狂気
狂気と呼ばれたモノがいた。
理解できない、
やろうとも思えない、
考えもしない、
誰しもがそれは狂っていると考えた。
しかし、そのモノは狂ってはいなかった。
ただ怖かっただけなのだ。
ただ逃げていただけなのだ。
自分以外の全てに怯え、
周囲の全てから逃げていた。
後ろにいるものは恐ろしい。
並ばれるならば殺される。
あぁ、ファンファーレが響き渡る。
走りださねば殺される。
横に何もいなければいいのに
後ろからは何も来なければいいのに
もう誰もいなくなればいいのに・・・。
幸か不幸かその身には、願いを叶える力があった。
最弱の精神を宿したその身には、最強に成りえる力があった。
周囲全てが怖いなら、その全てから逃げればいい。
周囲が追い付いてくるのなら、抜かれる前に逃げればいい
例え力が尽きようと、ただひたすらに走ればいい
全てを置いていくのなら、目の前には何もないのだから。
何もないのならば、もう何も怖くはないのだから。
追い付かれれば殺される・・・。
ならば再び突き放そう。
後ろにナニかを感じてる・・・。
ならばもっと突き放そう。
たとえ息が切れようと
たとえ口から泡を吹こうとも
たとえこの身体が壊れてしまっても・・・。
それを追いかけるは数多の刺客
その一つ、それは離された。
また一つ、それは諦めた。
もう一つ、それは壊された。
また一つ・・・
ただひたすらに前を見て、走り続けて、逃げ続けて、
ふと立ち止まると
後ろには、誰もいなかった。
後ろからは、何も来なかった
そうしてそのモノは孤独となった。
運命とは不思議なものだ。
孤独となったその時に、そのモノは並び立つものを感知した。
決して交わらぬ道の上に、
自分と同じモノがいる。
会ったこともないけれど、決して見えぬものだけど
「後ろからは何も来ない」
その言葉が示す二つのモノが二本の道で並びあう。
初めて怖くはならなかった。
その二つは並んで進む。
そしてソレらは偉業をなした。