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投了しないgirl.  作者: 筒姫 岬
2/5

【初手】振られたみのる

振田みのる 初手:▲7六歩

 「――っ!?」



 突然の出来事に、息が詰まる。


 ……おい。


 おい。おい。おい。


 この、こ、こいつはっ、今、なんて言った?



 「あ……?」



 目前の男子は、その一言だけ返すと、また分厚い書籍へと目を戻し、顔をしかめている。――たまに小首をかしげながら。



 「……おっ、おい無視すんな! だから付き合えってんだよ――」


 「嫌ですって言ってるじゃないですか。……帰ってください、気が散るんで」



 ……は……



 「はぁーーーーーーっ!?!?」



 **********



 「なん、な、なっ、なんでだよ!」



 ありえない!!


 あたしの、洗練されし叡智の結晶たる至高の言――すなわち告白が……こっ、断られるって――!?!?



 「なんでも、何も……僕、女性に興味ないですから」


 「はぁっ、ちょ、おま、え、まっ、マイノリティ!?」


 「……大きい声で言わないでください。なんでもいいですけど……」


 「……嘘じゃん……嘘じゃん! ンな訳ねーだろ! テメ―はむっつりスケベなんだよ!! あたしの眼に狂いはねぇ!! っふふ……いーんだよぉ、素直になってぇ……そうだよなぁ、いきなり言われても困るよなぁ、でもいいさ、きっと君も敗北することになるさ、私の色気に負けなかった男子は未だかつて存在しな――」


 「だから、いきなり押しかけられても、困るんで、帰ってください」



 **********



 (誰だよ、あいつ……()()()()でっけぇ)


 (あいつじゃねーよ先輩だよ! 上履きの色見ろって!)


 (えっ上履き?)


 (そーだよ! このガッコな、代によって上履き違うんだよ)


 (へぇー。でも、すっげー綺麗だったな……)


 「……」



 私は教室を後にする。



 (それで、あいつは……)


 (……誰?)


 (え、あんなでっか……あんな可愛い先輩の告白、こんないきなりって)


 「……チッ」



 私は何事もなかったかのように、朝日が矢の如く射しこむ一階廊下をずんずん進む。



 「……」



 ふざけんなっ!


 あの野郎――穴熊堅太郎!!


 せっかく――せっかく学校イチの超美形たるあたしが告白してるのに、あいつは――!?


 だいたい、なんであたしは振られたんだ!? 小中高と、毎日のように告られて、ラブレター貰っては引き出しに突っ込んでたあたしが、ついに告白したあいつに……あいつに!!



 「~~~~~~っ」



 上履きが地団駄を踏む。廊下を過ぎゆく何人かが驚いて振り向いた。俯きながら、振り向いた奴らを肩越しに睨みつけた。



 「……あぁ!!」



 人目も憚らず、廊下のど真ん中で絶叫する。あたしが今まで人目を憚ったことがあるか??


 ったく。


 何がいけないんだ、何が。考えろ――あたしの凄さは、その美貌だけじゃない。頭脳もだ。あたしは天才なんだ……学校にいる意義ももはや喪失しかけている、稀代の天資の持ち主、それがあたし。


 わからん!!!


 あたしだって、ちゃんと準備して臨んだはずなんだ! あの台詞だって何度も何度も練習したんだ! 先輩としてふさわしいセリフだ間違いないって何度も確認したはずなんだよ!! ってか、だいたい……あたしは穴熊なんかに告らんでも勝手に告ってくれるはずなんだ! でもあたしは万全を期して――いや違う、そりゃ嘘だ……ああそうだ、待ちきれなくてあたしからアタック掛けることにしたんだよ!! 忍ぶ恥は無ぇから恥は忍ばず、だ!!



 「おかしい……何かがおかしい」



 いや焦るな――焦るなよ、振田みのる。


 かつてソクラテスは述べた、無知の知こそ賢いのだと。そこには必ず原因がある。その原因は――そう、カメラで言えば、ズームして見えなくなった部分にある。もっと引いて――客観視できるならば、その原因は自ずと見えてくるそしてカメラのズームが一倍に限りなく漸近する時原因たるものの数も限りなくゼロへと近づく……。


 そう。何も焦ることはない。


 上手の手から水が漏る――そう、それだ。水を一滴たりとも漏らさなくなった時、愛はついに実るのだ。


 そうだよな?



 「……」



 今に見てろ、穴熊堅太郎。これはあたしとお前の勝負なんだ。


 穴熊如きを攻略できないようじゃ、振田みのるの名がすたる――。



 「……あたしは」



 この勝負、絶対に投げはしない。



 「あたしは絶対に、投了しないっ!!!!!」






投了しないコラム:初手


最初の一手。将棋では、30通り存在する。角道を開ける7六歩と、飛車先を突く2六歩が昔からよく指されている。最序盤の数手は、戦型選択に直結する重要な場面であるが、プロ同士の対局では互いの研究範囲内であることも多く、たとえタイトル戦であったとしても、パタパタと手が進むことは珍しくない。

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