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【揺花草子。】(日刊版:2023年)  作者: 篠木雪平
2023年08月
218/363

【揺花草子。】[#4210] 自由研究。

Bさん「なるへそって言い方あるじゃないですか。」

Aさん「なるへそ。」

Cさん「どう言う時に使う言葉かしら?」

Aさん「え、あれですよね、誰かから何かについて

    これこれと説明された時に納得・理解や了解の意図を伝えるための

    言葉ですよね。」

Bさん「それは一般的には『なるほど』でしょ?」

Aさん「えっ。いや、うん、そうだけど。

    その『なるほど』をくだけた言い方と言うか、

    気の置けない間柄の相手との会話で使う事が多いって事じゃない?」

Cさん「じゃあ私たちが

    『阿部さんが今日こうして娑婆でのうのうと暮らしていられるのは

     当局が泳がせているからよ。』

    と教えてあげても阿部さんが『なるへそ』と言わないのは

    私たちに対して気の置けない間柄だとは思ってないと言うわけね。」

Aさん「そもそも当局が泳がせていると言う見解に対して

    納得も理解も了解もしないだけの話ですが。」

Bさん「ま、それはそれとして、なんで『へそ』なんだろうね?」

Aさん「えっ・・・えっ? なに?」

Cさん「『なるほど』転じて『なるへそ』って、

    あまりにも関係がなさすぎると言うか、

    転訛した過程が見えないと言うかね。

    どう言う経緯を辿って『なるほど』が『なるへそ』に

    なったのかしら。」

Aさん「えー・・・いやー・・・うーん・・・。」

Bさん「これが例えば『なるほろ』とかなら1文字違いだし

    分かる気がするんだよ。

    恋詩露咲るるなお嬢様って感じだし。」

Aさん「それは『ほほろ~』だね。」

Cさん「あるいは『なるそど』だったらね。

    淫欲に溺れ神の炎により滅ぼされたソドムとゴモラも斯くやと言うほどに

    納得できる話だ、と言う意図は通じると思うの。」

Aさん「通じますか?」

Bさん「『なるほど』って言う僅か4文字しかない言葉のうち

    2文字も変えちゃうって言うのはもう半分変えるって事だからね。

    それでも母音は変わらないってんならまだ何とか解るけど、

    『なるほど』の『ど』→『なるへそ』の『そ』は

    母音が変わってないけど

    『ほ』→『へ』は母音すら変わってるわけだから。

    元の単語と較べてちょっと乖離が大きいですよ。」

Aさん「おぉ・・・。」

Cさん「それが許されるなら『なるクズ』とか『なるゴミ』とか

    『なるカス』とかでも成り立つわけだからね。」

Aさん「悪意すごすぎません?」

Bさん「だからぼくはこれは、

    『なるほど』から一足飛びに『なるへそ』に変わったわけじゃなくて、

    もう1段階間を埋めるミッシング・リンクがあったのではないかと

    想像してる。」

Aさん「ミッシング・リンク。」

Cさん「ズバリ『なるほど』がいったん

    『なるほぞ』に変わったんじゃないかしら。」

Aさん「なるほぞ?」

Bさん「そして『ほぞ』と言うのは漢字で『臍』。

    つまりおへその事です。」

Aさん「おぉ・・・?」


Bさん「結論としては、

    『なるほど』→『なるほぞ』→『なるへそ』

    と言う変化を経たと言うのが

    ぼくらの仮説だよ。」

Aさん「そうかなあ?」


 言語学者とか民俗学者の型に見解を訊けばいいか?

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