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願い  作者: 赤崎リヒト
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第二章 担当赤崎リヒト

 友人の死を()の当たりにしたにも関わらず私は悲鳴も、()き声も何も出さずに。ただ、冷静に眺めていた。


 口や目、鼻から赤い液体が流れ出している。

 「綺麗だな」が、最初の感想。友人が首を吊っているのを見て綺麗なんて我ながらに吐き気がする。


 泣けないなら、悲しめないなら最初から友人なんて、親友なんて全部、嘘だったのかもしれない。名前のついた関係に酔っていたんだ。


 私は、彼女をどれだけ知っていた? 偽りの関係だったから知る必要もなかったのかも知れない。

 けれど彼女が死んだ今、私はこれまでに無い程、彼女への興味が湧いていた。

 

 彼女が何を思って死んだのか。誰を憎んだのか。何を見たかったのか。

 そして、彼女が最期に見た景色を、君と一緒に見たいんだ……なんて。

 きっと呆れられてしまう。


 今更どう思ったってこの現状が何か変わる訳でもない。

 無駄な妄想だ。

 周りはまだ私の理想と悲鳴で渦巻いている。


 ただ騒がしい教室の窓際。

 夕暮れの日と彼女の身体が重なる。

 足元に倒れている椅子。首にかかってる縄。

 整った顔立ち。制服の良く似合う体型。少し︎︎()()絹のような肌。腰まで届きそうな程、長い黒髪。


  窓から注がれる風が艶髪を揺らした。

 逆光になっているからか彼女の表情は読み取れない。でも美しいことは確かだった。


 全てが愛おしい。

 脳に焼き付ける程に愛している。

 彼女の全てを知りたいと思ったその時、私の頬に涙がつたっているのがわかった。


 さっきよりも慌ただしい教室に誰かが読んだ警察が流れ入ってくる。外へ出される外野。黄色いテープ。スマホのシャッター音。罵声の波。


 あんなにも美しい物を眺めていたのに邪魔者のせいで気分が悪くなった。

 どうせ彼女をこれ以上、見つめるのは無理だろう。家に帰るとするか……



 今日の夕焼けに染まった帰り道はあの夏の日によく似ている。短髪が風に仰がれる。その感覚さえも愛おしいと思えてしまう。

 そんなことを考えながら童心を思い出し白線の上を跳ねるようにして歩く。

 私の中での何かが変わってしまいそうな非日常のわくわく感があった。空を見上げた。すっかり夕に染った空は綺麗だ。


 スっと視界の横で何かが横切るのが見えた。

 ()()蝶だ。

 その蝶はどこかあの子と等しい雰囲気を醸し出しており目を奪われた。追わないといけないという使命を感じた。

 追ったら彼女の死について何か分かるかもしれない。何かあるかもしれない。


 何か……何かが、待っているかもしれない。


 確信なんてどこにも無いのにも関わらず焦りに似た感情を背負い小走りになる。空気を含む短髪。軽い足。全てが私の背中を押した。

 腰まで伸びた草をかき分け蝶を見失わないように追う。

 幼い頃なら通れたであろう低木の間なんて今はもう通れない。少し遠回りをしながら丁寧につたっていく。


 息を切らして。

 

 やっと追いついたが膝に手をついて息を整る。

 少ししてから前を見ると私の膝上くらいの神社があった。

 見つめてみると何時(いつ)かに見た狐の石像があった。

 懐かしさを感じ、微笑んでいたら。

 制服のポケットの中に常に入っていた(はず)なのに忘れていた小袋を見つけた。

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