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押しかけ女房のお嬢様とオタクの俺は釣り合わない  作者: 海老の尻尾
第3章 オタクと同棲生活の始まり
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第3章 オタクと同棲生活の始まり その6

 俺は中学校時代から持ち続けているポリシーがある。それは、『できるだけ目立たないようにすること』である。オタクの身として陽キャのようにクラス内で振舞うことはできない、というかそんな勇気は持ち合わせていない。授業内の発表は皆無だし、休憩時間中も机に突っ伏して寝た振りをかましている。中学校では行事という行事はサボると目立つので適度に参加していた。

 

 ところがこのポリシーは持ち続けているが守り続けているとは言っていない。中学生では勇人に唆されて入部した野球部で調子に乗っていたらいつのまにか全国制覇してしまった。今思えば成果を挙げてもコミュ障な感じが周りには控えめに見えたのかも知れない。あそこで調子に乗った振りしていれば今頃は……いや、今ですらそんな度胸はないのだから思いついても実行には移せないだろう。


「えー、それじゃあこの最後の問題は……後塚、言ってみろ」

「えっ!?」


 数学の時間中ボーっとしていたら急に問題を当てられた。これは……なんだ三次関数と一次関数の交わるところの面積の問題か。えーっと答えは……


「4πです」

「うむ、正解だ。難しいのによく分かったな」


 教室内に歓声が上がった。しまったつい答えてしまった、目立たないようにしようと思っていたところなのに。


「それでは今日はこの辺で終わるか。起立、礼、ありがとうございました」

「ありがとうございました」


 挨拶が終わるとともに授業終了のチャイムが鳴った。俺は目立ってしまった姿を隠すために待避所(トイレ)に向かおうとした。


「なあ、さっきの問題教えてくれよ。俺よく分からなくてよ」

「あ、俺も」

「ついでによろしく」


 勇人を含む男三人が群がってきた。目立つと本当碌なことがない、だがここで無視すると今度は悪い意味で目立ってしまう。俺はしぶしぶ4πの答えの出し方を教えた。


「あー! なるほど、こういう考え方か。お前地味に頭良いんだな、今度分からないところあったらお前に聞くわ。ありがとうな。次のテスト頑張ろうぜ」


 ヤバイヤバイ、やってしまった。何がヤバイかと言うと今まで俺がやってきたことを根本から変える必要が出てきたということだ。中学校でテストの成績は貼り出し形式であり、当然上位は目立つ。そうならないために俺はいつも平均点を取ることで皆の視界から外れていた。だが今日の一件で、俺=賢い奴のイメージが着いてしまった。逆に良い点数を取らなければ不審がられてしまうかもしれない。


「やっちまったなー……」


 ボソッと呟くと教室の隅にいる俺の方向に誰かが近づいてきた。何だまた質問か?


「あの~、後塚君。私もさっきの問題教えて欲しいんだけど……」


 花見崎さんではない女の子の声に驚いてグルッと右を向いた。そこには花見崎さんに引けをとらないほどのルックスの持ち主である華宿里唯(はなやどりゆい)さんだった。黒髪ロングの花見崎さんとは違い、地毛で茶髪のショートの華宿里さんは小動物的な可愛さを持つ。クラスどころか学年中で知られている有名人だ。転校してきた花見崎さんと合わせて華花コンビと言われているのを勇人から聞いた。


 そんな学園ヒエラルキーの頂点にいる人が俺みたいな空気的な奴に話しかけるなんて滅多にないことである。普通ならばテンションマックスだろうが生憎俺は恐怖症持ちである。多少花見崎さんで耐性が付いた気がしていたがどうやら微々たるものだったようだ。


「あ、え、えっと……そ、その……」

「ん?」


 初めて花見崎さんと会ったようなときの感じになってしまった。華宿里さんは首を傾げてこちらを伺っている。クリクリの目に吸い込まれそうになる前にちゃんと解説しないと……周りの男どもの舌打ちも気になるし。


「あら、華宿里さん。その問題なら私が教えて差し上げますわよ」

「え、あ、ありがとう花見崎さん」


 ナイス花見崎さん! 俺が上手く喋れないことを心配して助けてくれたのか。これでひとまずゆっくりできる。もっと色々な女の子と喋れるようにならないとな。

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