第3話 露店市場
次の日、私たちは早く起きて野菜を売りに王都へ向かう。まだ日が昇りきっていない時間。寝惚け眼をこすっているレンのお尻を叩いて王都へ向かった。
王都の露店市場に到着すると早速野菜を並べる。まだ早朝だが既に露店市場は賑わっていた。私たちの他にも野菜を売っている露店はたくさんあるので、いつも売りに来ても三分の一は残ってしまう。
今日もそのくらい売れれば良い方だ。
「よーし! 気合い入れて売るぞ!」
レンは大声を出して呼び込みを始める。他のお店でも呼び込みはしているが、私一人だった時は黙って椅子に座っているだけだった。
私もレンを見習って呼び込みをしてみる。最初は恥ずかしかったけれどお客さんが意外と来てくれて、それが嬉しくてレンに負けないくらい声を出す。
売れ行きも好調だった時、商品を並べてある机に誰かの足が当たりトマトが二、三個ぐちゃりと音を立てて落ちた。
「わりぃわりぃゴミかと思った」
机に足を当てた男が下品に笑う。私はこの男に見覚えがあった。王都にいるゴロツキだ。たまに露店市場に来てお店に言いがかりを付け回っている。不愉快極まりない。
たまにお店の人と殴り合いの喧嘩をしているのを見かけていた。それが目的で言いがかりを付け回っているのではないかと思う。
「何だと!」
レンは無視すればいいものをゴロツキに食ってかかる。殴り合いでも始めるのではないのかと思い慌てて彼の袖を引っ張った。
「レンいいよ。止めて」
周りのお店の人たちやお客さんも不安そうな顔でレンたちのやりとりを見ている。
「俺たちが作った野菜はうまいぞ! ゴミなんかじゃない!」
「見た目からしてまずそうだなぁ」
「じゃあ食ってみろ!」
レンはゴロツキの前にトマトを差し出すが、彼の手は払いのけられた。
「俺にゴミを食えってか?」
「食ってもいないのにそんなこと言うのは言いがかりだ! お前には俺たちの作った野菜はおいしすぎて口に合わないかもな」
売り言葉に買い言葉。熱くなっている二人をただ見ていることしかできなかった。
ゴロツキはレンに無理矢理差し出されたトマトを一口頬張る。何を言われるのか不安で仕方ない。ゴロツキは目を見開いて押し黙っている。
レンはその様子を見て勝ち誇った顔をしていた。ゴロツキはレンの表情に気がついてやっと言葉を発する。
「つ……土臭くてくえねぇよ!」
「うそつけ! 顔においしかったって書いてあるぞ!」
レンの言葉に周りから笑いが起きる。ゴロツキはトマトをレンに投げつけると足早に去って行った。
「レン。無茶しないでよ」
「一生懸命俺たちが作った野菜を馬鹿にされたからむかついた! でもおいしいって証明できたし満足だ!」
彼は白い歯を見せて笑う。一時はどうなるかと思ったが、私たちの作った野菜はゴロツキも黙らせるほど美味しくできたようだ。
レンとゴロツキのやりとりを見ていたお客さんたちは次々に私たちのお店を訪れた。ゴロツキを黙らせた野菜はどういうものなのかと興味本位で買っていく。
レンが来てから作った野菜だ。それなりに自信があったので皆が買ってくれて嬉しい。
夕方になる前には机の上の野菜はすべてなくなり、初めて完売することができた。