チートが無い! 鬼難易度の異世界に転生した俺
数々の短編2
『やった! ついに異世界にやってきたんだ』
部屋で寝ていたはずが……目覚めると見知らぬ土地に来ていた。これは待ちに待った異世界転生だ!
俺は、ろくな事がない現実世界に見切りをつけ、異世界転生を夢見ていた。こんな時のために異世界物を読み込んでいたのさ。どんな異世界でも大歓迎だ! この体験を元に出版すれば現実世界に戻っても勝ち組だな。
しかし、俺を召喚した美少女召喚士はどこだ? おきまりの転生トラックにもはねられてないぞ? そうか【いきなり異世界だった】の導入だな。最近の異世界物に多いよね。面倒な導入は省略でOKだよな。
まずブラブラ歩いて異世界をチェックするか。……どうやら定番の中世ファンタジーとは違い、かなり文明が進んでいるようだ。近未来物かな? ファンタジーは飽和気味だし新鮮な世界もありだな。
この文明度だと、チートその1【現代世界の知識】が使えないかも? まあ、俺は元々、役に立ちそうな知識が無いから問題ないだろう。ネットで検索しないと何もわからない自信がある。
あ! 持ち物が何もない! 財布も携帯もない!
チートその2【現代からの持込アイテム】が使えない。だが、携帯は、どうせ異世界では電波届かないから問題ないか。財布も、どうせ通貨が違うのだから問題ないな。お札出して、なんだコレと言われるのが落ちだろ。つまり何も問題ないって事だな。
さて、これからどうするべきか? なんやかんやイベントが起きるまで待つか? さっきから通り掛かる異世界住民に、変な目で見られているのだが……。やはり転生者が珍しいのか? 俺以外の転生者が少ないのは良いことだ。
イベント発生! ごついオッサンに話しかけられたぞ。見た感じではドワーフ?
え? 面倒見るように頼まれていた? ついて来いだって?
ああ、【人違いイベント】だ。この異世界には、俺そっくりな人がいるようだ。いつか出会う俺のドッペルゲンガー。戦うことになるのか?
大人しくドワーフ達の住処まで付いてきたが、ここで何をすればいいんだ?
何? 普通の肉体労働だと! まあ、転生者の職業は、定番だった勇者や魔法使い等は少なくなって、料理人だのの一般職が流行ってるからな。この体験を元に「異世界で肉体労働してみた」を出版すれば売れるかも。
仕事がきつい! 異世界も楽じゃないよ……。チートその3【最初から強い】は嘘で、こうやって修行があるのね……。俺TUEEEEの転生者達も、陰でこんな苦労があったのか……。先人達は、筋肉痛なんて弱音は見せなかったんだな。ちょっと帰りたくなってきた……。
だけど、異世界のご飯がうまい! 見た目は現実世界と同じなのに、すごく美味しい!
ひょっとして例の料理人転生者が作ってるのか? 牛丼そっくりな料理を作り上げてるぞ。材料に秘密があるのかもしれない。ミノタウロス肉か?
ドワーフ達は厳しいけど、実はやさしい。何かと気にかけてくれる。
しかし、チートその4【もてもてハーレム】はどうなった? 周りはごついドワーフだらけ……もしかしてBL物? ドワーフと!? 俺にそんな趣味はないのだが……。
唯一の女性が事務の女の子、可愛いけど冷たい。ツンデレヒロインは定番すぎるが、ツンが100にデレが0は斬新かもしれない。
ようやく休みだ。異世界を探検してみよう。どこに行っても、初めての経験で楽しい! さすが異世界!現実世界では引きこもっていたから比較が出来ないけどね。
おや、あの子がチンピラに絡まれている。異世界お約束のイベント【絡まれているヒロインを助ける】だ!
おらチンピラ共! その子を離すんだ! これで好感度アップ間違いなし!
チンピラが刃物を出したぞ。これもパターンだな。
あれ……刺されてしまった……これもパターン……
――「息子が刺されたと聞いて、慌てて病院に駆け込んだんです」
「幸い軽傷で、刺されたショックで気絶しただけだったの。」
「あの息子が立派に働いて、人助けまでして……本当、一人前になって……」
「看病してくれていた女性がすごくいい子でね」
「息子といい感じなのよ! こりゃ孫を見るのが楽しみだわ」
「ええ、思い切って放り出した甲斐がありましたよ」
「でも、ショックで錯乱していたのか、おかしな事を言うんです」
『母ちゃん! いつ転生してきたの!?』