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【第2巻発売中】引きこもりVTuberは伝えたい  作者: めぐすり
第四章 ーBe yourself, Everyone else is already takenー
112/218

第112話 私だったのだ生配信③-私の鏡-

『引きこもりVTuberは伝えたい』第2巻

電撃の新文芸から発売中です。

夏休みの一冊にいかがですか?

ご購入をお願いします。

(第2巻発売なのでしばらく宣伝を入れます)

「……取り乱しました。申し訳ございません」


 不安だ。

 今日の配信は不安だ。

 実は今日の配信はセツにゃんにかなり手伝ってもらっている。

 私も他のキャストと交流した方がいい。

 そのための企画を用意してもらったのだが、果たしてセツにゃんに頼んでよかったのだろうか。


「そういえば皆さん。天依スイについて驚いていただけましたでしょうか?」


:おう! いいんやで

:驚いた

:サプライズ成功おめでとう

:完全に騙された

:アナグラムに気付いて予想していた勢としてはニヤニヤが止まらない

:アナグラムというヒントがあっても同一人物と思えなかった

:プレシア教官の声と真宵アリスがいまだにつながらない

:アリスにハスキーボイスのイメージないからな

:冒頭でやってもらったけど改めて声と演技の幅はエグい

:アナグラムのヒントあったけど声だけだとマジでわからない

:毎年デビューする新人声優も多いからな

:アームズ・ナイトギアって全体的に新人声優中心だったし


「概ね好評のようでよかったです。天依スイに関しても色々あったんです。最初から第四話でアニメオリジナル展開を入れることは決まっていました。ライブシーン中心。アリスというアニメオリジナルキャラのライブをやる。ちゃんと台詞もある。天依スイはオリジナル演出を引き立たせるために用意されたんです」


 実はそれだけが理由ではない。

 私の演じたプレシア教官がとても強い女性だったから、天依スイと名乗ることになったのだ。

 第一話の収録前の段階では石館監督はまだ迷っていた。

 いくつか構想はある。

 けれどどのように作品を演出するか明確に定まってなかった。


 私のプレシア教官の演技を見たとき、石館監督の中で第一話から第七話まで映像が鮮明に描けたという。

 第七話をどれだけ盛り上げるか。

 そのためにはどうするべきなのか。

 そこに至るまで逆算して第一話からの流れが決定した。


 演出は諸刃の剣だ。

 もしもプレシア教官の印象が弱ければ、あれほど力を入れた演出できない。

 視聴者からしつこいと捉えられかねないからだ。

 それならイリアの視点中心に据えて悲劇を強調した方がいい。

 けれど私の演技したプレシア教官は最初から強いインパクトがあった。

 このプレシア教官であれば作品の中心が務まる。

 劇的な最期を演出することが可能だと考えた。


 死にゆく英雄。

 作品前半の構想が固まったのだ。

 だが最期まで強い女性であるプレシア教官。

 キャスト繋がりで歌姫のイメージがちらつくのは邪魔だった。

 石館監督の本音はこっちらしい。

 だから名義が分けられた。

 ただ石館監督の構想まで説明する必要はないだろう。


「プレシア教官の声優として真宵アリスが出てしまうと、アニメオリジナルとしてのインパクトが薄くなる。一人二役の方に注目が集まってしまう。せっかく力を入れたライブシーンを純粋に楽しんでもらえなくなる。そんな理由でプレシア教官役の声優天依スイが誕生しました」


 真宵アリスの歌手としてのイメージを強くしたい。

 そんな虹色ボイス事務所の意向もあったらしい。

 歌もできる声優では声優の色が濃くなってしまう。

 事務所としては歌手のイメージを優先したかった。

 ライブシーンのための声優として参加したならば、主題歌歌手のイメージが揺らぐことはない。

 でも第一話から準レギュラーで声優として活動してしまうと声優が活動の中心に見えてしまう。

 それを嫌ったのだとか。

 マネージャーの受け売りだが、売り出すためのイメージ戦略は重要でややこしくてとにかく面倒なものらしい。


「本当は配信と歌手は真宵アリス。声優は天依スイ。活動内容によって名前を使い分ける案もありました。でもご存知の通りサプライズとして第七話で公表することになりました。プレシア教官役の天依スイは実は真宵アリスだったのです! と」


 第四話の放送後に決まっていた話だ。

 マネージャーとも話し合った。

 期待の新人声優の一人として天依スイが話題になるのは嬉しかった。

 けれどやっぱり違ったのだ。


「声優の天依スイとしての活動は楽しかったです。短い期間で天依スイとして出たのはラジオや配信だけ。真宵アリスとしてバレないように声もキャラも作ってました。でも途中から『真宵アリスだとバラしたら皆驚いてくれるかな?』と考えるようになりました。そう考えてしまったら、もう偽れない。サプライズするしかないですよね」


 だからサプライズした。

 そして第七話のエンディングクレジットで発表したときは楽しかった。


「サプライズの成功。第七話の放送後の反響は嬉しかったです。そして楽しかった。声優の天依スイの活動も楽しかったんですけど『プレシア教官役の天依スイは真宵アリスだったのだ』と公表したときが一番楽しかったです」


:アニメオリジナルの引き立て役か

:なるほど

:ライブシーンを際立たせるためね

:確かにあのライブシーンで歌っているのがプレシア教官だと思うとな

:本編が割と重めだったし

:プレシア教官が余命幾ばくもないと発表された直後だからな

:なんか納得した

:アニメの方のアリスもいいキャラだったしな

:凄く歌姫感あった……どちらかと言えば健気で悲劇な設定だし

:名前を使い分ける予定あったんだ

:最初からサプライズ予定ではなくあくまでアニオリ演出だったのか

:アリスが楽しそうでよかった

:サプライズするしかないですよね

:無邪気だけどやっていることが凄い

:演技力と役を使い分ける器用さと歌唱力の全てを備わってないとできないドッキリ


「天依スイは真宵アリスにとって鏡でした。プレシア教官が本来の私のイメージから遠い役だったのがよかった。真宵アリスであって真宵アリスではない。全くの別人。声優天依スイとしての活動はとても良い経験になりました」


 自分らしさに悩んだばかり。

 名前もキャラクターも偽って全く別人として活動できてよかった。

 ちゃんと自分を見つめ直す機会が得られた。

 名前もキャラクターもアバターも全てを偽って活動してみてわかったのは息苦しさだ。


 自分を出さないように考えながら活動する。

 とても疲れることだと理解した。

 真宵アリスとして配信している時は感じなかった疲労だ。真宵アリスとして活動するのは疲れない。私にとって楽なことだった。楽しいことだった。

 だから確信した。


 私は私にしかなれない。

 私以外になろうとすると疲れてしまう。

 私にとって真宵アリスはただのキャラクターではない。

 私の大切なアバターで私らしさが詰まっている。


「さて先ほども言いましたが、私が『アームズ・ナイトギア』の裏側について語れることは多くない。私自身のことしか話せない。だから裏話はこれで終了です。ずっとハブられボッチでしたから。話せることがないんです」


 ほぼ単独行動だった。

 他のキャストと交流がない。

 内部事情を知らなければ裏話もできない。


「けれど、それでは物足りない。今回この配信を見に来られたアニメファンの方には物足りないでしょう。だからこのあとに『アームズ・ナイトギア』のキャスト有志による電凸待ち企画を用意してます。……今日初めて話す人から私に電話がかかってきます。不安でドキドキです」


 特にセツにゃん任せの企画なのが不安だ。

 しっかり打ち合わせしたけど不安だ。

 電凸待ち企画は完全にリスナー相手でもない限り、しっかり根回ししないといけない。

 有志のチャンネル公開しての企画なので根回しスキルが必要。

 そんなスキルは私には皆無なのでセツにゃん任せになったのだが……。

 なぜこんなにも不安なのだろう。


:鏡のような存在か

:別人になりたいと思うことはあるよな

:いい経験になってよかった

:ハブられボッチ

:……ハブられボッチだからな

:アニメファンのこともちゃんと考えてくれていた

:割とガッツリ裏側を話してくれていた気がするけど

:天依スイが一番謎に包まれていた存在だったから聞けて良かった

:キャスト有志による電凸待ち企画!

:あのアリスが電凸待ち企画だと!

:人見知りなのに!

:マネージャーからの電話も即切りしたことがあるのに!

:不安だよな

:よく頑張ったえらい!


「電凸待ち企画の前にこの長くなってしまったオープニングトークをちゃんと締めますね。今日は私の嫌いな言葉を発表です。本当に嫌いな言葉でした。でも今はそれほど嫌いではなくなりました。私も成長したのでしょうか。成長できていたら嬉しいです。では発表しますね。私の嫌いな言葉」


『Be yourself, Everyone else is already taken.』




お読みいただきありがとうございます。


毎日1話 朝7時頃更新です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまでは本当に真面目な裏話だった。 そして続くはセツにゃんプロデュースの電凸企画。……もうそれだけで安心と信頼のセツにゃんクオリティになることを訓練の行き届いたリスナーと読者は理解してい…
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