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内定をください

内定をください


文系院生の就活は芳しくないものだ。特に、文学などという非実用的な分野に魅了されてしまった者は。


 そもそも実用的なスキルばかりとコミュニケーション能力ばかり重要視する世界が糞野郎なんだ。こんちきしょーめ。

俺は家に着くなりネクタイを緩め、壁に強かに投擲した。今日が四社、昨日が三社。俺がESを送った数である。そして今日が六社、昨日が八社。俺にお祈りしてくださった会社様の数である。祈るくらいならあんたが内定をくれ。

そんな俺は三上健斗。25歳だ。彼女はいない。いたこともない。人生の大半を文学にささげたにもかかわらず、結局それでは食っていけず、就活を開始した男である。はっきり言って哀れだ。自分が情けない。俺は小さな冷蔵庫を開け、缶ビールを手に取った。ぷしゅりと開け、黄金色の液体を体内に流し込む。

「うめええええええええええええええ」

すっかりおっさんになってしまった俺には至高の時間である。天国はここにあったのか。あー、いっそこのまますべてを捨ててヒロインと逃げたい。「シュウカツ」という魔物から逃げてハネムーンに飛び込みたい。ヒロインいないけど。もう一口ぐびりと飲み込んだ時、尻ポケットで携帯が震えた。お前もヒロインに会いたくて震えているのかい。俺はもう電動歯ブラシ並みに震え続けて25年たったよ。ヒロインいないけど。

携帯の画面を確認すると、時刻はちょうど18時を回ったところだった。メールの着信だ。きっとまた面接の結果だろう。




嫌だよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

俺は携帯片手にその場でゴロゴロとうねった。うねり倒した。狭い自室の壁に足の小指がぶつかり、悶えた。ため息が漏れる。自分が心底バカらしくなったまま、俺はその勢いでメールを開封した。どうせ祈ってるんでしょ。ハイハイありがとーね。今夜もビールがうまいよ。


ポチ、


しかし、俺の予想に反し、そこにお祈り文はなかった。嫌、もう祈りすらしてくれなかったとかじゃなくて。いや本当。愛想つかれたわけじゃなくて。通ったのだ。俺は最終面接の日時を告げる文面を目を皿にして読み進めた。本当に通っている。通ったんだ。

「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

俺は跳ねた。ぶつけた小指が痛んだが、構わずもう一度跳ねてベッドに飛び上がり、隣人もいないかのように雄叫びを上げて跳ね続けた。これこそ天国、百花繚乱。酒池肉林のパーリナイッ。俺はそれがまだ内定ではないことも忘れて狂喜乱舞し続けた。いや、正確には狂気乱舞だった。


三日後、俺はとある大手企業の玄関前にいた。そう、俺が最終面接にこぎつけたのは、日本人なら誰もが知る大手企業だった。いつの日かやけくそでESを送り付けていたのだ。よくやったあの日の俺。送ったとき飲酒してた気がするけど。必ずや受かって見せるからな。そういえばその時AV見ながらだった気がするけど。任せろ俺。あのレズものは最高だったよな。

俺は抑えきれない笑みをこぼしながら、意気揚々と玄関を通ったのだ。


その30分後急斜面の崖を転がり落ちることになるとは、この時の俺は知る由もなかった。

俺の頭は二割の緊張と八割のレズで埋め尽くされていたのだから。


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