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願い  作者: 赤崎リヒト
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第四章 担当赤崎リヒト

 掌の上に置かれた千切りになった花が私を見上げる。

 その花は光を放ち、瞬く間に私を包んだ。

 7色の光。と言うよりかは主に()()色をした光が私の前方から後方へと血液の様に流れている。

 光の終わりが見えてきたという時に全身の力が抜けた。地面と顔が近づき上を見る。

ふわりと宙を舞う中に見下ろされ意識が遠のく中、私は願いをもう一度部屋に置いた。


「         」





 目が覚めた。

 体感では光に包まれてから何時間も経っていたが、あれから時間はあまり経ってはいなかった。というか、時間は戻っていた。

 デジタル式の目覚ましはあの日の5:30を指してる。


 時間が巻き戻るなんて現実にあるのか? 多分、他の誰も体験したことない。

 そんな、多分が単純な私を悦に浸らせた。


 長い黒髪をとかし、いつもよりも早く家を出て学校に向かう。これから起きる死と出会う為にゆっくりと歩く。


何時(いつ)もは通らない道。少し落書きのある電柱。閉じたままのシャッター。寂びた看板。まだ薄暗い空を照らす街頭と自販機。


 時代は変わらないのに妙にレトロ感のある道を歩く。

 少し明るくなり始めた空を背景に学校が近づく。

 輝くその空は薄い()に染まっていた。


 いつもの門を通り下駄箱で履き替えて教室へ向かう。その動作一つ一つに高鳴っている。


 高鳴り続ける心臓を(なだ)める度にあの日、死んだ未来を少しずつ変えているのだと思うと変に高揚した。

 澄まし顔をして少し肌寒い階段を進んでいく。


 もう少しで教室に着く。

 教室の外から見える人影。

 この壁一枚の向こうにいるんだ。

 ついに、高揚感が抑えられなくなり勢いよく扉を開ける。


 目が合った。あの日の朝と何ら変わりない顔をしている。

 期待していた非日常の一つを味わえた。


 けれども、その他には特に何も無く空は夕に染まりだし放課後になった。

 息を吸い込んで誰もいないであろう教室の扉を開けた。


 偶然にもそこにはわたしがいた。


 椅子の上に立って紐を首に掛けようとしているわたしと目が合った。何度も鏡で見たように口元を少し緩ませた。

 その表情とは裏腹に心を閉ざした、何も映れない()()瞳をして口を開いた。


 『ねぇ、私にわたしはどう見えているの? 』


 大きく綺麗な目を見開いて私を映している。

 一見、意味がわからない台詞だが、何故だか私には彼女の言っている事が痛いくらいにわかった。

 無意識にでた私の頬をつたる涙に陽が反射している。


 わたしは短髪を震わせて無邪気に笑う。

 『わたしの目に映る私は綺麗だね。ずっと見ていたいくらい。』


 私は美しいわたしの横に紐をかけた。


 私は麻縄。わたしはビニール紐。


 私が最期に何を思ったのか憎んだのか、その全てがわかった。私はその感情を知っていた。一番の理解者だった。だってそうだろう?


 「あのね、私が願ったのは貴方の目で、貴方の身体でこの日を体験することなの。」


 『そんなの、願わなくたって出来るわ。』


 二人、笑いながら口を合わせて言った。

 「私とわたしは1人の人間なんだから。」

 『わたしと私は1人の人間なんだもの。』



そして、一人の少女達は微笑みながら首を紐にかけ椅子を倒した。

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