第三章 ①
二人の間に流れているのは微妙に剣呑な空気。ペアということで授業は隣り合って座っていても所詮は個人個人で訊くもの。仲の良さは関係ないけれど、今回はそういうわけにもいかない。ルーミックにとって待ち望んでいた実技訓練はペアごとに分かれて上級生を相手に行われるのだから。
しかし、こんな状態でまともに連携を取れるのか、なんて不安は存在しない。そもそも手を取り合う意向など持ち合わせていないのだ。二人とも自分一人ででも相手を倒すつもりでこの訓練に臨んでいたのだが……
「私たちのお相手はまだいらっしゃらないのですか?」
セフィアに連れてこられた訓練室には自分たち以外誰もいなかった。
前回ルーミックが先輩の男に連れてこられたのとは別の場所にあるのだが、中身はほとんど瓜二つ。キョロキョロと入口から外を覗くエイリス。他の組は顔合わせも終わって、訓練が始まっている頃だろう。
「もう来てますよ」
「どこにです?」
改めて室内を確認してみるが、やはり誰もいない。気配を消しているでもなく、もしかすると姿を消すタイプの魔装なのだろうか……。
首を捻る二人に微笑みかけて、セフィアが指をさしたのは彼女自身だった。
「わたしです」
「えっ?」
「あなたたち二人をまとめて相手に出来る人は上級生と言えどそうはいないので、わたしがやることになりました」
「先生が、ですか……?」
呟くエイリスの声には聞き間違いを疑うような響きがある。ルーミックとしても並の上級生に負ける気はさらさらないが、かといってセフィアが相手と言われても、だ。
このゆるふわオーラ全開の担任は、正直な話さほど腕が立つようには見えない。
「あれあれ、舐められちゃってます? こう見えて私、結構強いんですよ?」
むんっ、と両手でグーを作ってみせる姿も、癒し系のそれにしか。
ルーミックとエイリスは互いに困った風に顔を見合わせる。
「全然信じてもらえませんね。こうなったら仕方ありません。実力行使です。さぁ二人とも、構えて」
向かい合う二人と一人。
「では、スタート!」
その声が始まりの合図。
「行くぞ、《焔》」
「水面に突き立て、《蒼穹の涙》(アトラスティア)」
具現化された一本の槍は、エイリスの髪と瞳を反映する金と蒼の彩り。……いや、それは槍と言うよりなぎなたに近い。彼女の身の丈を優に上回る長さの魔装。その先端は大きな刃になっている。
張り詰める緊張は学生の側にだけ。教師は笑みを湛えたまま両手を大きく広げてみせる。
「いつでもどうぞ」
ルーミックとエイリス、二人の駆け出しはほぼ同時に。セフィアを左右から挟みこんで。
――そっちがその気なら、余裕をなくならせてやるだけだ!
一方は斬り、一方は突く。迫りくる刃にも一歩も動くことはなく。
「――踊りなさい、《奏者の手》(パペットハンズ)」
「!!」
それぞれの武器に掛かる衝撃。攻撃を受け止めた得体の知れない力に対して両者のとった行動は対照的で。
それを視認した途端に距離を広げたエイリスと、さらに剣を振りかぶったルーミック。
剣速は上々。なのに、ルーミックの太刀筋は全て見切られた上で止められている。