6
ある日、朝目覚めて自室が散らかっているのが気になる。
僕はコーヒーを飲み、歯を磨き、顔を洗い、掃除を始めた。
ゴミをきちんと分別して、掃除機は、しっかりかける……お腹が鳴って、
(あ、朝から何も食べてないんだった…。)と、冷凍ピラフを解凍させ、食べ終わると掃除を再開した。
夕方には、部屋は綺麗になり、
まとめたゴミをあとは、燃えるゴミの日、燃えないゴミの日に出すだけになった。
ここ最近、己の書きかけの小説には全く手をつけていなかった。
僕は冷凍食品の、たこ焼きを解凍すると食べながら綺麗になった自室で、
原稿用紙を読み始める。
書きかけの、それは第二章の途中まで書かれており、
その第二章の始めから目を通す。
たこ焼きを食べながら読んでいった。
『富士山は登山として難易だと思われがちだが、友達が僕に『富士山は、途中までは車で行けて本当に真下から登るわけではない。難しい登山ではないよ。』と言った。
その時、僕は友達に「君は富士山に登ったことがあるのか?」と尋ねると『ないよ。』と返される…。
富士山のテッペンに登り、そこから見える景色は、
そうやって実際に登った人しか見れないのか?というと今は、あらゆる方法で、それを映像で見ることが出来る…。』
そこで、僕の書いた文は終わっていた。
たこ焼きを食べ終えて、
僕は部屋で一人、首を傾げた。
僕は、この小説を書く『テーマ』は、ちゃんと覚えており、
(いや、これ、どう『テーマ』を読者に伝えようとしていくのだろう…?)と心底、疑問に思った。
僕は、始まりの第一章の原稿に手を伸ばした。
日が沈もうとしていた。
普段のような人通りは、まだ、あると思ったのは僕の耳に雑居音が、いつもと同じように聞こえていたからで今は真冬で熱々の食物が美味しい季節であった。
《【第一章】
カオスというのは、まさしく、この世界である…。
20代というのは肉体的に、まだまだ発展の途上であると僕は踏んでいて、人が長生きするなら100歳を越えて生きるという事実が紛れもない、その裏付けであると僕は僕の信念があった…。
例えば25歳の青年がいる。齢を倍にしても50歳である。人は50歳にして何も出来なくなるのか…?
否、『人間、五十年…』というのは日本においての戦国時代に残された言葉で僕は間違いなく現代を生きていた。
他人に共感を求めるのは、もう止めていた…。
経験というのは、まさしく、時間の経過を淡々に意味する。
一週間では、何も無かった…でも、一ヶ月間では、それは激震的な事が己にあった…。
長く生きるとは、そういうことであると思っていた。
僕は、そう思っていた…。
だが、最近、観たクラシックの映画で、
『人生は、二度、三度の繰り返しである。』という露骨なメッセージに僕は、己の頭をフル回転させ、自己で、また思考した…。
映画というのは、簡単には作れない…。
作り手も、それは想いを込めるわけだ。
その映画は世間では大作と評価されており、
僕は、つまるところ【闘う】のである…。
【闘う】というのは僕、個人が規定概念として世に評価されている物事に対して色々と己の見解を熟考することを意味していた。
学校の授業に対して教えられることに『なぜ、学校では、このようなことを学ばせるのだろう…?』という疑問を抱く子供は、まずもって、いないと思われるが、
もう、小学生ではない僕は世間一般の、それはチープな出来事や、いわゆるゴシップネタと呼ばれることからは遠さがって生きていたかった…。
誰かが言う。
『かわいそうな人などいない、己で、かわいそうだと思う人と、誰かを見て聞いて、かわいそうだと思う人がいるだけである。』
『己が幸せだと思えれば他人が何と言おうと己は幸せである。』僕は誰かの声に耳を澄ます……僕は幸せでありたい……僕は己に言い聞かす…僕は決して、かわいそうでも不幸せでもない…!と、ただひたすら己に言い聞かす…。
僕は己を勝手に【狭間の世代】だと思っており、良いことを沢山した人は死後、天国に行ける、その逆は地獄に行く…という言い伝えが世間で、その時代、ごく普通に囁かれていた…。
ある時、男友達である井上、田所とファミレスで会食することになった。
彼らと僕は古い付き合いであった。
僕は、その会食を楽しみにしていて、
待ち合わせ時間の30分前に、ファミレスに入り、ボックス席を陣取っていた。
ほどなく、田所が来る。
そして、待ち合わせ時間ちょうどに井上が来た。
僕から見て、井上は顔色が悪かった。
井上は、自身がオーダーした料理を平らげると早々に去って行った…。
会話は一応、あった。
井上は仕事の愚痴ばかり言って去って行った…。
僕と田所、二人だけになる。
やはり元々、三人で楽しく食べよう♪という会で二人になるとテンションは下がるのだ…。
僕と田所は、無言で各々がオーダーした料理を黙々と食べていた。
二人とも、いつしか食べ終わり、
僕と田所のコップにだけ若干、飲み指しが残っていた。
田所が口を開いた。
「井上、今の会社に相当、不満があるんだなぁ…。」
「キツイ仕事わりに、安月給だって言ってたね…。」
井上は、それは優等生だった。
中学、高校では、ひたすら勉学に打ち込み、希望の大学に進学した。
その時、ITがセンセーショナルなるだった…。
僕は井上が志し高き男であることは昔から知っていたが、彼は大学文系であったのに、IT業界に大卒後に飛び込んだのだ…。
ベンチャー起業に就職し、ITをまともに学んだことがない彼は絵に描いたように挫折……一年は勤めたが、
(これは、己の仕事に出来ない…。)と、そこを去り、後は他の会社に勤めては、辞め、勤めては辞めて…を繰り返した…。井上は最近、己の詳細を今、勤めている会社の悪口意外、僕には話さない。今宵も、そうであった…僕は早々に去る井上に掛ける言葉すら無かった…。
二人きりのボックス席で田所が僕に言う。
「井上、新卒で躓く、典型だな…学歴まではパーフェクトなのにな…。」
僕には、田所の声は聞こえていて、
「…チャレンジした結果だよ。」と一言のべた。
田所は言う。
「…なんかさぁ、怪しい投資詐欺を持ち掛ける側に、ならなければいいけどなぁ…。」
僕は即座に返す。
「考えすぎだよ、田所。井上は、そんな男ではない!」
「…どうかなぁ…まぁ、今は、そうでは無いみたいだけどなぁ…。」
僕の口から言葉が出る。
「……尾崎豊の歌は、あまりにも美しすぎて……彼は、あのような最期だったけれど…ビジネスで成功して成功し、それは当時、脚光を浴びて、その時、話せる仲の人に『信用できるのは、昔から親しかった人達だけよ…。』みたいなことをボヤいたらしい…つまり、尾崎豊は成功して、それは、よーわからん奴らに言葉巧みに言い寄られたということだろう…。」
田所は、何も言わない。
僕は続ける。
「大人になって出逢う人達、みんなを信用できない、何考えているか、分かったもんじゃない!!…と僕は言うつもりはない…!
でも、井上とは今日も繋がっていて、僕の目の前には、田所、君がいる…。」
僕は、己のグラスを見て話していた。
田所の、「…そうか♪」の声が聞こえて僕はグイッとマイグラスを空にすると、
「僕も、そろそろ帰るよ!」と田所に言った。
会計は井上が置いていった千円を出し、残りは割り勘して僕らは外に出た。
マイカーに向けて歩き出す僕の背に、
田所の大声が聞こえた。
「疲れているのは、お前だ!」
僕は、振り返る。
田所は確かに、そこにいて、彼の顔をしかと見て僕は言う。
「僕の目は、虚ろか!?」
田所に張り合うように久しく僕は声を張った。
田所が笑った。
そして、僕も笑う。
田所が「またな♪」と言うから、
「うん、そのうち、またね!」と彼が己の車に乗り込むのを見て、僕もマイカーに乗り込むと、
田所は、いつしか去っていき、僕もファミレスを後にした…。》