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押しかけ女房のお嬢様とオタクの俺は釣り合わない  作者: 海老の尻尾
第1章 オタクと猛アタック
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第1章 オタクと猛アタック その5(第1章ラスト)

「というわけで侯輔様、改めて私と結婚して下さいませ。あのときは周囲の目もあり、恥ずかしかったかもしれませんが今は大丈夫です。さあ!」


 彼女はキラキラした目でこちらを見てくる。というか俺が倒れたのは恥ずかしかったからじゃないんだが。でも確かに彼女は可愛い。それは間違いない。付き合いたい人も山ほどいるだろう。だが俺は……


「ごめん、俺は君とは結婚、いや付き合うことはできない」はっきりと言った。

「ど、どうしてですか? もし私と結婚したら侯輔様の仰る事は何でも従います。家事、育児も全てやりますし、働かなくても生きていけるようになります。何不自由ない生活が保障されていますわ」


 うわー、この子愛が重いわ。まさかこれほどとは思わなかった。でも俺にははっきりと断る理由がある。


「さっきの俺の説明には出て来なかったけど、俺実は昔とある女の子にひどいことされてそれ以来女の子恐怖症になってしまったんだ」


 俺は勇人くらいしか話したことの無い秘密を暴露した。


「そ、そうでしたの。それではその女の名前と住所を教えて下さいませ。花見崎家全総力を上げてその女を討ち滅ぼしてまいります。まずは粉砕機の用意が必要ですわね」


 何言ってんのこの子! ものすごい恐ろしいこと言ってるんだけど。というかこれヤンデレじゃねえか。いや、もちろんヤンデレもツンデレも好きだよ。けどそれはあくまで俺が干渉しないところでの話なわけで、実際に目の当たりにすると理想と違いすぎてクラクラする。というか粉砕機って……いや、考えるのはよそう。


「ま、待って。そもそもその子俺が小学校二年生の春にやってきてその年の夏に急に転校したからどこにいるか知らないんだ。名前も思い出せないくらいだし。それに俺は別に恨んだりしてないから」


 もう何年も前のことだからな。とっくに時効だ。


「そういうわけで俺なんかが女の子と付き合えるわけないよ。それに俺オタクだし、お嬢様の君と釣り合うわけないし」


 彼女はじっと俯いて俺の話を聞いていた。そして俺が話し終えると急に立ち上がった。


「恋愛に釣り合うとか釣り合わないとかありませんわ! 私はあなたに惚れたのです! それではいけませんか!」


 俺の方を指差して力強く言った。さっきのパンツを脱がそうとした獣のような目とは別物の真面目な目。


「侯輔様がお、おたく? であろうと構いませんわ。全てを受け入れる覚悟はございますわ」


 どうやらオタクという言葉は知らないようだ。やはりお嬢様である。


「しかしお嬢様。侯輔様の身にもなってお考え下さい」


 さっきから一言も喋っていなかった島袋さんが口を開く。


「もしこのまま侯輔様と強引に付き合ったとしてもお互いの満足度に差が出てくるとは思いませんか? お嬢様が今日のように抱きついたとしたらその度に失神してしまいます」


 俺の言ってほしいことをスラスラと言ってくれる。なんて有能な執事なんだ。やはり俺の味方だ。


「それもそうですわね……じゃあどうすればよいですの?」

「簡単なことです。お嬢様が侯輔様の恐怖症を治す手助けをして下さればよいのです」

「……え?」


 急な提案に俺はしばらく行動不能になった。


「それはいいですわね! そうすれば侯輔様の恐怖症が克服されたときに私たちは晴れて付き合うことができてそのままゴールイン。ゆくゆくは子供もたくさん設けて幸せな暮らしが築けると言うわけですわね!」

「左様でございます」

「左様でございます、じゃないですよ! 俺の自由は? 意思は?」


 ようやくツッコミを入れられた。いきなり俺の意見もなしに話が進んでしまっている。


「侯輔様はこんな私はお嫌い……ですか?」


ウルウルとした目で花見崎さんがこちらを見つめる。そ、そんな目をし、しても……


「べ、別にそうではないけど……」

「なら問題ないですわね。ではこれから侯輔様の恐怖症を克服するために手を取り合って頑張りましょう。あ、そろそろピアノのお稽古の時間ですわ。名残惜しいですが侯輔様、また明日お会いできるのを楽しみにしてますわ」


 そう言うと彼女は保健室を出てスキップしながら出て行った。なぜ日和った、俺。


「一つ聞きますが島袋さん、彼女を止めることは出来なかったのですか」

「……私も命が惜しいもので」


 深く理由は聞かないでおこう。家からなのか個人からなのかは分からないが。とにかくこの人は俺の敵ではないが味方でもないということが分かった。


 その後島袋さんも帰り、しばらくしてから保険医の鳴本先生がやってきた。会議が長引いたとのことだが、もう少し早く帰ってきて欲しかった。俺は自宅に帰りながら今後について考えた。どう考えても俺の精神的疲労が蓄積する未来しか描けなかった。


 こうして俺後塚侯輔と花見崎可憐さんとの物語が始まった。始まってしまった。 

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