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恵の神ですが、違うと言いました!  作者: 三月べに


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02 お酒と歌。




 私は大人だから、許してやった。

 アーテルの背中に、飛び蹴りを決めて許す。

 アーテルはかなりの重傷のようだ。背中を押さえながら、隊長達がいるという酒場に連れて行かれた。

 そして重傷のアーテルから、雲から落ちてきたと説明をしてくれる。


「……わかった。だが、なんでお前が重傷そうなんだ」

「これは名誉の負傷ってやつよ!」


 言い切りやがったアーテルに、もう一度飛び蹴りでも食らわそうかと思った。反省の色なし。むしろ、わかっていてやったに違いない。


「わかった、どうでもいい」


 至極どうでも良さそうに、隊長さんは頷いた。


「オレはディクス・スパーク。この傭兵の隊長を務めている者だ。事情はわかった。とりあえず、うちの隊で保護しよう。帰れるかどうかはそのあとわかるはずだ」

「はい。ありがとうございます。ケイと申します」


 隊長は栗色の髪の毛とブラウンの瞳をした筋肉モリモリの男の人だった。一緒に三人ほどの連れもいる。全員で六人ほどの部隊みたいだ。

 帰る気は、毛頭ないのだけれどね。異世界をエンジョイしたいのだもの。


「とはいえ、オレ達は任務遂行中。かと言え、置いていくわけにはいかない……ついてくるか?」

「えーと……ついていってもいいのならば」

「この先の深い森でユニコーンの角を採りに行くだけだが……はぐれないなら大丈夫だろう」

「あ、危険な場所なんですか……はぐれないようにします」


 私はコクリと頷いて見せる。

 置いていかれるのも心許ない。怒りはしたが、アーテルはなんだかんだで優しいし、レウスも助けてはくれた。もう少し、助けてほしい。

 それにユニコーンを見てみたい。そんな森も。


「よし、そうしよう」

「オレはグエン」

「オレはクーパー」

「……アーノルド」


 隊長の後ろにいた三人が名乗った。覚えておこう。


「さぁ、お酒を飲みましょう! ケイ!」

「あ、私ビールは無理です……えっと、チェリー酒はありますか? じゃあそれで!」


 可愛い制服のウエイトレスさんに頼んで、私だけチェリー酒を持ってきてもらった。


「では、とりあえずケイ。この世界へ、ようこそ!」

「ようこそ! ケイ!」

「ようこそ!」

「ありがとう!」


 お酒の入ったコップをコツンとぶつけ合わせて、乾杯をする。歓迎されていることが嬉しい。イエイとコップを掲げた。

 マイルドな味のチェリー酒だ。美味しい。

 元いた世界について尋ねられたので、それに答えた。

 どんな世界なのかを話す。ガラス張りの高い建物が並んでいたりすることや、空飛ぶ乗り物があったり、馬より早い乗り物がある。魔法はないし、異世界なんてフィクションだと思われていることまで話した。

 この世界の名前は、ギルウス。そして国はフラーウ。

 魔法はあるけれど、素質があるかは別の話だという。ちなみに、傭兵さん達は多少なり使えるらしい。戦闘用の魔法だから、見せられないそうだ。残念。

 私は使えるだろうか。女神なんだから、使えるはず。使えなきゃ、意味ない。神並みの魔法の使い手になって、自立するんだ。フフン。

 異世界転移は、異なる世界で元の世界の知識を利用して発展するものだけれど、必ずしもそんな知識があるとは限らない。悲しいかな。取り柄がない。


「それで、【恵の神】が現れる時って、手違いがあるものなの?」

「さぁ。でも実際ケイが落ちてきたじゃない」

「そうねー」


 うん。手違いがあったことにしよう。

 アーテルは、私のチェリー酒を頼んでくれた。


「おい、ケイ。歌ってくれよ、一曲。あっちの世界の歌を」

「ええ?」


 その酒場には、こじんまりとしたステージがあった。

 グエンが私に歌うように背中を押すものだから、椅子から立ってしまう。


「でも皆知らない曲ですよ?」

「だからいいんじゃないか!」

「歌えー!」

「うーたえー!」

「嫌です」


 私は笑って首を横に振る。でも他の客も聞き付けると、「歌え!」コールをした。酔っている。私もちょっぴり酔いが回っていて、なんでも出来ちゃう気分。

 奇跡が起きたんだ。笑ってやろう。


「よし、歌います!」

「イエーイ!」

「いいぞ、歌え!」


 店員さんにマイクを渡されて、ステージに立つ。マイクなんてあるのか。どういう仕組みだろうか。魔法かな。


「知らない曲だと思いますが……歌っちゃいます!」


 店内に、私の声が響く。お酒を飲んでいる客達が注目して、ノリノリでコップを上げた。

 私が選んだ曲は、お気に入りのアーティストのテンポのいい曲。ヒーローになるための歌。もちろん、アカペラ。

 お世辞で上手いと言えるレベルの歌唱力だけれど、酔った客達は気にしない。熱唱する私を見て、楽しんでいる。私もせっかくだから楽しんだ。


「イエイ! トゥルトゥトゥトゥトゥル!」


 間奏もアカペラで補って、最後まで歌い切った。

 拍手が巻き起こる。うん、気持ちいい。


「もっと歌え! お嬢ちゃん!」

「歌え! 歌え!」


 また「歌え」コールが起きる。ええ、照れる。お嬢ちゃんなんて。

 だめだめ、と首を振ってステージから下りようとした。すると、アーテルがチェリー酒を渡しに来たので飲んだ。そうすれば、もう一曲歌いたい気持ちになってしまった。


「もう一曲だけ! 歌います!」

「やれやれー! お嬢ちゃん!」


 もう一曲、ノリのいい曲を歌う。

 隣でアーテルは、ノリノリで身体を揺らした。

 そんなアーテルに、コップとマイクを交換してバトンタッチ。席に戻って、チェリー酒を飲んだ。


「レウスも飲んでる?」

「飲んでるぜ」


 席はレウスの隣になった。レウスは、にんやりと笑って見せる。彼も気持ちよく酔っているらしい。

 アーテルが熱唱している間、レウスにあのマンモスについて尋ねた。あれはマンモスではなくて、魔物だという。

 魔物。それは動物とは違う、獣。別称は魔獣。

 魔法は使わないけれど、瘴気を纏う生き物らしい。食べられないし、ペットにも出来ない。獰猛な獣だという。

 唯一良い点は、牙や爪などがお金に課金できること。退治した証明。

 ユニコーンの角も、ギルドに依頼がきたのだという。

 ギルド東支部の直属の傭兵だそうだ。ということはここは、フラーウの国の東に位置する最果てなのだろう。

 膝には、あのドラゴンが引っ付いたままだった。


 翌朝。目を覚ませば、レウスと同じベッドに眠っていた。

 当然のように、私は悲鳴を上げそうになって、そのままベッドから落ちる。


「んだよ、るせーなぁ……」

「レウス、な、なんでっ?」

「なんでって……」


 うんざりした様子で起き上がったレウスは、乱れた髪を整えた。上半身は裸なものだから、必死で私は動揺を抑え込んだ。



「お前が引っ付いて離れないから、そのまま寝たんだろうが」

「ね、寝た!?」

「……あー、勘違いするなよ。別に酔ったお前に手を出したわけじゃねーから」


 至極面倒くさそうにレウスが答えた。

 私の操は無事だということを聞き、胸を撫で下ろす。


「酔ってオレに引っ付いて、アーテルを蹴ってたんだろうが。覚えてねーのかよ」

「……うっすら覚えてる」


 アーテルを警戒して、私はレウスを盾にしたのだった。うん。うっすらとしか、覚えていない。


「それにそのドラゴンが目を光らせて、手を出すなって牽制するから」


 レウスが指差すのは、部屋の隅のドラゴンだった。今はすやすやと眠っていて、牽制していたなんて見えない。手を伸ばして、頭を撫でてみた。すぴーと息をつく。可愛い。


「お前、ずいぶんそのドラゴンに懐かれたな」

「うん、そうみたい」


 そこでノックする音が聞こえてきた。

 ドアを開けたのは、アーテルだ。ドアの後ろにいる私を見付けると、残念そうな表情になった。


「コルセットすら脱いでないじゃない……ケイはいい身体してるのに」

「ドラゴンが手を出すなって」

「残念……せめて裸を見たかった」

「アーテル。また飛び蹴りされたいの?」


 レウスを会話をしたアーテルは、私が睨めば謝罪を口にする。

 自分には関係ないとばかりに、レウスは欠伸を漏らすと服を着た。


「街を出るわよ。ユニコーンの角を採って帰りましょう」

「深い森に行くのね!」


 私は喜んで立ち上がる。冒険だ。


「深い森ってどんな森?」

「その前に、ケイはシャワー浴びなさい」

「はーい」


 レウスの部屋のシャワーを借りて、一浴びした。

 またアーテルが用意してくれた服を着たけれど、もちろん手伝いは遠慮してもらう。自分でも出来る。今日はダークブラウンのコルセットとブーツ。浴室から出れば、アーテルは納得いかないといった顔で見てきた。無視である。


「それで? 深い森ってどんなところ?」

「実際に見ればいいじゃん」


 レウスがそう答えた。

 朝早く、ディクス隊長一行は出発する。私とドラゴンも一緒。ディクス隊長の馬に乗せてもらって、皆で駆けた。

 大体一時間ごとに休憩。お尻が痛いので、助かった。

 三回の休憩をして、深い森に到着。

 鬱蒼とした森は、奥が見えないくらい暗かった。ところどころに陽射しが溢れているけれど、深い森という名がぴったりだ。木々は太くて高い。三メートルはある。

 ディクス隊長達は降りた馬を、その木に縛り付けた。ここからは、歩きらしい。


「ここでユニコーンの角を採るんですね」

「ああ。日暮れまでに見付け出す。ここで待ってていても構わないが」

「あ、お手伝いします」

「そうか。ありがとう」


 ディクス隊長に危うく馬達とお留守番させられそうになったけれど、なんとかユニコーンに会いに行くことに決定させた。それに歩きたい。お尻痛い。


「はぐれないようにな」

「はい、ディクス隊長」


 敬礼して見せれば、ディクス隊長は笑う。同じく敬礼したから、この世界でも敬礼は通じるみたいだ。

 ユニコーンが楽しみ。どんな素敵な光景に違いない。深い森の木漏れ日の中にいるユニコーン。見てみたいものだ。


「ユニコーンの角って落ちているものなの?」

「ぶぁーか。狩るんだよ」


 歩きながら尋ねてみれば、答えたのはレウスだった。


「狩る? ユニコーンを傷付けるの?」

「仕方ないのよ。ユニコーンもはいそうですかって渡してくれないもの」

「お願いしないの?」

「お願いってなんだよ! ぷはは! 子どもかよお前」


 アーテルに尋ねたのに、お腹を抱えてレウスが笑う。

 この世界でも、子どもはユニコーンにお願いするのか。

 

「ちっちぇもんな」

「蹴ってやろうか」

「レウスだけはやめなさい」

「?」


 レウスにも飛び蹴りをお見舞いしてやろうと思ったけれど、アーテルに頭を押さえ付けられて止められた。何故アーテルは良くて、レウスはだめなんだ。疑問になっていたけれど、グエンに先を進むように背中を押された。


「でもユニコーンを傷付けるのは、本当に気が引ける……殺さないよね?」

「さすがにそんなことまではしねーよ」

「欲しいのは角だけだもの」


 ユニコーンとはあれだろう。額の中心に角が一つある馬。ファンシーなイメージもあるけれども、結構獰猛な生き物だったりする。その角は蛇などの毒を清める力があるから、得る目的はそれかも。あれ、水を浄化するのだったっけ。


「この世界のユニコーンも馬みたい?」

「ああ、白い馬みたいな生き物だぜ。角が一本生えているから、それをいただく」


 ニッとレウスは白い歯を見せて笑った。


「角の使い道は?」

「薬になるのよ。どんな病も治すの」

「ほーうほう」


 毒だけではなく、病を治す薬になるのか。万能薬があるなんて、いい世界じゃない。あ、でもユニコーンを傷付けるのは良くないな。神聖なイメージがあるから、よろしくない。


「そのユニコーンは、獰猛なんでしょ?」

「そうよ、でもケイには怪我させないわ」


 獰猛なのか。守ってくれることは信じよう。


「シッ!」


 先頭を進むディクス隊長が、静かにするように伝えた。


「魔物だっ!!」


 ディクス隊長が叫ぶとほぼ同時に、黒い色の犬のような魔物が飛び出す。サイズは大型犬より大きい。それが襲い掛かってくる様は恐ろしいものだった。マンモスに突進されるのと匹敵する。


「ケイを守れ! レウス!」

「なんでオレが……たっく! 風よ(ヴェンド)!!」


 一番近くにいたレウスが、隊長命令で私を守ることになった。レウスが唱えると、風の塊が飛んで魔物を一匹引き裂いてぶっ飛ばす。そう見えた。

 魔法だ。風の魔法に違いない。


「今のすごい!」

「感心してる場合じゃねーし。ほら逃げるぞ!」


 私の腕を掴んで、レウスは走り出した。

 他の皆の走り出す姿を見る。木々を避けながら、道の右を進んだ。


「ガウガウ!」


 獰猛な吠える声が、また怖い。

 レウスは一度立ち止まると、飛びかかった魔物を両断した。

 それから私の手を掴んで、再び走る。追い付かれないように、走って走って走った。

 そうして気が付けば、私とレウスはディクス隊長達と完全にはぐれてしまっていた。

 


20170903

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