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魔王アマテラス 対 蛇神の魔道士

作者: 天野優志
掲載日:2018/04/13



「ここも駄目か」


綺麗な区画で作られた田んぼ。しかし、腰の高さくらいに育った稲が倒れかかっている。田んぼには水がなくこのままでは枯れるしかない。


「すべての民を救えるほどの力はないが、ここの民だけを救うなら・・・」


田んぼを調査していると、ひとりの男に声を掛けられる。


「おい、おまえ。何をしているんだ?」

「えっ?田んぼを見ているだけですが」

「なんのためにそんなことをしているんだ?」

「なんとか、この田んぼを救えないかと・・・」


男は腰に剣を差していた。きっとこの村の警備を担当している者だろう。


ここは、日本で言えば四国の徳島県で吉野川流域になる。時代は4世紀ぐらいだろう。もっとも、日本と言っても古代の日本には見えない。

エルフがいて、魔物が現れる・・・ファンタジージパング。


日本の歴史を紐解いてみれば、4世紀というのは「空白の4世紀」と呼ばれている。卑弥呼の邪馬台国が崩壊し、ヤマト王権が力をつけ始めるころ。

それまでの自然を崇拝する原始宗教からアマテラスを頂点とする宗教に変わりつつある。


剣と魔法の世界だとは言え、時代の変化はこのファンタジージパングにも訪れている。


「田んぼを救うだと?もしかして、アマテラス様のご加護持ちか?」

「ご加護はもっているが、アマテラス、ではないな」

「おまえ、邪教徒か?」

「邪教って・・・蛇魔道士って呼んでほしいな」


捕まってしまった。

警備の男が騒ぐとあっと言う間に仲間があつまり、縄でぐるぐる巻きにされた。


「おまえが邪教の男か?貧相な顔をしておるの」


麻の服に身をつつんだ50代の男の前に連れていかれた。

本当の事を言えば、大した腕でない数人の剣士くらい、蛇魔道を使えばどうにでもなる。

いまだって、縄を抜けることだって簡単にできる。


ただ、それではここの民を救うことはできない。

この村の長に協力をしてもらわないと。


「ひとの顔の事より、この村の田んぼのことが重要じゃないか。相当、貧相だったぞ」

「何を言う。日照りが続いているのだから、仕方あるまい」

「あなたはアマテラス様の加護を持っていないのか?」

「もちろん持っている。だから、村の長をしている」


加護というのは、神様から直接に力を与えられること。

アマテラスだったり、蛇神だったり。


「だったら、さっさとアマテラス様にお願いして雨を降らさせよ」

「何を言う!天気を変えるという大仕事、簡単に言うんじゃない」

「要はできないってことか?大がかりな神社があったが、あれはハリボテか?」


神社を建てて、アマテラス様のご加護を得る。

それが村の長になるために必要なこと。


アマテラス様の加護を持ち、人心把握のための儀式を行う。

この時代の政治は、国という大きい規模でも、村という小さい規模でも大した違いはない。


「お前は邪教の魔道士だと聞いた。お前に加護を与えた邪教の神なら雨を降らすことが可能だと申すか?」


そうそう。そうこなくっちゃ。


「もちろん、できますが。それが何か?」

「ふざけるな。お前ごときにできるはず、なかろう。よし、雨乞いの儀式をさせてやる。もし、雨が降らなかったら命はないと思え」


そうなるよね。アマテラスの神様は嫉妬深いからね。自分の配下でない神様の存在を認めたりしない。

元々、この国には八百万の神がいて、それぞれの神を信仰する民がいた。


ところがアマテラス様が現れて「すべての民は私のことだけ信仰するよう」にお告げがあった。

と、日の本の国のお偉いさんが言い始めた。同時に田んぼの稲作を推奨し、鉄で作られた農具と武器を供給しはじめた。


たしかに国は栄え、多くの国は「日の本」を名乗る国に併合されていって。


要は、人の形をした神様が現れて、人のために役立つものを与えてくださった。


自然の神様が、人の神様に負けて、時代が変わりだす。

人が人を支配し、アマテラス神を頂点とする人のピラミッドができつつある。


そんな時代に、蛇神の加護を受けている俺の様な男は、邪教の民でしかなかった。

蛇神をはじめ多くの自然神にとっては、アマテラスこそ、邪教。人を惑わす魔王に過ぎない。


「雨乞いには、いくつか準備がいて・・・」

「ほう。雨乞いができない言い訳か?でっかい雨乞いの塔がいるというんだろう?作れもしない塔が。それとも若い女の生贄か?」

「そんなもの必要ない。パワーが強い池と鶏の卵を8つ。あと、スダチの実が4つ」

「なんだ、そのパワーが強い池というのは?」

「雨が降らなくても枯れない不思議な池だ。この近くにあるか?」

「・・・・・ひとつだけある」


枯れない池というのは、底に泉があって地下水脈につながっている。その地下水脈こそ、蛇神につながる魔道だ。

そういう池を蛇池と呼ぶ。


蛇池で卵とスダチを奉納する。それによって蛇魔道のアメフル魔法は完成する。


「ここが枯れずの池だ」

「確かに蛇神のパワーを感じる。これなら、雨を降らす魔法を行うことができるよ」

「本当か?」


半信半疑の村の長。

このままいけば、稲は枯れ、稲だけに頼って生きているこの村の民は流民になるしかない。

村が崩壊する一歩手前にいる。


邪教とは言え、背に腹は代えられない。

可能性が少しでもあるなら、すがりたいと思うのは本心だろう。


雨乞いの儀式が行われることになった。

総勢500人の民が集まってくる。


村には集落が全部で8つあり、そこに住むすべての民が雨乞いの儀式のために集う。


「さすがにこれで雨が降らなかったら、やばいな。よろしくな、蛇神さんよ」


蛇神さんは気まぐれだからなぁ。

だけど、蛇池があって、大好物の卵とスダチがあれば大丈夫だよね。

その上、500人ものギャラリーがいるし。

蛇神さんは目立ちたがり屋なんだ。最近、目立てるシチュエーションが減って欲求不満だろうし。笑


儀式のために、大きな平たい岩を蛇池のほとりに用意してもらう。

村の長の家の横にあった青石の岩。

力自慢の男4人でやっと運べる重さ。


神様をお迎えする磐座だ。雨乞いイベントのステージだ。

なくてもなんとかなりそうだけど、蛇神さん喜びそうだし。


磐座の四隅に棒を立て、麻で作った紐を正方形になるように張る。


「よし、できた」


これが本当の神社だ。神の依り代だ。

アマテラスを祀る神社が小さな村にまであるこの時代。古来の依り代を用意することなど、ほとんどなくなっている。


「そけでは、雨乞いの儀式を始めます」


集まった村民は、すこし距離をおいて儀式を見守る。


本当のことを言うと、俺だけで蛇神様を呼び出すのは荷が重い。

霊感能力に長けた蛇巫女さんがいるといいんだけど・・・。


いないものは仕方ない。


先祖代々伝えられてきた太古の知識が詰まった祝詞をあげる。


「掛巻も恐きイザナギの大神、筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原にぃ~♪」


不思議な風が吹いてきて、張った縄を揺らす。


きたきた。蛇神さん、ですね。

よびかけてみた。


「おうっ」

ちゃんと頭の中で声がする。やったぁ~。


祝詞をあげながら、蛇神さんと会話する。


「ちょっと雨、降らしてほしいんだけど」

「最近さ。パワー不足で。だいたい寝起きだし」

「そう思って、スダチと卵を用意しました」

「おっ、気が利くな」


磐座に供えた、卵とスダチがふっと消える。

村民に、ざわざわとした雰囲気が起きる。


「どうですか?」

「いやぁ、久しぶりのスダチと卵は効くねぇ。パワーが漲ってきたぞ」

「それはよかった。ここはひとつ、雨をざざーーっと」

「よし。我を奉る民を増やすためにも、いっちょやってやるか」

「お願いします」


快晴で陽が照り付けていたのが、一変して雲が集まってくる。

風が吹き、気温が一気に下がり、湿った空気がまとわりつく。


「あ、降ってきた?」


ぽつんと、雨粒が村民の頬を濡らす。


「雨だ!雨だぁーーーー」


蛇神さん、ありがとう。


ぴかっ、ゴロゴロ。


うわっ、雷まで・・・神鳴りっていうだけあって、蛇神さんの得意技だね。

だけど、これだと・・・うわっ、きたっ。


「大雨だぁ~」


いきなり集中豪雨っていうのは、どうかと思う。

おかげで、俺もびしょぬれじゃないか。


村民たちはというと。

久々の雨でびしょぬれになりながらも、嬉しそうに踊っている。

うん。いいよね。雨を喜ぶ農民って。


「このくらいでいいか」

「もう、十分です。あんまりやりすぎないようにしてくださいね」

「そうか?もっとジャンジャン降らそうかと思ったけど」

「あ、これ以上強くなると田んぼが流されてしまうんで。そこそこでお願いします」

「そうかぁ?・・・まぁ、村民も喜んでいるし、いいかぁ」


その日の雨は夜まで続いた。田んぼは水で満ち、稲は活き活きした姿に変わった。


その日の夜。

村の長の家で、お礼として用意してもらった夕餉をいただいている。


「ありがとうございました」

「いえいえ。雨を降らしたのは蛇神さんで、私ではありません」

「ただ・・・蛇神様の話は、どうか内密に」

「えっ、なんで?」

「じつは・・・あっ」


村の長と話していると、いきなり大きな剣を構えた男3人が入ってくる。


「おまえか、妖しい術で雨を降らした邪教の魔道士は?」

「邪教ではなく、蛇神です」

「語るに落ちたな」


いきなり、大剣を振り回してくる。


「うわっ、危ないじゃないですか?」

「剣の錆びにしてくれる」


話が通じなさそう、この人たち。

とにかく今は逃げるの一手。


さっき雨に喜んで踊っていた村民のうち何人かは、大剣を持った男の指示で俺のことを捕まえようとしてくる。


「闇隠」


呪文をさっと唱える。この呪文は、闇に隠れて存在感を消す効果がある。


「どこだ。あっちかっ」


逆の方に走っていく追手たち。

さて、どうしよう。


「おにいちゃん、こっち」


気が付くと小さな女の子を手を引いている。

歳でいうと9歳くらいか。


「ん?君は?」

「話はあとね」


女の子に導かれて、村の奥にある洞窟に連れてこられる。


「ここはね。私たちの秘密の場所なの」


あ、秘密基地ね。俺も子供の頃、段ボールで作ったっけ。


「今は、ここで静かにしていてね。朝になったら、私と一緒に来て」


女の子をじっと見る。

どうして、この子は闇隠をしていた俺に気づいたんだろう。


「君は、どこの子?」

「あたしは、山を越えた谷に住んでいる村民なの。今は出稼ぎでこっちにいて」

「ふーん。そこはいい所?」

「すっごくいい所よ。棚田があって、とっても水がおいしいとこ。今ならスダチもいっぱい実っているはず」


あ。谷の民か。あっちはまだ行ったことなかった。

もしかしたら、あそこの方が古い神様を信仰している人たちがいるかも。


「谷は雨、降っているの?」

「それがあんまり降っていないみたい。だから、お願い一緒に来て」


そんなお願いする姿が不思議な雰囲気を醸し出している。

もしかして。


《鑑定!》


その鑑定スキルこそ、本当の神かどうかを審判する審神者さにわの一番の力。

神だけでなく物も人も鑑定できる。


神職/陽の巫女(潜在)


おおー、やっぱり巫女気質をもっている。それも太陽神の巫女。


倭の国を統一した邪馬台国の卑弥呼。


本当は、卑弥呼は名前ではなく神職の役名。


太陽神アマテルに仕えるし、巫女。

それが陽の巫女。


邪馬台国にいた陽の巫女が、戦いに明け暮れる男王たちをまとめ、平和な3世紀を作った。

しかし、卑弥呼が亡くなり、人が人を支配する魔の世紀が始まった。

それを破ることができる存在が、陽の巫女。


「やっとみつけた」


陽の巫女のこの少女、と、審神者の俺。

ふたりが揃うことで、魔王アマテラスに対抗できる。


新な時代への果てしない旅が今、始まった。


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