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押しかけ女房のお嬢様とオタクの俺は釣り合わない  作者: 海老の尻尾
第1章 オタクと猛アタック
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第1章 オタクと猛アタック その1

「待て待て待て待て! パンツをずらすな!」

「ふふふ、よいではないですか、よいではないですか」


 獲物を狙う獣の目をしているこの美人な人はパンツ一丁の俺を生まれたままの姿にしようと俺の最後の装備を全力で引き剥がそうとしている。

 美人に貞操を奪われそうになること。普通の男なら喜ぶシチュエーションかも知れないが俺にとっては恐怖でしかない。



 俺の名前は後塚侯輔(うしろづかこうすけ)。この春ここ八重葎(やえむぐら)高校に通うことになった一年生だ。俺の特徴を端的に表すとしたら、超の付くオタクであるということだ。アニメ三十本視聴はもちろん、グッズ購入や同人活動も行っている。昔ある女の子からひどくいじめられていたのが原因で女の子に対して恐怖心がある。そのせいでオタク街道を走ることになった。


 ある日の土曜日、何も予定が無かったので少し足を伸ばして都会に向かった。目当てはもちろんグッズ購入である。買いたいものは山ほどあり、俺はそこで5,6時間は悩んだ。そして結局選んだのは、俺の中での今年の冬アニメの覇権である『お兄ちゃんとチョメチョメするのは私』のヒロインの一ヶ島藍(いちがしまらん)が使っていた木刀である。このアニメは暴力系ヒロインである藍ちゃんが気弱な兄を助けるというアニメなのだが作画の出来はもちろん、話の作りこみや声優の演技力などどれをとっても満点のアニメだった。


 俺は店を出るともう夕方になっていることに気づいた。あの場所に行くとあっという間に時間が過ぎてしまうから恐ろしい。

 そんなことを考えていると路地裏から何か聞こえてきた。


「や……い、……ませ!」

「いい……か。あそ……ぜ」


 かすかに聞こえた声を辿って行くと女の子一人がチンピラ三人に囲まれている。


「ですからやめて下さい、こっちに来ないで下さいませ!」

「いいじゃねえか。俺らと遊ぼうぜ」

「こいつ中々可愛い顔してやすぜ、兄貴」

「グへへ、悪いようにはしないからよ。むしろ気持ちよくなれるぜ。ゲヘヘ」


 俺はその光景を見て愕然とした。



 お、おにチョメの第四話だ!!



 おにチョメとはさっきのアニメの略称でその第四話に今の状況と全く同じシーンがあった。しかもチンピラの数、容姿もそっくりである。俺は少し感動していた。

そしてこの続きをしたくなった。アニメは兄を救うので性別は逆になってしまうが俺は藍ちゃんになりきってそいつらの前に出てきた。


「おい、お前ら。私のものに何やってんだ」


 決まったー!! 一度言ってみたかったんだよなこの台詞。ちなみに藍ちゃんは兄を私のものと言う。かっこいい。


「何だお前、良いところなのによ」

「ちっ、見られちまってますよ、兄貴」

「仕方ねえ、ボコボコにするぞ」


 俺の見た展開通りになっていて嬉しい。そして俺は今日購入した木刀を取り出した。


「こいつでミンチにされたくなければ十秒やる。去りな」


 さあ、アニメのように殴りかかって来い! 倒して「ミンチ完了」という台詞を言わしてくれ!


「クソ、武器あるなんてずるいぞ」

「逃げるしかないっすね、兄貴」

「覚えてやがれバーカ」彼らは逃げてしまった。


 ああ、折角決め台詞を言うチャンスが……現実はアニメのように行かないか。


「あの、ありがとうございました」

「ふん、私がアンタを助けるのは当然だろ」


 一番言いたかった台詞を言えた! 藍ちゃんが少し頬を染めながら言うのがたまらないんだよな。いやー、一件落着、良かった良かっ……ん?


 俺は我に返った。

 しまったー! 俺が助けたのはお兄ちゃんじゃなくて女の子だったー!

 ま、まずい。女の子恐怖症の俺にとっては今が一番ピンチだ。彼女は俺を真っ直ぐに清純な目で見ている。ああ、怖い怖い怖い。


「あの、せめてお名前だけでも……」

「う、え、あ、あの、その……う、うわーーーーーーー!」


 俺は全速力で逃げ出した。三次元の女の子マジで怖い。俺はマッハで家に帰った。


 これが俺と彼女の出会いである。俺はこのときある小さなミスを犯していた。あの時地面に目を向けていればこんなことにはならなかっただろう。

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