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Rusty Chain  作者: 接木ねこ
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第六話「急転」

序列三位ともなれば、綿密かつ完璧な作戦を打ち出すのかと考えていたが、まるで正反対の猪突猛進な強行作戦の提案に、俺たちは言葉を失った。


 しかし侵入しなければならない以上、見つからずに進むというのは第三支部からの情報で明らかに不可能と分かっている。


 施設内部の人間をこちらのスパイにするという考えもあるにはあったが、第一支部という日本人形界隈のトップクラスのメンバーがこちらに寝返るというのは想像しにくい。


 そして今回の会話から序列入りが、こちらに刃を向けてくる可能性は低いということから、この何の工夫もないシンプルな作戦は実行に移ることになった。


「序列三位。貴方は通されるかもしれないが、私たちはどうする?」


 シュレイは啝式協会第一支部の門前でそう尋ねた。


「国際人形協会から来たとでも言っておけば良いだろう。後は私が何とか誤魔化そう」


 そういうと無縁と共に詩ノ原は歩き始めた。


「ある意味あれが序列三位の由縁なのかもしれないな」


「そだねー。他の人だったらあんましあれで付いて行こうなんて思えないしー」


 ミィナは私の言葉に肯定する。


 大きな門は私たちが近づくと自動で開いた。どんな霊子術を使っているのだろうかなどと考えつつ、私たちは歩を刻む。


 第一支部は森の中に建設されていた。一般人に人形の正体がバレることがあってはならないことであるため、啝式協会に関連する施設はカモフラージュされているか、人の寄り付かない場所にあるかのどちらかだ。


 そして正面玄関に着いたとき。


私たちは感じた。シュレイやミィナ、クリアノーツもこちらに目配せをしてくる。


「序列三位。少し待ってくれ」


「どうしたのだ」


「……血の臭いです。主人」


 無縁も気付きそう返答し、腰に携えた日本刀に手を掛ける。


「アンタは下がっていてくれ」


 私はそう言って扉の前に立つ。


銃をホルダーから取り出し、セーフティを外す。


それぞれにアイコンタクトすると、私は扉を大きく蹴り飛ばした。


 轟音と共に木製の扉は勢いよく開かれる。


 それと同時にシュレイとミィナ、クリアノーツもそれぞれ所持しているハンドガンを構え、突入する。


 そして警戒しながら状況確認を行う。


「周りに敵はいない。入って問題ない」


 シュレイの言葉を聞き、私と詩ノ原、無縁はゆっくりと第一支部へと入った。


「……臭うな」

 入った瞬間に刺激臭が襲う。充満した死の匂い。その濃さは一人や二人程度の犠牲ではないことを明らかにしていた。


「……何ということだ」


 詩ノ原は表情には出さないものの、声には驚愕と怒りが入り混じっていた。


 目の前は血。血。血。そして死体の山。


 床や壁には大きな爪痕があり、輪切りにされている死体も少なからずあった。


 豪華絢爛という表現がぴったりな内装を黒めの赤が無情にも汚している。


 惨劇。その一言に尽きる有様だ。


「誰がやったのかしらね」


 辺りを見渡しながらクリアノーツは口を開いた。大きな爪痕を見れば人間がやったとは到底思えない。


「大きな爪痕を残す啝式はいないのか」


「……聞いたことがない。それに死んだ者の中には上級の人形や使い手もいる。それをここまで蹴散らす圧倒的な力を持っているならば、序列入りしてもおかしくない」


 私たちは入り口から、奥へと進んでいく。


 死臭は徐々により濃くなっていき、それに比例するように死体の量も増していく。


「私たち以外の雇われが攻めてきた可能性はー?」


「無いだろう。モルフォ部隊以外にここまで強靭な人形のいる傭兵部隊はいないはずだ」


 ミィナの問いかけにシュレイは即座に否定する。


 我々モルフォ部隊は、傭兵部隊の中でもトップだと言っても過言では無い。


 人数、武器、作戦。全てにおいて他の傭兵部隊とは雲泥の差がある。他の傭兵部隊と戦場で顔合わせすることは多々あるが、全般的に戦闘狂なだけであって、それ以外は至って普通のものが多い。


 しかしモルフォは違う。それぞれが何かに憎悪や怒りを抱いていたり、あるいは欠落している者しかいない。そしてその狂気が一線を画す理由だ。


 歩き続けていると詩ノ原が立ち止まる。


 立ち止まった先には【第一研究室】の五文字。


 そしてそこからは死の匂いが一番感じられた。


「……皆、準備は良いか」


 私たちは頷く。


 無縁が詩ノ原の前に立ち、ゆっくりと扉を開ける。


 開けた先は、

       ───子供の死体が転がっていた。


 二十人はいるだろうかその死体たちは全員頭部がなくなっていた。綺麗に首から上が、まるで包丁で垂直に切り落とされたかのように無くなっている。


 人形ではない。本物の人間。


 全員、入院着も纏っており、周りには人が一人入れる容器が並んでいる。


「人体実験かしらね」


「この状況から鑑みるにそうだろうな。分担して辺りを探してみるか」


 首なし死体が転がっている中、私は周りを漁ってみるが、目ぼしいものは見当たらない。研究資料は一枚も見つからず、もぬけの殻だった。


「収穫はなしか」


 全くの無駄足だ。ましてや戦場でもない場所で死体の山を見るとなると、つくづく私たちは「死」とは切ってもきれない関係らしい。


「これは第三支部に一度行き、状況報告をした方が良さそうだ」


 そんな風に思っていると、一人の少年に目が入った。


 死体と同じように倒れているが、それは頭が繋がっていた。


 そしてよくみると身体がゆっくりではあるものの上下している。つまり呼吸をしている。


「……まさか生存者がいるとは」


 私は近くに駆け寄り、抱き起こす。


 白い髪に白い肌。身体は明らかに痩せ細っており、病的と言える見た目だ。


「おい、起きろ。しっかりしろ」


 私の言葉に反応しない。気を失っているようだ。


「生存者だ。集まってくれ」


 俺が声を張ってそう言うと、全員が向かってきた。


「……かなり弱っているようね。どこかで休ませてあげたいけど」


「拠点は衛生面も良くないしー、寒さ対策とかも出来てないから、やめたほうがいいと思うよー」


「私の所も医療に詳しい者はいない」


 拠点も序列三位の家も無理となると、医療機関に直接行きたい所だが、警察沙汰になる可能性が高い。


「こうなると、あやつの所に行くしかあるまい」


「あやつ?」


 私の問いかけに、詩ノ原はゆっくりと頷く。


統蓮路(とうれんじ)一慶(いっけい)。序列一位の男の所だ」



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