4話
「なぁ、拓也。玲奈の様子、何か変だと思わないか?」
登校してきた拓也に、俺はそう尋ねる。
「そう? 家ではいつも通りだけどね」
「でも、明らかに俺との距離が近すぎると思わないか?」
「そうかなぁ。今までも玲奈は和樹と近い距離で接してたと思うけどな」
「それに、なんか女子の様子もおかしいような……」
先ほどから、女子からの視線をなぜかすごく感じる。最初は拓也を見ているのかと思っていたが、俺と目が合うと彼女達はなぜかすぐに視線を逸らすのだ。
「たしかに。和樹、心当たりはある?」
「いや、特には無いな。……そう言えば昨日の放課後、拓也が帰った後に宮川達に声を掛けられたな」
宮川とは、昨日の放課後に俺に声を掛けてきたクラスメートの女子生徒である。
「そうなんだ。それで、何て言われたの?」
「いや、何か言おうとした直前に玲奈がやって来てそこで話が終わったから、結局、何を言おうとしていたのかは分からない。……昨日、俺、何かしたかな?」
「うーん。昨日だと、和樹が体育で活躍した事くらいしか特に思い浮かばないなぁ」
いや、拓也の方が活躍してたけどね?
「でも、それと俺に話しかけた事に何の関係があるんだ?」
「……もしかしたら和樹の活躍を見てカッコいいって思って、和樹とお近づきになりたいって声を掛けたのかも……」
もしそうなら、ついに俺にモテ期が来たと言う事か。まぁ、あくまでも拓也の予想だし、それに多分来てないと思うけど。
しかし拓也は何か結論に辿り着いたらしく、なるほど、と溢す。
「そっか……だから玲奈は……」
「拓也? 何か分かったのか?」
「うん。多分ね。でも……これは僕の口からは言えないかな。玲奈に悪いからね」
一体、拓也はどういう結論に思い至ったのだろうか。結局、考えても答えは出てこなかった。
◇◇◇
……でも、玲奈の気持ちも今なら分かるかなぁ。
窓の外を眺めながら、拓也は心の中でそう呟く。
どうして和樹が急に女子から注目され始めたのかはハッキリとは分からないけど、宮川さん達が声を掛けたように、これからも和樹に近づこうとする女子は現れるだろう。それを玲奈は察して危機感を覚えた。だからこそ玲奈は積極的になったのだ。
前の拓也なら、玲奈がなぜそうしたのか分からなかったし、共感できなかったかもしれない。しかし、今は違う。
なぜなら、拓也も同じ気持ちを抱いた事があるから。
天童先輩を絶対に誰にも渡したくないと……
……頑張れ、玲奈。
双子の妹の幸せを願って、拓也はエールを送るのだった。
◇◇◇
「ね、ねぇ、天河君」
昼休み。食堂へ向かっている途中、他のクラスの女子生徒2人に声を掛けられた。
「もし良かったら、私達と一緒にお昼を食べない?」
「あー、ごめん。今日は玲奈と食べるって約束してるんだ」
「そ、そっか。……やっぱり千歳さんに先越されちゃったかぁ」
「えっ、玲奈がどうかしたの?」
「う、ううん。何でもないよ。急に誘ってごめんね」
そう言い残して、2人は早足にその場を去って行った。
「かずきーっ! こっちこっち!」
学食に着つくと、手を振りながら俺を呼ぶ玲奈の声が聞こえてきた。どうやら先に来て席を確保してくれていたらしい。
「玲奈、席確保してくれてサンキューな」
玲奈が確保してくれた一番奥の4人席に、俺たちは向かい合うようにして腰を下ろす。
……めちゃくちゃ見られてるな。場所的には目立たないはずだが、大勢の生徒の視線を感じる。まぁ、学校一の美少女と2人きりでお昼を食べるのだから、注目されるのも無理はないか。
しかし当の本人は気にしていないらしく、可愛らしいピンクの布に包まれた弁当箱を俺に手渡してきた。
「はい。約束通り和樹の分のお弁当だよ」
「サンキュー。開けていいか?」
「どうぞ」
蓋を開けると、弁当箱には俺の大好物である生姜焼きが入っていた。
「おぉ! めちゃくちゃ美味そうだ!」
俺はさっそく生姜焼きを口に運ぶ。
どう? と玲奈は味の感想を求めてくる。俺の答えを確信しているのか、玲奈の表情からは不安は見られない。
「めっっちゃうまい!」
「えへへー。ありがとう」
「お礼を言うのは俺の方だ。いや、マジで美味いよ。玲奈、料理の腕また上げたんじゃないか?」
「かもね♪」
玲奈はとても上機嫌な様子で喜びを露わにする。
「玲奈って、ほんと良いお嫁さんになりそうだな」
「っ」
料理を食べていた玲奈の箸が止まる。不思議に思い顔を上げると、玲奈の顔がトマトのように真っ赤に染まっていた。俺と目が合った玲奈は顔を逸らす。……俺、そんな変な事言ったか?
「……か、和樹」
名前を呼ばれたので玲奈の方を見る。玲奈は俺の大好物のだし巻き卵を摘んだ箸を近づけてくる。
「は、はい、あーん」
「……えっ」