第4章 オタクとフェス その4
今日は土曜日でありテストも近いので当然部活の練習も休みであり、多くの生徒は自宅や図書館、はたまた塾等でテスト範囲の総ざらいをしているところだろう。しかしそんなことよりも俺はフェスの締め切りの方が大事であるが勇人との約束を破るわけにもいかない。待ち合わせは九時に俺の家である。
「もうすぐですわね。勇人様がいらっしゃるのは」
「そうだな。さっさと終わらして執筆活動に戻りたいものだがな」
あらかじめ可憐さんには俺が同人活動をしている情報が入っている。正確には勝手に俺の部屋を荒らされてバレただけだが。それが見つかったときはノリノリで服を脱ごうとしたので思わず首を180度回した。『こういう女の子のモデルなら是非私が!!』と言い出したのでしっかり訂正した。そもそも俺は全て妄想で書いているのでモデルは必要ない。むしろ生身の女の子がその場にいると気になって集中できない。
そんなことを考えているとインターホンが鳴った。家の中から映像を見てみるといつも以上にニヤけた顔の勇人がいた。何がそんなに嬉しいのだろうかと思いながら扉を開けた。
「いらっしゃー…… あれ?」
インターホンからは見えなかったがそこにはもう一人いたようだ。
「あ、後塚君。おはよう」
その清楚な声と守りたくなるような姿は同じクラスメイトの華宿里さんだった。
「え、あ、おはよう…… ど、どうしたんだ勇人、何で一緒に?」
以前とは違い今度はちゃんと会話することができた。だができたのは挨拶程度であり、すぐに勇人に移してしまった。
「何かお前の家の近くでウロウロしていたから一緒に来ただけだが。いやー、朝から出会えるなんて俺もついてるな~」
ヘラヘラしていた理由がようやく分かった。だが通報されたくなければ多少自重していた方がいいな。丸っきり不審者に見えるし。
「それで、華宿里さん、私たちの家に何の用でしょうか?」
一部分強調された気がするがそれはスルーしておこう。真横の彼女(ただの代名詞)は相変わらず殺気を放っている一方、なぜか目の前の彼女はクリクリの目をさらに丸くしている。あ、そうか! 俺たちの事情を知っているのは勇人だけだったんだ!
「あ、もしかして二人はそういう、関係……?」
聞いちゃいけないような感じで恐る恐る尋ねてくる。もちろん違うと否定はするがそのあとはどう説明しよう。正直に言うか? しかしそんな風に言って納得するか? それにこれが拡散してしまったり……
「いいんじゃないか、言っても。言いふらしたりしないだろうし」
迷っているところに背中を押してくれるのが親友だ。さすが勇人、あとで抹茶ソーダ奢ってやる。
「そうだな、華宿里さんには正直に言っておいた方がいいな。実は……」
俺は今日までの全てを話した。アニメの振りをして可憐さんを助けたこと、その後好かれて襲われそうになったこと、でも俺は女の子恐怖症なこと、そして今押しかけられて同棲していること。どれもこれも恥ずかしいことばかりなので華宿里さんの目を見て話せなかった。まあどんな話でも女の子の目を見て喋れないけどな。
「へ、へー、そうなんだ…… 大変だね」
若干引いてしまうのも無理はないと思う。逆の立場なら絶対信じないもの。ところで可憐さんはこの話の間ずっと誇らしげな顔を浮かべているがそんなに自慢できることじゃないからね。
「まあ色々と…… ところで今日は何しに?」
俺たちの関係で流れてしまい聞きそびれてしまっていた。
「あ、これ…… たまたま見つけて」
ポケットから何か取り出した。それは普段の生活ではそんなに使うことがない生徒手帳であった。手渡されたそれを開けると何回も鏡で見た顔があった。 ……俺だ。
「あ、ありがとう…… でも月曜日でもよかったのに」
「無いことに気づいて困っているかなって思って」
ごめんなさい、そもそも存在すら忘れていました。それにしてもわざわざ手帳に書いてある住所を調べて届けに来てくれたのか? なんて優しいんだ。自然と笑顔が零れる。
「本当にありがとう。何かお礼をしないといけないな」
「い、いやいいよ。そんな大したことないし」
しかし施されっぱなしは俺の性に合わない。何かないものか。
「あ、じゃあ華宿里さんも侯輔に勉強見てもらえば? こいつ勉強だけはできるからな」
俺だってもう少し取り柄が……
「後塚君はたくさん取り柄があると思うよ!」
お、おう。華宿里さんからまさかそんな言葉をもらえるとは思わなかった。思わず顔が真っ赤になる。
「じょ、冗談だって。それじゃあテストも近いし勉強していく?」
「私は嬉しいけど……」
俺たちに目配せをする。していいのかの許可を求めている。俺はいいけども……
「いいと思いますわよ。皆でする方が効率的だと思いますし」
意外な返答だった。以前のこともあって問答無用で追い出すかと思いきやあっさりと承諾を得られた。正直嬉しいが綺麗な女の子たちが自分の家にいると考えると心臓がバクバクする思いだ。間違えた、今もドキドキしている。
「じ、じゃあ、どうぞ」
「おっじゃましまーす!!」
「邪魔するなら帰ってーー」
「し、失礼します」
「あ、足元気を付けてね」
「態度違すぎじゃね? まあいいけど」
勘弁してくれ、冗談挟まないと過呼吸になるくらい余裕がないんだから。とりあえず二人をリビングに案内した。俺の部屋でも勉強はできるが様々なポスターを見られるのは恥ずかしいので四人掛けのテーブルで勉強することにした。俺の隣に勇人、正面に可憐さん、そして斜め前に華宿里さんが位置している。
「侯輔~、sin30°っていくらだったっけ?」
「1/2だ。0°、30°、45°、60°、90°のsinとcosは覚えておけ。何度も出てくるから。あと弧度法・・・・・・まあπの表記だな、それに慣れておいた方がいいぞ」
「花見崎さん、この英単語ってどういう意味か知ってる?」
「『knowledge』は知識という意味ですわ。間にknowが入っているから覚えやすいと思います」
こんな風に勇人は俺が、華宿里さんは可憐さんが教えるというスタイルで勉強会は行われた。勇人はバカであるがいつもに比べたら進んでいる方だし、華宿里さんは飲み込みが早く、一度丁寧な説明を受けるとサラサラと問題を解いていた。可憐さんの言う通り教え合うと理解が深まるようだ。
「よし、一旦休憩にするか」
気がつくとすでに12時になっていた。ずいぶん集中していたようで3時間も経過しており、お腹もいい感じに空いてきた。
「そうだ、折角だし軽いゲームでもしようか」
「ゲームですか?」
「ああ、それで最下位のやつが今日の昼飯作るってことで」
「え? ここ俺の家だし俺がやるよ」
招待したわけではないか少々申し訳ない気分になる。
「いいんだよ。こういうのは面白ければいいんだから、な? 二人とも」
「まあ私は作れるから構いませんけれども」
「私も。何だか面白そう」
女の子二人を味方に付けた勇人。皆が良いなら文句はないけどな。
「それで、どんなゲームをするんだ?」
「色々持ってきたぞ、えっと・・・・・・」
鞄の中からたくさんの遊び道具が出てきた。こいつが持って来たバカでかい荷物の半分以上が勉強に関係ないものだった。どうりで大きいと思ったんだよな。
「じゃあまずはツイスターゲーム!」
「却下」
「じゃあ王様ゲーム」
「却下」
「ポッキーゲームくらいなら・・・・・・」
「却下だっつってんだろ。どれもこれもあわよくば感が強すぎるんだよ」
「な、何言ってやがる。そんなことはないぞ、俺の目をよく見てみろ」
よく見て欲しかったらその眼球を止まらせろ。泳ぎすぎて捕らえられないんだよ。可憐さんがいることで頭一杯だったんじゃないのかこいつ。今日やったこと覚えているのか心配だ。
でもこいつみたいにガンガン行けたら良かったのにな・・・・・・ そんなことがふと頭をよぎった。
「勇人様、ポッキーゲームとは何でしょうか?」
「えっとな、二人が・・・・・・」
「やめろバカ、教えたらこの先数学教えんぞ」
可憐さんに教えたらどうなることか分からない。最悪ショック死するかもしれない。俺が。
「花見崎さん悪い、これ以上は言えない。後はネットで調べてくれ」
余計な一言言うんじゃねぇ! 実行したらどうすんだよ。なんとか話を反らさないと。
「そ、それより何のゲームするんだ?」
「そうだな。仕方ない、定番ではあるが大富豪でもするか」
こいつは誤魔化せたけども可憐さんはどうだ? 見た感じでは大丈夫のようだが。
「大富豪というものはどういったものでしょうか? 所有している別荘の値段を当てに行くゲームでしょうか?」
そのゲーム成立するのは可憐さんだけだから。普通の人は別荘なんか持っていないし値段も分からん。そんなゲームを勝手に産み出さないでほしい。
「あ、これは大富裕の方でしたわ。聖橘で今流行っているのですよ」
あるのかよ実際。どれだけ金持ちなんだこの人、というか学校。また今度学校について聞いてみようかな。
一通りのゲームの説明をした後に、昼飯を賭けた一回限りの大富豪を行った。




