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異世界へ

時系列ちょっと戻って。異世界に突入する話から始めましょう。

「すみませんプッチンさん、そっちに何匹かうち漏らしが!」

「了解です」


プライムドラゴンの放った「意志を持つ炎球」のいくらかが、前で戦う梅さんの頭上を通り越してこちらへ来る。


まあ前線は梅さん一人で維持してるわけだから、そりゃ当然うち漏らしも出てくるだろう。


「『拘束のための重力場』」


黒いエフェクトが炎球を包む。同時、炎球は下方へと引きずり落とされた。


「あとは頼んだよ、『骨王』」

「ガァアア!!!」


召喚石から飛び出した、巨大な骸骨が炎球を大きな斧ですりつぶすようにしてかき消した。


同時に経験値が入るエフェクトが見える。


即座に「骨王」を召喚石にしまい込む。これが出ているだけでも、サーバーにはだいぶ負担がかかる。


前方で戦わせている「牛王」は、うまいこと梅さんと連携をとれているだろうか。


まあ、さすがに「統率」の効果範疇である「牛王」なら、そこまで迷惑かけることもないと思うけど。


「プッチンさーん!!ミノちゃんのHPがやばいですー!」

「あー、やっぱ持ちませんかね!ちょっと一発でかいの打たせて、あとはこっちで処理しましょう!」

「了解です!」


いうが早いか、梅さんはミノちゃん……「牛王」にダメージカットのバフを付ける。


こちらも負けじと「加速する惨劇」、いわゆる瞬間的な攻撃バフを牛王に乗せ、さらに召喚術のウィンドウから牛王の必殺技を選択。


プライムドラゴンが必殺技の体勢に入ったのがわかる。相打ちになるな、と思った。


「放て、『牛王の傲り』」


プライムドラゴンが火柱を吐く。その火柱のど真ん中を打ち抜くようにして、牛王は手に持った大剣を振り下ろした。


火柱が割れ、プライムドラゴンの額が真っ二つに割れる。


瞬間、画面がカクカクと重くなり、二秒ほど時間がたったあとで、ダメージが表示された。


召喚術師にのみ許された、オーバーリミットダメージ。


まあ、この世界でこれを見れるのは、俺と梅さんの二人くらいのものだろうけど。


画面のエフェクトが落ち着いたところに、牛王の姿はなかった。


やはり予想通り、相打ちか。まあ、召喚獣は死んでもまた召喚すればいいだけだから、そこまで痛くはない。


召喚媒体も多めに持ってるしね。


「お疲れさま、梅さん」

「お疲れ様です!やっぱり頼りになります、プッチンさんは!」

「いえいえ。梅さんが壁張ってくれるからですよ」

「そういっていただけるとありがたいです!」


梅さんは、一応アバターは女性キャラ。まあたぶん男だろうけども。


会話の最後に必ずと言ってもいいほど感嘆符を付ける人。まあ、元気さをアピールしてるんだろう。


職業は、いわゆるナイト系の上位、ホーリーナイト。


ダメージカットやHP強化など、ボスと戦うには必須の職業を窮めている。


梅さんとはこうしてしょっちゅう二人で狩りに出ていたりもする。


まあ、二人であることの理由はほかにもあるんだけど……。


「そういえば、今回は落ちませんでしたね」

「ですね!運が良かったというか、やっぱり二人だと安定してるんですかね!」

「二人でしかほぼ落ちないことはない、っていうのもどうなんだとは思いますけどね!!」

「出ましたね、プッチンさんお得意の運営批判!」


召喚術師は、確かに強い。それぞれの召喚獣を手に入れるにはかなりの苦労を要するが、手に入れられたときのメリットは大きい。


先ほども言ったように、本来なら設定されているはずのリミットダメージを超えてダメージを叩き込めるのが、召喚獣の最大の強み。


さらに、ほかの職業とは違い、戦うメインは召喚獣。


つまりそれだけHPが多い状態で戦っているといっても過言ではないのだ。


現に「牛王」のHPはすでに俺を上回っている。


まあ、これは俺が魔術師系の職業だからHPが低いっていうのも関係してる話だが。


それでもメイジ系やヒーラー系と比較すれば、召喚獣まで含めた総合的なHP量はけた違いになる。


そしてなんといっても、とれる戦略の広さ。


敵キャラほぼすべてを召喚獣として使役できるこの職業系は、それだけ戦略の幅が広い。


一度に複数の召喚獣を召喚できることからも、正直言えば一人でどんな敵とも戦っていけるレベルのポテンシャルは秘めている職業なのだ。


が。


「では、リクエストに応えまして」

「おぉ!」

「召喚獣一匹にかかるエフェクトが重すぎて、せっかく召喚数上がってもほぼ常時一匹状態!!」


「おまけに二人以上で敵と戦うと、自分以外の人が出すエフェクトと召喚獣が出すエフェクトが合わさって落ちる落ちる!!」


「おかげで今じゃ、どんなパーティに行ってもハブられる、不遇中の不遇職ですよこちとら!!!」


「よっ、今日もプッチン節が効いてますね!!」

「ありがとうございます!!!」


とまあ。


そんな裏事情ならぬサーバー事情のおかげで、今やこの不遇職を窮めている人間は、ほぼ俺一人となっている。


せっかく強くなれる職業なのに、まさかのサーバーサイドの事情から使えないという。


なんとも本末転倒な、お粗末不遇職となってしまっているわけだ。





「あ、そうだ。出ました?『高貴なる竜の心臓』は」

「はい!ありがとうございますー!やっぱりプッチンさんとやると、いい流れ来ますね!」

「そうですか。よかったです」


一応今回の目的でもあったレアドロップが出てくれたようで何より。


俺も久しぶりに好き放題狩れたし、いいハンティングだったかな。


「んじゃ、ちょっと一回飯落ちしますね」

「そうですか!ありがとうございました、またよろしくお願いしますね!」

「はーい」


さすがに朝起きてから昼すぎの今まで、何も食わずに狩り続けていたので、腹が減ってきた。


そろそろギルドメンバーのみんなもインするころだろう。今日もみんなでクエストをこなす予定だ。


だから、その前に一度飯を食って、英気を……と思っていたのだが。


「あれ、ログアウトボタン、なくなってますねこれ」

「え?あ、本当ですね!サーバーの更新ですかね?」

「いや、でもログアウトできないってのはありえなくないですか?」

「確かに!」


このまま放置して飯を食いにいってもいいのだが、と思っていると、赤く禍々しいポータルがいつの間にかできていることに気づく。


「え、なにこれ」

「あれ。えっと、梅さんこんなポータル見たことあります?」

「ない」


あの梅さんが感嘆符を忘れるほどの事態。確かに、ちょっと怖いくらいの禍々しさがあるな。


「あの、運営に報告」

「そうですね。まあきっと何かのバグでしょう。大丈夫だと思いますよ」

「だといいですけど……」


一応スクリーンショットをとっておこうと、キーを押した瞬間。





画面から、強い光が。


まるで手が伸びてくるような感覚に襲われて、俺は意識を失った。

プロローグの続きは次話で。

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