン:「おでんの出汁を吸って少し甘くなっている皮のパリッとした食感が残っている二口サイズの市販のウインナーが私の好物なの! 呑み屋だとおでんはあっても、市販サイズのウインナーをそのまま提供する店ってほとんどないからね。私がおでんを作る理由のその一だよ!」
翠仙キツネ:「目的の具材以外は適当なんやな。他は表面積が多くなるように斜めに切ったちくわ。はんぺん。かまぼこ。さつま揚げ。そして本物のカニの足の食感を再現したそのままでも食べられる高級かにかまを大量に投下」
リズ姉:「なんか魚の練り物ばかりですね。それに高級かにかまを大量に投下って」
紅カレン:「カニすき風だからね。おでん出汁でカニが食べたかったの。私がおでんを作る理由その二。最近はコンビニでも百円と少しで売っているでしょ。酒の肴に美味しい奴。ただのカニかまではなく、カニの足の食感を再現した美味しい高級品のタイプじゃないとダメだからね」
翠仙キツネ:「そしてそれを何時間も煮込む」
リズ姉:「本当に目的の食材以外適当ですよね」
紅カレン:「失礼な! ちゃんと最後にラーメンとして楽しむために煮込むほど出汁が美味しくなる具材を厳選したんだよ! 私がおでんを作る理由その三だし! お酒を呑んだ締めにおでん出汁のラーメンを食べるために、おでんを作ると言っても過言ではない!」
翠仙キツネ:「それで魚の練り物が大量に入ったわけか」
紅カレン:「うん! 魚の練り物は海鮮の良い出汁が出るし、塩味も出るからね。それにおでんの具材としても美味しいし」
リズ姉:「おでんの具材としてメジャーなこんにゃくやジャガイモが入ってない理由は?」
紅カレン:「こんにゃくは出汁が出ないし、ちゃんと下処理しないと臭みが出るからね。あとジャガイモは出汁が濁る」
リズ姉:「大根とウインナーとゆで卵は?」
紅カレン:「私が好きだから」
リズ姉:「……今凄く理不尽な気がしました」
:適当過ぎるwww
:具材がポトフだな
:カレン式おでんとポトフの違いw
:リズ姉もツッコミ疲れてきたな
:料理ってこんなにもツッコミどころあったっけ?
:おでんの煮込まれた市販のウインナー好きはなんかわかる
:出汁を吸って少し甘くなっているのがいいんだよな
:カレンがおでんを作る理由その一
:大量に魚の練り物と高級カニかまが投入された
:カニのおでんが食べたかったからw
:金沢だっけ?
:カレンがおでんを作る理由その二
:他の具材は締めのラーメンのスープを作るためか
:なんというか本当にカレンの料理だな
:確か前に締めのラーメンを美味しくいただくために三日間おでんだけで過ごす配信とかやってたな
:レシピ通りに目的の料理を作るのではなく締めのラーメンを目的にレシピを作るタイプ
:適当なのに割と美味しそうなのが受け入れられない
:具材切るのにARの赤い線出ているけどもうARクッキングじゃなくていいなこれ
:レシピ不在の感性で作る料理にARクッキングが宝の持ち腐れなのがよくわかる実例
:でも腹が減る
リズ姉:「ここから何時間も煮込むとして、これ本当に美味しいんですか?」
紅カレン:「む! 美味しいよ。たまに作ってるから。リズ姉みたいな人のために料理番組でお馴染みの事前何時間も煮込んだモノが用意されているから少し待って」
翠仙キツネ:「カレンの奴、話している間に完全に酔い覚めとるな」
リズ姉:「そうですね。そう言えばキツネ先輩予定になかったのに手伝ってくれてありがとうございます」
翠仙キツネ:「ええよ別に。リズ姉にはいつもお世話なっとるし。リズ姉がカレンの相手してくれて楽やから」
リズ姉:「……いつも大変ですね」
翠仙キツネ:「大変やけど楽しいやろ?」
リズ姉:「ですね」
紅カレン:「かっぱらってきたおでん出汁を小鍋に移して、中華麺とかにかまとかまぼことゆで卵とウインナー入れてきたよ! これを煮立たせて、あとは麺に火が通れば完成。これに柚子胡椒とかトッピングしてもいい」
リズ姉:「かっぱらってきたって……まあスタッフが許しているみたいだからいいですけど。それにしても本当にラーメンみたいになりましたね」
紅カレン:「よしできた! 締めのラーメンだよ」
リズ姉:「まだ締めじゃないけどいただきます。えっ? ちゃんと美味しい! 少し甘めの和風出汁にカニの風味や海鮮の旨味が沁み込んでる」
翠仙キツネ:「甘めの海鮮おでん出汁が沁みる。まさに締めって感じやな。それに柚子胡椒のおかげで味にアクセントが出てええし」
紅カレン:「ズズズッ! よし二軒目行こう!」
リズ姉:「締めとは一体!? 次はセツナちゃんとアリスちゃんの未成年コンビの料理があるんですけど!?」
紅カレン:「アリスちゃんの呑み料理なら期待できるね!」
:料理番組お馴染みの用意済みの煮込んだ完成品w
:絶対に美味いんだろうな
:最後までレシピ適当だったのに
:時間経過でカレンが酔いから醒めていった
:この三人の呑み配信はずっと見ていられる
:キツネがツッコミをリズ姉任せにして進行するバランスの良さ
:柚子胡椒!
:あー腹が減る
:酒の締めには甘めで味が濃い汁
:しかもカニの風味とか
:柚子胡椒で香りが立ち味も引き締まるし
:締めに食べたい
:二軒目w
:本当に締めとは一体……
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