第3章 オタクと同棲生活の始まり その9
よくよく考えたら家の中に女の子のクラスメイトを入れるのは初めてだ。あ、この前のようにいつの間にか侵入されていたのはノーカンだ。そう考えると少し緊張してきた。だが可憐さんはそんなこと意にも介さずスタスタとリビングに行き、なぜか用意されていた五個目の椅子に座った。……お袋め。
「どう? 落ち着いたかしら、可憐ちゃん」
「え? あ……まだ少し落ち着いてはいられないですね」
「すまないわね、娘の愛歌がきついこと言っちゃって」
「いえ、それは全然構わないですわ」
むしろご褒美だ、とか思っているんだろうな。落ち着くの意味合いをお袋は勘違いしている。そしてその愛歌は罰が悪そうにそっぽを向いている。このままでは進歩しなさそうに思えたので俺が話を切り出した。
「なあ愛歌。俺も不本意だけどそんなに拒否することないんじゃないか? お前昔姉が欲しかったって言ってただろ?」
俺は愛歌が小学生の頃喧嘩したときのことを思い出した。お兄ちゃんよりもお姉ちゃんが良かった、と言われたことは当時の俺にとってもショックだったのでよく覚えている。
「……よく覚えているわね、そんな些細なこと。でもそれとこれとは別よ。いくらパパやママや兄貴が許しても、直接訪問してきても私の意志は揺らがないわ」
こいつこんなに頑固だったか? なんだか並々ならぬ様子だが何かワケがあるのだろうか。そう思っていると俺の横で座っていた可憐さんが口を開いた。
「……愛歌さん、私にも譲れないものがあるんですわ。私の意志も鋼のように堅いですがこのままではいつまで経っても平行線ですわ。なので勝負をしませんか?」
「勝負? 何よそれ」
「三回勝負で私が勝てば居候することを許してください、ですがもし負ければ潔く去るとしますわ。これでいかがでしょうか?」
可憐さんの方から勝負事を持ちかけてくるとは意外だった。そういうイメージは全く無かったのだがこれを愛歌は受け入れるのだろうか?
「……いいわよ、受けて立とうじゃないの。それで勝負内容は何にするの?」
まさかの承諾!? お前性格いつの間に変わったんだって言うくらいの変貌だぞ。
「ありがとうございますわ。そうですわね……お義母様、御夕食はお済みになりましたか?」
「いや、まだよ。今からしようと思っていたところだけど」
「では一回戦は料理勝負にしましょうか、メニューはメインとなる料理一品でどうですか?」
「望むところよ、さあさっさと始めましょう」
二人の乙女がエプロンを纏って調理台に向かった。
「お義母様、お義父様、侯輔様に審査員になってどちらの料理が美味しかったか判断して頂きます」
「料理勝負で挑んだこと後悔しないようにね」
正直この勝負は一瞬で終わるなと思った。なぜなら愛歌は家の料理当番だからでとても上手いからだ。お袋は仕事で家を空けることが多いから愛歌が担当することが多い。そのおかげでお袋よりも料理の腕は遥かに上である。それに相手はお嬢様である可憐さんだ。アニメのお嬢様が料理下手なのは定番も定番だ。……まあ可憐さんがアニメのイメージ像とかけ離れているのは承知ではあるが、まあこれは愛歌の圧勝だろう。




