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第一話 十一度目の召喚士


 強い光。


 強い光が目の前を覆う。



 目を開けていられないほどの強い光だ。咄嗟に瞼を強く閉じ、光が収まるのを待つ。

 この光も久しぶり、いや何度も体験したから慣れたものだ。



 いつも通りの、“召喚される”光。



 思えば、これで十度・・・いや十一度目か?

 さて、この世界はどうなのだろうか。いきなり襲われないか? 世界の終わり直前か?

 まぁそれもじきに分かるだろう。 今は咄嗟の判断ができるように身構えておくぐらいしかできることはない。





 スッと何事もなかったかのように瞼を灼いていた光が消えた。


 少し瞼を開けてみる。

 が、強い光を目に受けた後遺症か、景色がぼんやりとしている。


 耳を澄ます。

 聞こえてくる息遣いは無数。微かに響く金属の擦れる音。そして、すぐ近くからは衣擦れと息を呑む音が聴こえてくる。


 とりあえず危険はないか?

 臨戦態勢は解くが、警戒は解かない。慣れてきた視界に、辺りの光景がぼんやりとしながらも映し出された。


 荘厳な大広間だ。いや、これは神殿だろうか? 真っ白な大理石のようなもので床と壁面が覆われ、天井には目に痛いほどのガラス・・・いや、宝石?が輝いている。クリスタルパレスという言葉が浮かんだが、それよりも遥かに豪華だと思う。


 そして、俺が立っている場所は足首ほどまで水が張ってある、円形の仕切りの中だった。くそ、靴が濡れてるじゃないか。この異常な事態でも落ち着いて足の気持ち悪さを実感してしまう。


「よくぞ我が召喚に応えてくれた!」


 芝居がかった大声が響く。

 俺はさきほどからなるべく視界に入れようとしなかった、“うさんくさい”集団へと目を向けた。


「おぉ、おぉ! そう戸惑うことはない! 貴殿らは、神の遣い! 使徒としてこの場にいるのだ! 歓迎しよう!」


 赤いビロード?の長いマントに宝石のちりばめられた冠。一目で仕立てが良いと分かる服に、一振りの儀礼用の剣だろうか、装飾の凝った剣を腰に差している。


 おう、いかにも王様ですよーという感じのやつだ。

 ああ、これは“だめなやつ”だ。少しは期待していたが、やはり俺の召喚運はよくない。というかよかったことがない。


 貼り付けただけの笑顔。蔑むような眼の濁り。一見、歓迎しているようにもみえるが、それもどこか芝居がかっている。

 ああ、ロクなやつじゃない。それに、俺・・・いや“俺たち”を囲む騎士たちだってそうだ。静かにたたずんでいるようにも見えるが、全員、剣を留める紐が外れている。フルプレートメイルで顔は窺えないが、歓迎されてないことは分かる。


「あっ、あの!」


「うん? ああ、嬉しさのあまり急いていたようだ。で、何かね?」


「これ、いや、えと、召喚? はは、何かのドッキリですか?」


 紹介しよう。

 俺が立っている小さな水の張ってある囲いだが、俺の他にも四人立っている。

 その中で、茶髪に綺麗な顔立ちをした青年が半笑いで声を上げた。混乱しているのか、頬が引き攣っている。ああ、初めてだと素直に混乱するよなぁ。他の三人も明らかに混乱している。

 落ち着いている俺が異常なのだ。


「どっき・・・? いや、そのどっきやらは存ぜぬが、貴殿の言うように召喚だ。救国の英雄、選ばれし勇者としての、な!」


「勇者・・・!」


 おっ、何人かが反応してるな。まぁ勇者って単語に敏感な年ごろなんだろう。

 しかし、推定:王さんのニヤニヤ笑いが気持ち悪い。そのたくましくカールしたヒゲをちょうちょ結びにしてやろうか。コラ。

俺は推定:王さんへの視線を切り、俺以外の四人へと目を向ける。


 男が二人に女が二人。合コンか? 高校生くらいの若者たちだ。まぁ、俺も見た目と社会的には高校生だが。とにかく、青春真っただ中の多感な男女が召喚されるか。これは・・・いろいろと面倒なことになりそうだ。


 茶髪に綺麗な顔立ちの男。背は俺より頭一つ低い。170くらいか。線が細く、華奢という言葉が似合う。野郎に興味は無いな、よし次。


 黒い短髪を刈り上げた筋骨隆々の男。背は俺と同じくらい、180ほど。むさいのはお断りだ、次。


 黒髪のセミショート、気の強そうな少女。背は茶髪の青年と同じくらいか。何が気に障ったのか、むすっと口を横に結んで眉間に皺を寄せている。美人だな。だが気の強い女はパスだ、次。


 透き通る金髪を腰まで伸ばした超美少女。背は低いが、色白で、黄色がかったヘーゼル色の瞳を持っている。ハーフだろうか? 不安げに服の裾を握り締めながらも、黙って話の成り行きを見守っている。体つきはスレンダーだ。というかお子様体系だ。高校だろう制服がぜんぜん似合っていない。そうだな、ロリータファッションとか凄く似合いそう。


 いかんいかん、久しぶりにまともな人間が居る世界に召喚されたからか、テンションが上がっている。


 落ち着け、落ち着くんだ。

 俺は見た目こそ好青年だが、中身はいい年だ。可愛いとか思ってはいけない。親の目。そう、父親の目で見守るんだ。


 俺の生暖かい視線に気づいたのか、少女が困惑した表情でチラチラと見てくる。

 おっと、これ以上はアウトだわ。そっと視線を逸らした。


「戸惑うだろう! ……だが、それも致し方なきこと。貴殿らには、どうしても力を貸してほしいのだ!」


「力……ですか?」


「ああ! そうだとも! 力だ! 今、世界は魔族の脅威にさらされている……。もはや、われわれ人類には滅ぶ運命しかない、というところまできているのだ……」


 あん? 魔族?

 魔族って……なんだ? 悪魔のことか?


「あの……魔族ってなんでしょうか?」


 おっ、いい質問だ。よく聞いてくれたな、茶髪男。


「魔族を知らぬ……いや、それほど平和な世界からきたということだろう」


「はぁ……」


「魔族とは、醜悪な容姿を持ち、われわれ人類を食糧とする怪物たちのことだ」


「しょ、食糧?! 人間を?!」


「そうだ。やつらは群れをつくり、あまつさえ“王”を名乗る個体まで出る始末。われわれ人類は、“生き残るため“やつらと戦い、限りないほどの犠牲を出してきた……」


 声のトーンを落とす推定:王……いやもうヒゲでいいや。苦渋に満ちた表情を浮かべている。


「だから! だからこそ! われわれ人類を救う、救世主を求めた! そして、神により選ばれたのが…………そう、貴殿たち、ということだ」


 おう、発想がぶっ飛んでるな。

 普通のガキをよそから攫ってきて、兵士に仕立てて死地へ行ってくださいねってことだろ要は。


 クソッ、これだから嫌なんだ召喚は。最初から嫌な予感をしていたが、このまま何か先手をとられるとヤバい。


 警戒を限界まで引き上げる。目の前のヒゲ、周囲の騎士たちの一挙手一投足。足元に違和感はないか。天井は。壁から何か感じないか。



 …………おっと、見つけたぜ。

 左右と背後の壁から、なーんか禍々しい気配がする。これは確実に悪意を持った“ヒト”か“モノ”だ。


 まぁ悪意と言えば、目の前のヒゲと騎士からビンビン感じるんだけどな。もうちょっと隠せよ。まぁ若い四人は気づいてないのだろうが。



 俺が静かに周囲を探っている間も、ヒゲと茶髪男は何やら話していた。

 が、もうヒゲの話に興味は無い。問題は、こいつらが“いつ”仕掛けてくるか、だ。


「―――では、僕たちには、その“魔王”を討ってもらいたい、と?」


「うむ、そうなるな。だが、これは異界より来たれし神の使徒、勇者でなければ太刀打ちできんのだ……。なればこそ、貴殿らにはわれわれ人類を救ってほしい。頼む、われわれを救ってくれ!!」


 あちらのお話も佳境に入った、というところか。

 なーにが救ってくれ、だ。その話の真偽は知らないが、そんな窮地に立たされている人類様とやらが、余裕そうなわけないだろ。


 少なくとも、切羽詰まってはないわな。


 受けるはずがない。そうだろ、お前たち?


「……わかりました!」


 なん……だと?


「僕“たち”の力で人類を救えるというのなら! この力、勇者として使いましょう!!」


 おい。ちょっと待て。

 なんだ僕“たち”って。俺もか? 俺もその人類救う勇者サマとやらに入ってんのか?


 冗談じゃないぞ。というか断ると思ってたわ。

 こんな見え透いた芝居に踊らされて、承諾しちゃうとは思ってなかったぞ。


「カ、カイ! おい、そんな簡単に……」


 さすがに黙っていられなかったのか、黒髪短髪筋肉が茶髪男の肩を掴む。

 茶髪男は肩に置かれた手をそっとのけると、力強い声で言った。


「僕たちしか、人類を救えないんだ。だから、僕は人々を助けてあげたい」


「カイ……」


「それに、僕たちの力を合わせればなんとかなるよ! 一人だったら僕も怖いけど……リクに、ミヤ、ユキがいてくれるんだから! どうか、力を貸してほしい!」


 ひゃー、ここまで能天気でお花畑なセリフを堂々と言えるやつ、初めて見た。

 こいつ、努力とか友情って言葉が好きそう……。努力と友情でなんとかなったら、世界はいつまでも平和なんだよ、頭がハッピーターンか。


どう考えてもこれは関わっちゃいけない案件だろ。安請け合いしたらダメって、お母さんに習わなかった? おいこっち見てんじゃねぇよ殺すぞ。




 ―――――よし、もう付き合いきれんわ。


 茶髪男と筋肉は良い笑顔で納得してるし、他の少女二人も納得―――――あれ、してない。


 なんだよ、黒髪セミショートのお嬢さん。こっち見んな。

 そんな渋い顔でこっち見られてもどうしようもないだろ。あんたのオトモダチだろ、そっちがどうにかしろよ。


 金髪のお嬢ちゃんもこっち見ないで。そんな純粋な瞳で見つめられても、お兄さん困っちゃうから。どうぞ、そこの友情勝利クンたちと一緒に魔王さんを殺りにいってください。


 おいヒゲ、マジでこっち見んな。

 てかなんでほとんどのやつらが俺を見てんだよ。やめて見ないで。ここを更地にしたくなるから。



 ひしひしと感じる視線を受けて、俺の口からは自然とため息が零れるのだった。




 

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