第3章 オタクと同棲生活の始まり その11
「で、次はどんなことをするんだ? もう時間も時間だし長引くようならまた次の日でも……」
「いえ、後の二つはすぐに終わるものですわ。あ、ですが少し侯輔様に手伝って頂きたいことがございます」
「え? でも俺何すればいいんだ?」
「大丈夫ですわ。座って頂くだけで結構ですのでよろしいですか?」
「まあそれくらいなら」
……大丈夫だよな? 言ってからだが不安になってきた。
「二回戦は愛歌様の提案で侯輔様へのマッサージとなりました」
「え? 愛歌が決めてくれたのか?」
さっきの料理勝負を可憐さんが決めたから次は愛歌の番なのは分かるがマッサージとは意外だ。特に俺にしてくれたことは今までなかったが勝てる見込みはあるのだろうか。
「べ、別に良い案が思いつかなかったから適当に言っただけよ。疲れを癒してあげようなんて思っていないんだから」
俺はツンデレは頬を赤らめて言うこととセットにしてこそ初めてツンデレになり得ると思うのだ。だからこれはツンデレのようでツンデレではない。偽ツンデレとでも言おう。だが素直にマッサージはありがたい。
「ありがとう、それじゃあ頼めるか?」
「し、仕方ないわね」
先攻は愛歌だ。俺はうつ伏せになり、背中に施してもらうことにした。最近背後からの視線で背中が少し強張っている。まあいつ襲われるか分からないから常に緊張状態になっているから凝るのも仕方が無いんだがな。原因も近くにいるし。
「じゃあ行くわよ」
愛歌は俺の背後の骨盤辺りの座るのに安定した箇所に腰を下ろした。そして肩甲骨付近に向かって親指が押し込まれた。
「い、痛い痛い痛い!! あ、愛歌ちょっと待っ……ギブギブギブ!!」
今背中には剣山が刺さっているのか? いやそんな馬鹿なことはない。俺が予想以上にガッチガチの体を持っていただけだ。
「うるさい、少し我慢しなさい」
「これちょっとのレベルじゃないんだけど……あがががががが」
口答えするたびに剣山の数が増える。うつ伏せなので愛歌の顔は見えないが今満面の笑みをしているのが容易に想像できた。この半分拷問の時間が五分も続いた。
「はいこれで終了よ。どう? 今の状況は」
「どうもこうもバキバキで体がピクリとも……」
ん、動いた? いやそれどころか体が嘘のように軽い。飛び跳ねても屈伸しても痛みが一ミリも現れない。
「す、すごい。今までの疲れが一瞬で消えたようだ。ありがとう愛歌、これからも頼めるか?」
「ふえっ!? ま、まあ痛めつけているときは楽しかったしいつでもしてあげるわよ」
おいおい、自分でドSだと認めちゃったようなものだぞそれ。以前からそのような節はあったがこれで確定になった。まあこれで体が軽くなるなら安いものだ。ちなみに俺はMではない。
「あの、侯輔様。次は私の番なのですが」
「ああ、ごめん。でももう俺すっかり元気になったからこれ以上は必要ないんだよ」
「ということは私の不戦敗になるのでしょうか?」
「ああ、悪いな。折角だけど」
圧倒的に先攻が有利な種目だったので今回は愛歌に軍配が上がった。
「折角鼠径部のマッサージをマスターしておりますのに……そしてその刺激に耐えられなくなった侯輔様が私を……ふふ、たまには逆のパターンもありですわね」
本当に愛歌を勝たせて良かった。心から。両親の目の前でそんな事態になれば大惨事だ。でもあの二人なら推進させるような気もした。
一勝一敗のまま最後の戦いに持ち込まれた。この後の結果で可憐さんがこの家に住むかどうかが決まってしまう。できれば愛歌に勝ってもらって、可憐さんは元の豪邸に帰って頂きたい。




