第3章 オタクと同棲生活の始まり その3
「さて、これから色々忙しくなるけど……まず可憐ちゃんの部屋をどこにしようかしら? ウチ部屋3つしかないのよね。私とパパの部屋で一つ、侯輔の部屋で一つ、愛歌(あいか)ちゃんの部屋で一つだからね」
「愛歌様は確か侯輔様の妹様でいらっしゃいますわよね?」
「まあそうだが、名前までよく知っているな」
「愛の力ですもの」
なるほど、さすが花見崎家の情報力だな。そういえばあいつの姿が見当たらないな。
「お袋、愛歌は?」
「今日は帰りが遅くなるって連絡があったわよ」
バスケ部のキャプテンっていうのも大変なんだな。もうすぐ引退も近いし張り切っているのかもな。
「あ、そうだ。愛歌ちゃんと侯輔が同じ部屋で寝ればいいんじゃない」
「ええーー!? なんで俺と愛歌が?」
「だって愛歌ちゃん人見知りだし可憐ちゃんと同じ部屋は気まずいでしょ。兄妹同士前みたいに一緒に寝ればいいじゃない」
前みたいにって小学生のときの話だろそれ。あのときとは大分違っているんだよ。
「お義母様、私と侯輔様が同室というのはいかがでしょうか?」
俺の身が持たないので止めて頂きたい。
「まあ、それでもいいんだけどね。年頃の可愛い娘の寝顔を目の当たりにした侯輔が理性を抑えられるかって話なのよね。娘に獣を襲わせたくないし、まだ私おばあちゃんになるって感じでもないからね。まあ孫の顔は見てみたいけど間違いが起きそうで怖いのよね」
あれ? 何か俺が襲う側になってない? 獣呼ばわりされてるし。逆に俺が襲われたことはあるんだけどな。
「大丈夫ですわお義母様、むしろ間違いを犯したいくらいですわ。ほら、人は間違えることで強くなっていくと言うじゃないですか。私たちも間違いを繰り返すことで強くなりたいと思っています」
その間違いは一回でもすると取り返しがつかなくなるタイプのやつなんだよな。
「さあ、侯輔様。今すぐ私と間違いを……」
「俺と愛歌が同室になる。これでOKだ」
変なことを言ってしまう前に話を終わらせた。妹と同室の方が百倍マシだ。
「では本日はこれにて失礼致します。お嬢様がこちらにいらっしゃるのはまた後日ということで」
「ちょっと島袋、今日からでいいじゃないですの。何で後日なのです?」
「お召し物もご用意しておりませんし、なにしろ侯輔様はお疲れなのです。相手を思いやることこそ良妻というものですよ」
「そ、それもそうですわね。分かりましたわ、今日のところは失礼します。ではまた後日お邪魔しますわ」
島袋さんの説得により大人しく帰ってくれた。おそらく俺の部屋の中のオタクグッズのことを考慮して今日は引き下がらせてくれたのだろう。流石有能執事、さっきは無能とか思っちゃってごめんなさい。
「というか本当に花見崎さんを居候させるつもりなのか、お袋」
二人の姿が見えなくなるのを確認した後で俺は真意を尋ねた。
「そりゃそうよ。アンタにもようやく春が来たってことじゃない、あんなに良い物件、普通じゃ手に入らないわよ。労せずやってきてくれたのだから素直に喜びなさい」
物件も買い手もワケありなんだよなー。物件はヤンデレ気質だし、買い手は女の子恐怖症だし。こういうとき普通の健全な男の子が羨ましい。お袋も乗り気だし、止められそうにない。
「ただいま」
「お帰りアナタ」
親父が帰ってきた。大学教授という仕事は中々ハードな仕事のようだ。今日は一段と疲れているように見えた。そうだ! 親父に今日のこと言ってみよう。親父の意見ならば多少変わるかもしれない。
「親父! 実は……」
「あなた、今日はめでたい日よ。なんと侯輔の未来の奥さんがこの家に住むことになったのよ。とても良い子だから気に入ると思うわ。あ、ちなみにあの花見崎の令嬢らしいわよ」
「ほう、そうなのか。良かったな、侯輔。以前教授同士のパーティか何かで会ったことがあるが実に気立ての良いお嬢さんだった。お前は幸せ者だな」
俺の頭をナデナデしながらそう言った。ああ、親父もそっち側なのか、てっきり反対してくれるかと思いきや大賛成で、しかも保証までしてしまった。だが俺にはまだ最後の可能性が残っている、それは……
「ただいま」
お、帰ってきた。俺は急いで玄関に向かい、大声でお帰りと叫んだ。
「うっさい、バカ兄貴。近所迷惑、どいて邪魔」
中学三年生のこの妹、後塚愛歌(うしろづかあいか)である。




