第3章 オタクと同棲生活の始まり その12(第3章 ラスト)
「それでは最後の対決ですが、日頃思っていることを侯輔様に言うという内容でいかがですか?」
何だその内容は。よく分からない内容だが正直早く終わって欲しかったから俺は頷いた。
「それでは私から言わせて頂きます。よろしいですか?」
可憐さんは愛歌に同意を求めた。愛歌も面倒くさいという雰囲気を醸し出していたので特に否定はしなかった。彼女は俺の目の前にやって来て俺をじっと見つめた。するといつもみたいな暴走モードには入らずに真面目な顔を見せた。そんな表情は見たこと無かったので背筋がピンとなってしまった。
「後塚侯輔様、常日頃から思っておりましたが本当にお優しい方ですね。突然押しかけた私に対しても無碍に追い払わずに対応してくださっておりますよね。急にアプローチした身ではありましたがあのときの私は間違っていなかったと改めて思います。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
真面目なコメントをして深々と頭を下げた。態度が急変すると対処に困る、というより言われた台詞に素直に照れる。
「こ、こちらこそありがとう……」
「侯輔様は私のこと嫌いかもしれませんが私は未来永劫侯輔様のこと大好きです。一緒に恐怖症を克服していきましょう。これが私が日頃思っていることです」
満面の笑みで熱烈に言われた。おそらく鼻血じゃない意味で顔は真っ赤になっているだろう。俺自身別に可憐さんが嫌いなわけではない。良い人だというのは言われなくても分かる。俺が普通の人ならば今の状況にはそもそもなっていないのだ。原因は俺にある。
「はあ、もういいわ。私の負けよ」
愛歌がため息と共に言う。どこか諦めたような安心したような顔を見せた。
「アンタ、本当に兄貴のこと好きなのね。強引さもここまで来ると一周回って清清しいくらいよ」
「で、では私は居候させていただいてよろしいのですか?」
「好きにしなさい」
妹の許しが出ると可憐さんはピョコピョコと飛び跳ねた。よほど嬉しかったのだろう。大声を出してバタバタしないところがお嬢様っぽかった。
「あ、愛歌……俺の意志は? 無いのか?」
「そんなもの無いわよ。その女の子恐怖症面倒だからとっとと治しなさい。あの人がリハビリ相手になるんじゃない」
だろうと思ったよ。これでとうとう安住の地がなくなったわけだがこれからどうしよう。まあ俺が克服できたら何の問題も無くなるわけだけどな。
「話はついたみたいね。じゃあ可憐ちゃん、明日からここにいらっしゃいな」
「いえ、その必要はございません。すでに準備は持ってまいりました」
可憐さんは持ってきたあのバカでかい荷物を広げた。
「着替え、タオル、歯ブラシ、理髪道具、化粧水、美容液、乳液などなどたくさん持って参りましたわ」
「……あとで化粧水とか見せて」
「いいですよー」
美容を多少気にする年頃の愛歌は高級品であろうそれらに興味を寄せた。
「あとは蝋燭、猿轡、三角木馬、鞭、ローションなど……」
「待て待て待て。何でそんなもの持ってきているんだ」
「侯輔様の趣味を把握するいい機会だと思いまして。あ、バイブもありますよ」
「要りません、全て片付けてください」
一体俺を何だと思っているんだ。繰り返し言うが俺はMじゃない。ほら、愛歌も引いているじゃないか。
ここに住むのを了承はしたが果たして大丈夫なのだろうか? 俺の心身が。




