表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第2巻発売中】引きこもりVTuberは伝えたい  作者: めぐすり
第四章 ーBe yourself, Everyone else is already takenー
100/218

第100話 プロモーション戦略

祝:小説家になろうで毎日投稿連載100話目です。

応援やブックマーク、レビューがあると私が喜びます。


真宵アリスの快進撃を視聴者目線でお楽しみくださいの回が続きます。



 今季も新作アニメが始まった。

 放送の早い作品はすでに三話目に突入している。

 この頃になると新作アニメの明暗が分かれてしまう。

 ソーシャルネットワークサービスのトレンドに上がるなどの話題性だけではない。

 再生数やコメント数など人気を裏打ちする具体的なデータが算出されるからだ。


 そのデータに基づいてお金が動く。

 原作付きの作品ならば原作の増版計画が決まる。

 紙の書籍は刷られなければ売れない。

 売れると予想できるから専用の製造ラインが組まれて大量に刷られるのだ。どのぐらい増版するのか。その見極めのために人気や話題性のデータが注目される。

 アニメ専門店でも関連グッズの生産体制が見直される。人気のある作品は次々と新グッズが増えていく。

 商品は売るために作るのだ。

 悲しいことに三話で盛り上がらなかった作品は業界から見切りをつけられてしまう。

 

『アームズ・ナイトギア』の前評判はあまり良いものではなかった。

 主演に知名度のある元子役やVTuberを声優として起用。

 他も新人声優ばかり。

 有名なベテラン声優も見当たらない。

 いくらキービジュアルの出来が良くても『絵だけ』と叩かれた。

 原作ファンからも『期待したいけどこれならアニメ化してほしくなかった』『原作者が可哀そう』と放送前から失敗作と決めつけられた。


 その流れが変わり始めたのは元子役コンビ『ひかさく』を起用した広報だ。

 片方がVTuberに転向していることが強みとして活かされた。

 人間とアバターの稀有なコンビ。

 二人から繰り出される息の合った掛け合いが少しだけ話題になった。

 マイナス評価を一変させるほどの力はない。

 それでも見る人の心に『あの子達が出演している』という爪痕を残した。


 宣伝に大事なことはなにか。

 どれだけ作品の質を追求しようとも、誰も見てくれないでは意味がない。

 見てもらえるように働きかけるのが宣伝だ。


 作品の魅力を語る。

 出演者が注目を浴びる。

 それだけで見てくれるほど世の中は簡単ではない。

 ほとんどの人は見てくれない。少しの間は興味を抱いてもすぐに忘れ去られてしまう。

 見るという行動に結びつける力がないことが多い。


『この作品を見たい』


 この期待感を育てることが重要だ。

 期待がなければ人間は行動に移さない。

 そのためにはずっと心に残り続けるインパクトが欲しい。

 その場限りではない。

 何度も頭の中で作品のことを思い浮かべてしまうような仕掛けが重要になる。


 有名人の起用。

 圧倒的な宣伝攻勢による周知。

 たった一言でも心に刻み付けられるのキャッチフレーズ。

 方法は様々である。


 悪評を覆すきっかけは真宵アリスの歌う主題歌だった。

 放送一週間前に発表されたミュージックビデオが話題を呼んだ。

 作中シーンから特別編集された美麗なアニメーションに合わせて主題歌が流れるネット広告が一気に打ち出された。

 深夜帯だがテレビコマーシャルも放送された。

 虹色ボイスの公式チャンネルにも動画のロングバージョンが置かれた。


 人間の感覚は記憶と直結している。

 圧倒的な歌声は聴覚を刺激して興味を覚えなかった人も振り向かせた。

 振り向かせれば美麗なアニメーションで視覚を楽しませる。

 最後にキャラクターの掛け合いと呼びかけもあり、主役の顔を認識させた。

 視覚と聴覚を同時に刺激した感動の効果は大きい。


 十秒に満たないオペラが広告スキップの手を止めさせて、三十秒と一分半の宣伝アニメーションを見せることに成功し、本編二十分への期待につなげたのだ。


 この作品はなにか?

 あの元子役『ひかさく』の作品だ。

 期待感が育つと、覚えやすい記号が思い浮かぶ。

 おぼろげな記憶が繋がっていく。

 頭の中で見たい作品として定着して、視聴という行動に繋がる。

 こうして『アームズ・ナイトギア』は放送前から十分に注目を集めていく。


 そしてアニメーションと演技力に裏打ちされた内容は、第一話の放送後も評判を落とすことなく、見事なスタートダッシュを成功させたのだ。


 制作に深くかかわっている虹色ボイス事務所は喝采に湧いていた。

 出演者のいるアニメが盛り上がれば、配信も盛り上がる。

 メディアミックスの仕事も増える。

 準主役級で二人出演。

 主題歌も歌っているのでしばらくの間は虹色ボイス事務所の大看板となるだろう。

 出演アニメのヒットは新規視聴者や企業案件の獲得チャンスだ。

 公式チャンネルでアニメ公式のゲスト特番が組まれるのも当然の流れだった。


:アニメ特番待ってた!

:アニメから入りました初見です

:ゲストは雨宮ひかりと天依スイ

:マジで今年期待の新人声優達だよな

:桜色セツナは?

:虹色ボイス事務所だからゲストじゃないだけで出演予定

:元子役コンビの完璧な声優っぷりも驚いたけど他の新人も凄いよな

:主題歌もいいアニメもいい演技もいい全体的にレベルが高い良作

:特にプレシア教官役の天依スイな

:声を聞いて絶対にベテラン声優の誰かだと思ったら無名の新人でビビった

:石館監督が見出してプレシア教官役に推したんだったか

:監督やるじゃん

:もしかして天依スイってこの番組が初出?

:あめピカがやっているアニメ公式ラジオでゲスト出演している

:あめピカって雨宮ひかりか?

:ラジオのオープニング挨拶があめピカで本人のあだ名としても定着しそう

:天依スイは落ち着いた感じのお姉さんだったな

:声優志望の就労学生らしい

:プレシア教官役でヒットしてよかった

:それにしてもこの歌やっぱりいいよな……英語でなに言っているのかわからないけど

:このアニメで改めて真宵アリスのヤバさがわかった……

:アーティスト路線を望まれるはずだよな


 すでに万を超える待機者で賑わう待機所。

 画面に映るのは『アームズ・ナイトギア』のキービジュアル。

 バックで流れているのは真宵アリスが歌う主題歌の英語版。


 ネット配信の時代。

 海外からも気軽に日本のアニメを見ることは可能だ。

 サブスクリプションもある。

 今や海外を意識した広報は欠かせない。

 その一環として歌手を変更することなく公式が主題歌の英語版を用意したのだ。

 アニメ公式から英語圏への歩み寄り。

 その結果として今季のアニメで海外人気が第一位となった。

 本編は字幕だが、歌で注目を集めることに成功していた。

 今や主題歌の再生数やダウンロード数は日本国内よりも海外の方が多い。

お読みいただきありがとうございます。


毎日1話 朝7時頃更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アニメが良作なのは当然として、小出しに期待を高めていくプロモーション戦略上手いよね PVとか想像するだけで本編観たい! って思うし あと、あめピカラジオにアリスがスイとして登場してる回読…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ