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悪役除霊嬢は今日も拳で祓いたい  作者: 梔子依織
七不思議なんてどこにもない
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歴代校長の首なし婦人図


 翌日、向かったのは「歴代校長の首なし婦人図」だ。


 ワイルドハントの出る薔薇迷宮から、荘厳な城を思わせる校舎へと足を運ぶ。

 魔法と呼ばれた奇跡が廃れ初め、科学技術が台頭してきたヴィルフェバーデュ国。まだ魔法を国民全員が使えていた時代に、フェイズ学園は建設された。


 国随一の建築と謳われる校舎は、エリザベサン・ジャコビアン様式が採用されている。

 三階建ての建物は全部で四つのエリアに分かれ、通常棟・特別棟・教員棟・技術棟とその役割を区分させている。それぞれの棟は複数の空中歩廊と、外廊下でのみ繋がっており、上から見れば、正方形の箱のような形をしていた。


 アリシアは丁度校舎の真ん中、つい数日前にユーリア・カルヴァンと対面した外廊下を歩いていた。


「いつ見ても建築技術の凄さには感嘆するわ」


 見上げる先には、四角く切り取られた夜空と、二本の橋。

 中庭に影を落とすように空中で交差した橋には、支柱が一本もない。まるで浮いているようだ。橋はそれぞれ歩廊では繋がれなかった棟同士を結んでいる。


「ああ、当時のお抱え魔術師を総動員して建築したらしい。一度でいいから奇跡にお目にかかってみたいが——まぁ、もう無理だろうな」

「魔法と呼ばれる奇跡が人々の手を離れて三百年。もう残っている人間も片手で数えるほどだもの」


 ヴィルフェバーデュ国は約三百年前まで、魔法産業を主軸に国力を伸ばした大国だった。

 人々は大小あれど魔法と呼ばれる不可思議な個性を有し、その力の恩恵を存分に役立てた。ある者は指先に炎を灯し、ある者は水を自在に操る。


 そんな光景がぱたりと消え去り、魔法産業を失くしたヴィルフェバーデュ国はみるみる廃れ、今はプロフィルデラ大陸最弱の国と呼ばれている。


 そんなヴィルフェバーデュ国が、四方を他国に囲まれた内陸国でありながら未だに国を存続できているのは、魔法技術が盛んだった頃に結んだ、中立国条約のおかげである。


 ——他を侵さない限り、自国を踏み荒らされることは決してない。


 その条約の効果は三百年経った今でも健在で、時折現れる略奪者の侵入を国境で押し留めている。アリシアは実際にその光景を見たことはないが、まるで透明な壁に阻まれているようだと使用人が口にしていた。


 通常棟から技術棟へ向かいながら「案外俺らの力も魔法だったりしてな」とライはカラカラと笑った。アリシアは肩を竦め「まさか」と視線を逸らす。


 見つめる先には人型のマガイ。技術棟の入り口に立っている庭師のようなマガイは、ぼんやりと遠くを見ていた。アリシアは迷わず、マガイへと拳を振るう。


「こんな力が魔法なんて、それこそ質の悪い冗談よ」

「違いねぇな」


 アリシアの拳はスッと空振り、思わず前のめりになった。


「…………ライ」

「体質なんだからしょうがねぇだろ」


 祓おうとした瞬間、ライが近づいたことにより、マガイは蒸発するように消えてしまった。アリシアは完全に拳握り損である。


「はぁ、ライと一緒にいるとマガイに遭遇しても勝手に消えてくから楽でいいけど」

「人を便利グッズ扱いすんなよ。そもそも俺のこの体質もよく分かってないんだ。油断しないほうがいいと思うけどな」


 アリシアとライは同じ〈視える〉体質でも、マガイに対するアプローチの仕方は異なる。アリシアの母も、オルフェス商会のハンナ叔母さんにも、それぞれ得意な祓い方があった。


「おっ、ここだ」


 技術棟に入り、ひたすら階段を登ること最上階。他の棟とは全く構造が違う廊下が二人を待っていた。扉のない、壁だけが続く廊下。二つだけある窓は、それぞれ廊下の突き当りに配置されているため、光源と呼べるものはほぼない。


 それも全て、壁一面に飾られた肖像画を保護するためだ。


「来るのは二度目だけど、ほんと不気味よね」


 学園に入学当初、クラス担任に連れられ訪れたことを思い起こす。


「確か、学園創立当初から歴代の学長、その夫人の肖像画を並べているんだっけ……?」


 学長は分かるが、なぜ夫人も? と疑問に思ったのを覚えている。


「初代学長であるマッケンジーがかなりの愛妻家で、自分の絵の隣に夫人の肖像画も並べるよう指示を出したのが始まりらしいな」


 そのため、廊下には男女一組ずつ絵が飾られているのだが——そう、丁度左端に位置する絵だけは三枚で一セットになっている。


ライも迷いなく異質な絵へと近づいていくから、怪談噺は間違いなくその絵に関するものなのだろう。


「第十二代学長、サイラス・メイジとその奥方、コリンズ夫人。そして——」

「サイラス学長の愛人であるカレン・ミズチね」


 五十代くらいの口髭を蓄えた銀髪の男性。その右隣りにはアリシアやライと同じ、ヴィルフェバーデュ国では珍しい色彩の少女が、花の綻ぶような笑みを浮かべていた。


「カレン・ミズチは東洋の旅団随一の踊り子で、ヴィルフェバーデュ国に訪れた際、サイラス学長に見初められ、お抱えの踊り子になったとか……。この場に絵を飾るくらいだもの、相当惚れていたのね」


 サイラスが熱に浮かされるのも分かるほど、絵の中の少女は美しい。褐色の肌に、滑らかな黒髪。ツンッと上向いた鼻先と、金色の瞳が特徴的だ。


「だが、それにいい顔をしなかったのはサイラスの妻で王家の血筋を継ぐコリンズ・メイジ。……プライドの高そうな女だな」


 ミズチの右隣りには、赤いドレスを着た派手な姿の美女が並んでいる。釣り上がった無花果のような瞳に、波打つ金髪。


 対照的な二人だ。ミズチを白とするなら、コリンズ夫人は黒。決して交わることはなく、合わさってしまえば黒に白が飲みこまれる。二人の運命もそれは変わらず——。


 まだ辛うじて魔法の残雫が確認された時代。

 コリンズ夫人も例外なく魔法を行使する側の人間だったが、ヴィルフェバーデュ国の人間ではないミズチは魔法の存在を知らなかった。


 魔法とは、ヴィルフェバーデュ国特有の資産である。ヴィルフェバーデュ国に産まれた者だけが使え、他国の者にその技法を、血を、分け与えることは一切禁じられていた。

 年々、使える人間が少なくなり、国全体が焦燥に駆られていた時風は異国民のミズチにとって当たりの強いものだっただろう。


「結局、ミズチは魔法を盗みに来たスパイだと、コリンズ夫人に嵌められて処刑されちゃったのよね。方法を盗んだところで、ヴィルフェバーデュの人間以外には使えないのだから、そんなわけないのに」

「力が失われていくのを、みんな恐れていたからな。あの頃、確証なしに処刑されるなんてざらにあった。亡くなったミズチの後を追うようにサイラス学長も自死。その一年後には、コリンズ夫人も呪いの言葉を吐きながら死んでいった」


 アリシアもライも、なぜここまで学長の過去——それも数百年前の話——に詳しいかと言えば、この出来事がきっかけでヴィルフェバーデュ国特有の排他的な他国民差別を失くそうと、とある男が立ち上がったからだ。男の名前はレヴィス・メイジ。サイラス学長の実の弟であり、のちにヴィルフェバーデュの革命児と呼ばれる宰相である。


「酷い話だけれど、おかげでヴィルフェバーデュ国は中立国特有の多国籍民族として国を存続することができたのよね」


 歴史学で誰もが習う有名な話である。


(まぁ、未だに他国の血を毛嫌いしている国民はいるのだけれど……)


 脳裏に浮かんだシリル王子の顔を振り払うように、アリシアは「で、目的の怪談だけど……」とコリンズ夫人ではなく、ミズチの肖像画に向き直った。


——コリンズ夫人が最後に吐いた、呪いの言葉。なんだったと思う?


「コリンズ夫人は未だにカレン・ミズチを呪い続けているらしい。その証拠に、月が真上に来る深夜十二時丁度」


 ライの言葉に合わせたように、学園内に教会の鐘が鳴り響く。一日が新たに始まったことを知らせる鐘の音は、静謐な夜を切り裂いていく。


「カレン・ミズチの首から上は、断頭台で処刑されたようになくなる……らしい、が」


 二人の視線の先には、顔の部分が白く発光した肖像画。まるで、首から上が突然なくなってしまったかのように見えるが……。


「これも単なる噂だったみたいね」


 アリシアはコリンズ夫人の肖像画の真正面へと立つ。そうすれば丁度アリシアの背が、窓から差し込む月光を遮った。


 もう一度ミズチの肖像画を見れば、そこには彼女の麗しい横顔があって。


「……偶然の産物みたいだな」

「光源が二つしかないから、余計に眩しく感じるのね」


 彼女の顔を覆うように差し込む月光のせいで、まるで顔がないように見えていただけ。単純な目の錯覚だ。

 アリシアはこの時点で、もしかしたら七不思議を全部制覇してもマガイに出会うことは一回もできないのでは……? と疑い始めていた。


「あー、近場だからグレイ・レディもついでに見ていくか?」


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