1話
高校1年生の6月の朝。俺、天河和樹が通っている高校で、とある一大ニュースが広まっていた。
俺の幼馴染にして大親友の超絶イケメン、千歳拓也に彼女が出来たのだ。
拓也はモデル顔負けのイケメンで、街を歩けばスカウト、逆ナンは当たり前。しかもスタイルだけでなく、運動神経抜群、成績優秀と非の打ち所がない超ハイスペック。当然ながら、めちゃくちゃモテる。告白されたなんて話は頻繁に耳にする。しかし、拓也は今まで誰とも付き合った事が無かった。
だが、そんな拓也にもついに彼女が出来たのだ。しかも相手は生徒会長にして社長令嬢、天童紗香。誰もが認める美男美女カップルだ。
当然、俺や学友達は心から祝福した。
しかしその裏では——
◇◇◇
6時間目の体育の授業中。
3人の女子がグラウンドでサッカーをしている男子を観ながら、こんなトークを繰り広げていた。
「あーあ、拓也君についに彼女ができちゃったよぉ」
「仕方ないよ。天童先輩、めちゃくちゃ美人だし。お似合いだよ」
「今は正論はいいのっ。あーあ、どこかに拓也君みたいなハイスペックなイケメンはいないかなぁ」
「そんな人、そうそういるわけ——あっ」
言葉を途中で止めた女子の視線の先では、とある男子生徒がドリブルで複数のDFをあっという間に抜き去ってゴールを決めていた。
素人目にも分かるほどの洗練された動きに、思わず3人は目惚れてしまう。
「……え、ヤバっ。めっちゃカッコいい」
「う、うん。そうだね」
「彼って、拓也君の幼馴染で親友の天河和樹君だよね」
「……和樹君って、あんなにカッコよかったんだ」
「そう言えば天河君って、前の中間試験の成績かなり良かったよね」
「えっ、その上、あんなに運動神経もいいなんて……」
当の本人は自覚していないが、和樹は意外と高スペックである。顔立ちも整っている方だし、運動や勉強も人並み以上には出来る。しかし今までは和樹の側には拓也がいたので、和樹にスポットが当たる事は殆ど無かった。それほどまでに拓也は圧倒的な存在なのだ。だが、その拓也に彼女が出来てしまったとなれば話も変わる。
「……わ、私、和樹君狙おうかな」
「あ、ズルいっ」
「抜け駆け禁止!」
そしてこの瞬間から、今までは拓也に向けられていた関心が和樹に向けられ始めるのだった。周りを見渡せば、多くの女子生徒が3人と似たような会話をしている。
「……」
そんな光景を、学校一の美少女と呼ばれているとある女子生徒が終始無言で眺めているのだった。
◇◇◇
「お疲れ様、和樹」
「おう。おつかれさん、拓也」
帰りのSHRが終わってすぐ、拓也が俺の席にやって来た。
「拓也、この後部活か?」
「ううん。えっと、この後は……」
拓也はどこか照れくさそうに頬を掻く。拓也の頬はほんのりと赤く染まっている。……なるほど。
「デートか?」
図星を突かれたのか、拓也の肩がビクッと弾む。
「リア充め。楽しんで来い」
「う、うん。ありがとう、和樹。また明日っ」
「おう、また明日な」
手を振りながら教室を後にする拓也を見送った後、俺は机の横に掛けていたスクールバックを手に取った。……帰るか。
「ね、ねぇ、和樹君」
「うん?」
スクールバックを肩に掛けて教室を出ようとした直前、クラスメートの女子生徒3人に声を掛けられた。3人はなぜか緊張した様子だ。
それに頬が少し赤いような……
「どうした?」
「え、えっとね、時間があったらでいいんだけど……もし良かったらこの後、どこか遊びに——」
「かーずきっ!」
突然、聞き覚えのありすぎる透き通った声が耳に届き、声の主が俺の腕に思いきり抱きついて来た。女子特有の良い香りと柔らかな胸の感触に、思わず心臓がドキッと跳ねる。
「お、おいっ。いきなり何してるんだ、玲奈!?」
「何って、和樹と一緒に帰るから迎えに来てあげたんだよっ」
とびきりの笑顔でそう言ったのは、拓也の双子の妹にして学校一の美少女、千歳玲奈だった。