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3話

「おはよ、和樹♡」


 …………なぜいる?

 一瞬、夢かと疑ったが服越しに感じる玲奈の温かな体温と体重の重みが、目の前の光景が現実だと強く訴えてくる。

 普段、俺を二度寝へと誘う睡魔が急速に薄れていくのを感じ、寝起きでぼんやりとしていた意識が完全に覚醒した。


「……おはよう、玲奈。とりあえず降りてくれないか?」

「むぅ、せっかくこうして起こしに来てあげた超絶美少女幼馴染に対しての第一声がそれなの?」

「仕方ないだろ。重いんだから」


 てか、自分で超絶美少女とか言うか? いやまぁ、事実だけど。


「……重い?」


 満面の笑みを湛えていた玲奈の顔から表情が消える。そう言えば玲奈、高校に入ってから友達とスイーツ巡りにハマってると前に言ってたな。もしかしたら、そのせいで体重が増加してしまい、それを密かに気にしているのかもしれない。もしそうなら俺は今、玲奈の地雷を踏み抜いてしまったことになる。


「ご、ごめん。今のは冗談だ。玲奈は重くない。むしろ軽くて完璧なスタイルだ」

「も、もう、いきなりそんなに誉めないでよ。は、恥ずかしいよ」

「す、すまん」


 どうやら何とか誤魔化せたみたいだ。ホッと安堵したのも束の間、玲奈は言葉を溢す。


「でも、冗談でも女の子に重いって言っちゃダメだからね?」

「……はい。肝に銘じます」

「よろしいっ」

 

 俺の返事を聞いて、玲奈は満足そうに言った。玲奈は俺の腹の上から降りて、俺の部屋を見渡す。


「和樹の部屋、久しぶりに入ったけど全然変わってなくてなんか安心する」

「あんまりジロジロ見るなよ。てか今さらだけど、何で勝手に部屋に入ってるんだ?」

「勝手じゃないよ? ちゃんと和樹のお母さんに許可もらったもん」


 母さん! 思春期の息子の部屋に入る許可を、幼馴染相手と言えども勝手に出すなよ!

 ……あれ? てことは……


「なら、俺が拓也に玲奈の部屋に入る許可を貰ったら、勝手に入っても良いって事だな」

「ぜ、絶対ダメっ。和樹は私の部屋に入るの禁止」

「いや、それは不公平だろ」

「だ、だって……和樹にアレを見られたら……」

「ん? アレって何だ?」

「な、何でもないっ。ほ、ほら、そろそろ制服に着替えないと遅刻するよ」

「あ、ああ。じゃあ、着替えるから部屋の外で待っててくれ」


 玲奈が部屋から出た後、俺は急いで制服に着替える。

 それにしても、アレとは一体何の事なんだろうか……



◇◇◇



 玲奈と一緒に朝食を食べ終えた俺達は、家を出て学校へと向かう。

 見慣れた通学路だが、玲奈と並んで歩いているからだろうか、なんだか新鮮に感じる。


「拓也は今頃、天童先輩と一緒に仲良く登校してるんだろうな」


 2人が仲睦まじくいちゃいちゃしながら登校している姿が容易に想像できる。拓也もだが、天童先輩も拓也にかなりゾッコンだ。ほんと、羨ましいほどに両想いな2人だ。玲奈が頷いて同意する。

 

「前にお兄ちゃんと天童先輩が腕を組みながら登校してるの見たから、多分そうだと思うよ」

「腕を組みながら登校……ね」


 俺はチラッと視線を右腕に移す。玲奈に抱きつかれている右腕に。

 昨日の放課後同様、なぜか玲奈が俺の腕に抱きついてきたのだ。……ちょっと朝から刺激が強すぎない?

 

「……なぁ、玲奈。なんで今日も腕に抱きついてるんだ?」

「べ、別にいいでしょ。和樹だって嬉しいから不満は無いでしょ?」

「不満は無いけど不安はある。学校に行ったら、大騒ぎになるんじゃないかって不安が」


 当然ながら、玲奈はめちゃくちゃモテる。そんな玲奈とこのまま腕を組んで登校すれば、男子達が大騒ぎするのは火を見るよりも明らかだ。いやまぁ、昨日の放課後の時点で既に手遅れな感じはするけど。

 


◇◇◇



 校門をくぐってすぐ。

 ざわざわざわ、と腕を組んで登校している俺達を見た生徒全員が予想通り大騒ぎし始めた。……やっぱりこうなるよなぁ。男子達からの羨望と嫉妬の視線がチクチクと突き刺さる。


 ただ……女子の反応が何か変なのが少し気になる。はぁ、とため息を漏らして落ち込んでいる女子がチラホラと見受けられる。……何で落ち込んでるんだ?

 

「じゃあな、玲奈」

「あっ、ちょっと待って和樹」


 教室に着いたので中に入ろうとしたら、玲奈が声を掛けて呼び止めた。


「実は今日ね、私、和樹の分のお弁当を作ってきたの」

「えっ、マジ!?」

「うん。だから和樹に食べてほしいから、今日のお昼休み、2人きりで食べたいの。ダメ?」

「い、いや、全然いいけど」

「ありがとう」


 お礼を言うのはこっちの方だ。完璧美少女の玲奈は料理の腕も凄い。玲奈の料理はまだ数回しか食べた事ないが、そのどれもが俺好みの料理や味付けなので、また玲奈の料理を食べられるのは本当に嬉しい。


「じゃあ、また後でね。いい? 2人きりで、だからねっ」

「あ、ああ」


 そう念を押した玲奈は、自分の教室へと向かって行った。

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