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【第2巻発売中】引きこもりVTuberは伝えたい  作者: めぐすり
第五章ーBe Ambitious! 輝け虹色の未来祭ー
124/218

第124話 全員集合3rdアニバーサリー祭会議④-輝け虹色の未来祭-

『引きこもりVTuberは伝えたい』第2巻

電撃の新文芸から今夏好評発売中!

 今日の会議と関係ないが、一期生の先輩方の話を聞けてよかった。

 沙羅さんも進路については迷いがあるらしいので参考になればいい。

 私がそんな風に考えているとリズ姉が立ちあがった。


「本当に参考になりました! ミワ先輩。一期生の皆さま。本当にありがとうございます。おかげで三期生の発表する方針が決まりました!」


「えっ? いつの間に!?」


「今さっき。ずっと横でミサキちゃんやセツにゃんと相談してたの」


「……私役立たず。ずっと関係ない話をしてた」


「なに言っているの? アリスちゃんとミワ先輩の話を聞いて決定したようなモノよ。アリスちゃんグッジョブ!」


「だね。文化祭に進路。横で聞いていて私達が出すべき方針の参考になったよ。ありがとうアリスちゃん。そしてミワ先輩もありがとうございます。私は事前準備なしの飛び込み組で拾ってもらったので、身につまされる話でした。もっと前から準備してレッスンを受けておけばと何度思ったか」


「一見関係ない話からも私達も導いてくれる。さすがアリスさんです!」


「導いてないよ?」


「全く関係ない話をするのは大切なんですよ? アニバーサリー祭の方針を決めよう。そんな風に凝り固まった頭ではアイデアは浮かばない。アリスさんとミワ先輩の話を聞いていたら『これはいいんじゃないか』って考えが次々と浮かんできたんです。ブレインストーミングです」


「役に立ったならいいけど」


 役に立てたのは本当みたいだ。

 私はまたハブられているけど。

 ハブられボッチだけど。

 参加していても意見なんか思いつかないから役に立たないけど。

 釈然としない。

 私もいつか皆で和気あいあいとなにかを決めるようになるのだろうか。

 そんな自分は想像できない。けれどそうなりたいとは思う。

 そのためにはしっかりとした自分の主張を持たないといけない。

 でも今は私の気持ちは関係ない。

 リズ姉の発表を聞かないと。


「三期生が示す虹色ボイス三周年アニバーサリー祭の方針は『これまで。そしてこれから』です」


「過去と未来ってことかな。詳しく聞かせてもらえる?」


「はい。三期生がデビューしてから……いえその前から虹色ボイスでは色々なことがありました。過去の活動を振り返る。振り返るだけじゃなくパワーアップさせてリメイクする。ただ過去を踏襲だけではない。あたしたちの未来と発展を見据えて、新しい挑戦を企画に組み込んでいく。以上です。ダメでしょうか?」


「いいと思う。うん……いい。それでいこう。元々一期生は後輩に丸投げだし。二期生は?」


「これで決まりでええんちゃう? 一期生が丸投げなら二期生は発言権なしやで。まあ本当になにも言わんのは三期生も不安になるか。注文つけさせてもらうとインパクトが薄いかな。方針はええ。でも惹きが弱い」


「じゃあ煽り文句は『虹色の未来を描け! 私達のこれまでとこれから。新たな挑戦を加えて大好評だったあの企画が大拡大版で帰ってくる』とか? 略称は『輝け虹色の未来祭』。もちろん詳細はあとで詰めるけど」


「それなら大丈夫やろ。リメイク企画を発展させてやるという意図も伝わるし、新たな挑戦をするのもわかる。リズ姉もこれでええ?」


「え……あっはい!」


 三期生の方針はすんなりと受理された。

 リズ姉によってわかりやすい説明が加えられたのがよかったのだろう。

 それにしてもさすが一期生と二期生だった。

 ミワ先輩とキツネ先輩によって瞬時に修正点が洗い出されて、より伝わりやすく肉付けされていく。三期生の案を全て採用したうえで。

 その早さにプレゼンしていたリズ姉も圧倒されていた。

 ミワ先輩が苦笑いする。


「そんな不安がらなくて大丈夫。今決めているのは方針だからね。キツネちゃんも言っていたけど、皆が一つの方向に向かっていくためにキャッチフレーズみたいなモノを決めただけ。意図も目的も内容も盛り込まれていた。本当にいい案だったのよ」


「ありがとうございます」


「それじゃあ座って。実際の企画の話し合いに入るから資料を配るわね。事務所からの要望や企画案ももちろんある。資料を見ながら三期生が打ち出した方針に従って決めていきましょう」


「へぇーちょうどええやん」


「えっ……これって」


「驚くわよね。実は一期生は先に資料を読んでいてね。二期生三期生で方針案が出ない場合は『最先端技術を用いた新たな挑戦! 未来祭』に決めていたの。先入観を持たせたくなくて二期生三期生には資料を伏せたけど。でも結果的に後輩に丸投げしてよかったわ。過去企画のリメイク。ただ未来を示すよりも、これまでの活動という過去のリメイク。過去から未来へという時間の流れを感じさせてくれたから」


 ミワ先輩の言葉を聞きながら資料をめくる。

 事務所から提示されたのは先端技術を用いてなにができるかという資料群。

 すでに企画として決定済みの項目もあった。

 ライブと打ち上げの大宴会。

 少しカレン先輩の影響が残っているが『隠れ家居酒屋アリス』の第二回の要望がかなりあったらしい。

 深夜帯に長々とやるにも最適で、外す理由がなかったとか。

 ただし今回は規模が大きすぎるうえに私を裏方に回すわけにはいかない。

 大量の料理の仕込みなどをしている暇はない。

 だからメインとなるイベント料理を数品作るだけで、他はちゃんとプロに頼むらしい。

 でも重要なのは宴会ではなく、ライブに用いられる先端技術の方だろう。


「さて資料を読んで具体的になにがしたいのか。企画を決めていこうか。なにか案が――」


「――はい! 一期生四人でちゃんと作り込んだライブステージをやりたい! 最近バラバラで活動すること多い。四人でのライブステージの要望も多い。絶対に組み込もう」


「そうね。過去からのパワーアップしたリメイクという方針にも合うし。二期生三期生も育っているからこそ一期生の本気のライブステージ。一期生の見せ場も必要よね」


 レナ先輩が食い気味で立案して採用された。

 一期生は先に資料を読んでいたらしいので、ずっと温めていた案なのだろう。


「二期生はなにかある? あといい加減カレンちゃんの拘束を解かないの? 資料読めないわよ」


「せやな。ヴァニラ外してやって」


「うん」


「ぷはっ! 大宴会! あの宴再び!」


「深夜の呑み会はすでに組み込まれとる。さすがに負担が大きすぎるから、アリスちゃんに全ての料理を任すことはないけどな」


「じゃあ私から言うことはない!」


「でもカレンちゃんは不正したから断酒かな。一か月ぐらい」


「……………………え」


 ミワ先輩の宣告によりカレン先輩から表情が消えた。

 人間はたった一言でこれほど急変するのか。

 悲壮な表情。

 闇に落ちた瞳。

 絶望がそこにあった。

 慌ててキツネ先輩が救いの手を差し伸べる。


「……ミワ先輩。それは勘弁したってや」


「意外ね。キツネちゃんはカレンちゃんの断酒に賛同すると思っていたけど」


「カレンはな……断酒すると体調に異常をきたし、性格も変わる体質やねん」


「なにそれ? お酒を呑むと性格が変わるのは聞くけど」


「マジやで。前にうちがカレンの断酒を強行したんや。三日断つと体調不良で倒れて虚弱になる。一週間断つとベッドから起き上がらず、穏やかな深窓の令嬢になり果てる。この頃になると遠い目をするばかりでお酒が欲しいという要求もなくなる。ウチは見ていて十日が限界やった。令嬢カレンはごっつ気持ち悪いで。違和感しかない。一か月断酒させたら世を儚んで消えてしまうわ」


「……令嬢カレンちゃんは見てみたくもあるわね。でも活動に支障をきたすのはダメか。断酒はいいわ」


「ホント! お酒呑んでいいの! ツネちゃんミワちゃん先輩ありがとう! お酒の神ありがとうございます! サケトケノカミ様! オオヤマクイノカミ様! クスノカミ様! スサノオノミコト様! バッカス様!」


「……即座に酒の神を列挙して祈りを捧げるとは、さすがカレンちゃんね」


 封印の解かれたカレン先輩が祈りを捧げている。

 悪霊ではなくお酒の神様が憑りついているのかもしれない。

 そんなことより私もなにかリメイク企画を考えないと。

 すると視線を感じた。

 碧衣リン先輩とヴァニラ先輩がこちらを見ている。


「えーと他にリメイク企画の立案はある?」


「はい」


「ヴァニラちゃんどうぞ」


「リメイク企画ではないけど私達はこの一年で色々ありました」


「そうね。ヴァニラちゃんは特にね」


「その中から想い出深い出来事をピックアップしたい」


「ふむふむ」


「私がこの一年で一番衝撃的だった出来事。それは婚姻届をもらったこと」


「……へ?」


「うん。私も婚姻届を渡したことは人生の一大決心」


「そ……それはそうだろうね」


 視線が私の方に集まる。

 この話題は私も関係者。

 関係者で確かに衝撃的だった。


「……私も実名が記載された他人の婚姻届けを受け取ってシュレッダーにかけたのは人生で初めてでした」


「そうでしょうね! あってたまるか! よし分かった! 採用! それもネタに盛り込みイベントにしましょう!」


 謎の企画が決まった。

 つい乗ってしまったがよかったのだろうか。

 婚姻届のリメイク企画ってなんだろう。

 わからない。


「他になにか案はある?」


「そう言われてもな」


「あっ! そういえば事務所からの要望があったんだった。キツネちゃんカレンちゃんミサキちゃん」


「えっ? 私もですか?」


「うん。特にミサキちゃんの作業量が多いかも? 三人とも本出しなさい。自社出版のアニバーサリー本だけど、ゲームとお酒のレビューも貯まっているでしょ。ミサキちゃんはレクチャー本ね。特にミサキちゃんは今後の活動で本の出版依頼が来る可能性が高いから、今のうちから慣れておいた方がいいわ」


「本の出版依頼ですか?」


「レクチャー動画の世界では出版に至るケースは多いのよ。自社出版でも一度経験しておいた方がいいでしょ」


「わかりました」


「はいはいはい!」


「なにセツナちゃん」


「アリスさんの情報を満載した私のための私によるアリスさん布教本を出したいです。アリスさんクイズ千選。アリスさんクロスワードパズル。アリスさんピクロス。なんでもできます」


「えっ!?」


「採用で。でもクイズ千選は多いから百選ね」


「了解です」


「えぇっ!?」


 謎の本出版が採用された。

 セツにゃんは満足気だ。

 その後も次々決まっていく企画やグッズ販売。

 私もリズ姉も立案こそしないが参加する予定の企画が多い。

 リズ姉は司会やイベント間の中継ぎなどがあるらしい。

 私もライブを中心に強制参加だ。

 当日は目まぐるしく動くことになる。


「ねえ。アリスちゃんはなにかないの? やりたいこと。リメイクしたいこと。やり直したいこと。なんでもいいの?」


「……リメイクしたいこと」


 ミワ先輩がたずねてきた。

 参加する企画は決まっていく。

 予定は増えていく。

 でも私から立案したわけではない。

 それを見かねたのだろう。

 私に具体的な案があるわけではない。

 でもせっかく差し伸べられた手だ。

 私の中にリメイクしたいことが一つだけあった。


「私は……」


「うん」


「初めてコラボした日。一期生とのコラボをやり直したいです。大遅刻してしまったから」


「……あの日のリメイクか」


「ダメですか?」


 ミワ先輩が困っている。

 当たり前だ。具体性がない。私の中にも形がない。企画になっていない。

 でもやり直したいと思ったから言ってしまった。


「うーん事務所としてはアレって大成功モデルなんだよね。元が三期生の歓迎会。ただお喋りしてゲームするぐらいの企画でしかなかったの。それが予想外のハプニングで大盛り上がり。むしろ助かってくれたぐらいなんだけど。……あの日をリメイクか」


「いいじゃん! もう一度しようよ! もう一度したい! 前回は瞬殺されたし! ランランもそうだよね!」


「だね。今度は油断しない。一秒でも長く延命する!」


「負け前提じゃん」


「はいはいはいはい! 生で黒猫メイド伝説見たい! パワーアップした伝説再演! ライブと宴会に次ぐ祭の目玉として完璧!」


「ウチら二期生も噛ませてもらってもええか? 前回は参加してなかったですけど」


「もちろん全員で走り回ろ!」


「またアリスちゃんに挑むのか。いいね」


「今度こそ自分の力でアリスさんの背中を追います」


「あ……あたしは給水係でいいかな」


「伝説の再演。うん出来そうね。もう一度あのときのコラボをやり直そうか。意図したやり直しとは違うかもしれない。でもちゃんと企画として作り直す。ねえアリスちゃん。これでいいかな?」


「はい!」


 文句なんかあるわけがない。

 私の発案で皆が動いてくれようとしている。

 自分の意見というには具体性がない。

 それでも私の意をくみ取ってくれた。真剣に向き合ってくれた。動き出そうとしてくれている。

 虹色ボイス三周年アニバーサリー祭に向けて頑張ろう。

 とても楽しくなる気がする。



お読みいただきありがとうございます。


毎日1話 朝7時頃更新。

次回からいきなり本番のアニバーサリー配信です。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ、未公開映像しかなかった奴www
[一言] MVPなのに常にハブられボッチのアリスこれ如何にw なんかもうこの扱いが標準になりつつあるよね。Re.黒猫疾風伝も……ゲフンゲフン アリスさんの情報を満載した私のための私によるアリスさん布…
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