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12 楽しい懇親会①

 夏の暑さもどこへ行ったやら。そろそろ長袖がマストになってくる10月の土曜日。やや曇り空の虹巻駅前に、5人の女子高生が集まっていた。


 このチームの弱点はコミュニケーション不足だ。互いの能力も把握できていないし、やりたいことも伝えられていない。要求すべきレベル、自分にできること、できないこと、全てを踏まえていなければ高い連携を取ることは出来ない。

 これがプロゲーマーであれば、プロだからという立場からモノを言うこともできるが、自分たちは高校生なのだ。出会ってすぐの先輩相手に萎縮するのも仕方がないし、美波は極度の人見知りだ。

 絵麻と英美里が相談して下した結論が、この懇親会である。

 結局の所、お互いの仲が深まらなければ活発なコミュニケーションは生まれない。だからまず仲良しになろう!ということである。


「おつ!遅刻無しだね!素晴らしい!」


 今日も派手な格好の絵麻が元気よく挨拶をする。

 明るいオレンジのTシャツに、穴の空いたデニム、底の厚い靴、そして大きなサングラス。美波が英美里の後ろに隠れたくらい、陽の雰囲気を放っていた。


「14時集合で遅刻する人なんていませんよ」


 そう話すすみれは、制服の時はお嬢様といった雰囲気だったが、私服姿は落ち着いた大人の女性を感じさせるものだった。ピンク色やレースは一切使わず、ゆったりとした薄いブラウンのブラウスとベージュのセミワイドのパンツ。 

 本人の身長が低いため、背伸びした女の子にも見えてしまうのだが……。


「私が起こさなかったらすみれは遅刻してましたけどね」

「ちょっと!余計なことは言わないの!」


 友人のはしごを外した雫は、イメージ通りのスポーティなスタイルだ。

 でっかいスニーカーに黒のスキニーデニム。有名スポーツメーカーのパーカーとキャップ。背が高いだけあってよく似合っている。


「美波も似たようなものだから」


 未だ眠そうな顔の美波と、無理矢理引っ張ってきた英美里は、共にデニムとTシャツにカーディガンを羽織っている。

 美波は禄に服を持っていないので、今着ている服の半分は英美里の物だ。だからどうしても似通った服になってしまう。

 英美里の手にはスマホの付いた自撮り棒が握られている。


「英美里、撮影するの?」

「全国大会まで行ったら顔出しになるでしょ?だったら今のうちに動画の素材撮っておこうと思って」

「minazuki games用のか。抜け目ないね」

「美波が外に出るなんて中々無いからね。撮り貯めておかないと」

「なるほどね。じゃあ全員揃ったので行こうか!まずはラウンド1だ!」


 最初の目的地は駅前にある大型アミューズメント施設だ。

 狭いエレベーターに押し込められてボウリング場のあるフロアまで行く。


「ボウリングですか。得意ですよ!雫が!」

「え、すみれは?」思わず突っ込む絵麻。

「この細腕であんな重い球を投げられるとでも?」


 受付を済ませて端っこのレーンへ向かう。靴をレンタルしてそれぞれボールを選ぶ。

 案の定、美波は軽いボールしか持てないようだ。


「やっぱり部長である私から行こうかな!」


 絵麻が先陣を切って1投目を投げる。遠慮せずに先を行ってくれる人がいると助かる。

 やはり多少は遊び慣れているのか、6本、3本と倒して計9本。


「まぁまぁかな?」

「いやいや、いきなりストライク出されてもプレッシャーですから、ばっちりですよ」


 そう言ってすみれが投げる。ゆったりとした綺麗なフォームだが、9ポンドの軽いボールでは勢いが足らず、4本、2本で計6本だ。


「うーん。なんか微妙だわ」

「大丈夫。コースは悪くないよ」

「でも6本じゃ不満よ。雫、見せてあげなさい!」

「はいはい」


 雫は長い手足を使って勢いよくボールを転がすと、見事ストライクをとった。ピンを倒す音がみんなとは違う。出来る人の音だ。


「さすがね!友人として鼻が高いわ!」

「やるねえ。さてさて、英美里の腕前はどうなのかな?」

「言っておくけど、私の運動神経はTHE・平均値よ」


 ややぎこちないフォームだったが、ボールは真っ直ぐに転がって7本倒した。だが2投目は外れて7本止まり。

 それでも満足げな英美里だった。


「ほらね、こんなものよ」

「宣言通りの平均レベルだね」


 隣では、美波がすみれよりも小さな8ポンドのボールを、震える両手でなんとか抱えている。8ポンドといえば子ども向けの重さだけど、あれをあそこまで重そうに持てる高校生なんて中々いない。


「パントマイムの達人みたいですね」

「美波、大丈夫?」

「死にはしないわよ」


 結果は全員の想像通り、ガーター&ガーターだった。


「うん。あのミナズキにも弱点があるって知れて、なんだか安心できるな」

「弱点だらけよ。100個なら言えるわ」


 各自2フレーム目も同じような結果になり、美波は2本だけ倒すことが出来た。

 3フレーム目、順調にスコアを伸ばす絵麻と雫、マイペースに少しずつ倒していくすみれと英美里。

 を、横目に既にやる気を喪失した美波が、ボールを抱えて立ち尽くしており、周囲にはどんよりとした陰の空気が漂っている。絵麻の陽の力でも中和できるのか怪しいレベルである。

 見てるこっちまでお通夜モードになりそうだ。英美里が自分で手を貸そうか悩んでいると、隣ですみれが雫に耳打ちをしていた。

 何やらせっつかれた雫がゆっくりと美波に近づいていく。


「あの、月島先輩」


 後ろから声をかけられた美波がビクッと跳ねる。恐る恐る振り向くと、恐る恐る近づいてきた雫と目が合う。

 不安だ。英美里も絵麻も、背中を押したすみれも「大丈夫か……?」という心境が表情に出ている。


「えーっと、ボウリングというのはですね、腕で投げようとしたら駄目なんです」

「……?」

「ボールは重いので、振り子のように後ろから勢いをつけるだけで勝手に転がっていきます。投げるのではなく押し出す感じで」

「うん」

「あと、狙うのはピンではありません。近くに三角のマークがたくさんありますよね。あれの真ん中とその右の三角の間を狙ってください」

「うん」


 コツを教えられた美波がゆっくりと腕を後ろに振り、ぎこちないながらもボールを投げると、ボールが初めて真ん中に転がった。悪くないコースで転がり、中心やや右に当たる……が、勢いが弱くボールも軽かったので、倒れたピンは4本だ。


「悪くないです。次も同じところを狙って大丈夫ですが、少し右に立ってください」

「わかった」

「そこです。そこから同じところを狙って」


 中心からやや右に立って投げたボールは、さっき倒せなかった先頭のピンに向かって転がっていく。

 勢いが足りないせいで全部は倒れなかったが、3本倒れて合計7本。

 スペアとはならなかったが、7本というスコアに美波は満足げだ。興奮したように頬を赤くさせて飛び跳ねて戻ってきた。後ろで見ていた雫を見つけると両手でハイタッチをする。


「ずいぶん良くなりました。今日中にストライク目指しましょう」

「うん」


 そのあとも、投げるたびに雫に教えてもらいながら修正していった。


「もう少し重いボールでも投げられそうですね。ちょっと見に行きましょうか」

「わかった。いく」


 女性が持つ平均的な重さは9〜11ポンドだ。ちょっとだけ重くしても大丈夫と判断したのだろう。2人してボールを探しに行った。

 その姿を後ろから撮影していると、英美里の隣にすみれがやってきた。


「あの2人、ずいぶん仲良くなりましたね」

「そうね。良かったわ」

「いいんですか?雫に取られちゃいますよ?」

「なんで私たちがバチバチになるのよ」


 意地悪な言い方をしてくるすみれに呆れ顔で返答する。


「まぁそうなんですけど、ちょっと面白くないなって」

「すみれが焼きもち焼いてどうするのよ」

「焼いてません」

「言っておくけど、いくら雫がカッコいいからって、そのくらいで間に入ってこれるほど私たちの関係は浅くはないの」

「な……ずいぶん自信ありますね」

「歴史が深いのよ」

「私たちだって、それは深い絆で結ばれてるんですから!」


 言い合いをはじめた2人の間を絵麻が割って入る。


「だからなんで英美里とすみれがバチバチなのよ!」

「喧嘩を売ってきたのはすみれの方よ」

「ぐっ……なんか負けた気がして!」

「先輩が喧嘩を買わないの!」

「ちっ」

「英美里はいつも真面目なのに、美波の事となると子どもみたいになるんだから」

「……それを言われると困る」

「困るんじゃないよ。次すみれの番だから早く投げてきて」

「はーい」


 すみれがトコトコと走っていく。

 英美里の横に絵麻が座る。何か言いたげにジトーっと睨む。


「今日は何の会ですか?」

「懇親会です」

「分かってるならよろしい」

「はい」


 その後、美波がストライクを出すことはなかったが、最終フレームでスペアを取ることが出来た。嬉しそうにハイタッチをする美波と雫を、表面上穏やかに見守る英美里であった。


【一生のお願い】

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