森を越えて~最後の山小屋:1
「それで、この鷲獅子どうするんですんか?」
倒された鷲獅子は、脳しんとうを起こしているようで、起き上がることができない。
両方の羽根の根元を罠でつなぎ前足も縛り上げておく。こうすると前に体重がかかり鷲獅子は起き上がれなくなる。
「巣の様子を見て判断。だな。人間を探していたということは、カルロも生きている可能性がある」
「日が沈むまでに探しましょう。巣の場所はおそらくあっちよ!」
昼食を取った時に、フィオナは巣の場所の中りはつけていた。
開けた場所で高い針葉樹がある。そういう場所に鷲獅子は巣を作る。
疲れはあったが、そこまでの距離でもないので歩いて行く。
開けた場所に着いた時、三人が見たものは力なく横たわる、雌の鷲獅子の死骸であった。
それは背中から真っ二つにされて地面に打ち捨てられていた。
「雌がやられたから雄が出てきていたのね……」
「やったのは翼人だろうか?」
「わからないわ。この背中の引き裂かれたような傷は翼人の風魔法っぽいわね」
「う~ん。でも魔法にしては切れ味が雑というか……」
魔法に関してはメディアの方が詳しい。いずれにせよ普通の人間の力でできる真似ではない。
針葉樹。背の高い杉の根元には枯れ枝と羽根でできた巣が有り、中には二個の卵があった。
「おそらく私達を襲うことはもうないと思うけど、あの雄一頭でこの卵を守るのね」
鷲獅子は頭が良く、一度捕らえられるとその人間には二度と近づかなくなる。
それにしても一頭での子育ては困難を極めるだろう。
「そういえば、カルロさんの姿はありませんね?」
この場にいないということは負傷して避難している可能性もある。
周囲に足跡がないということは飛んでいたのだろうか?
「山小屋に向かったのかしら?」
だが、願いも空しく滝への帰り道で翼人カルロの遺体が発見された。
青い貫頭衣を赤黒い血で染め、体をくの字に折り曲げて大樹にめり込んでいた。
「こちらはクチバシ。というわけではなさそうだな」
「体当たりされて打ち所が悪かったようにも見えるけど。背中の傷は気になるわね」
背中の羽根は折れ爪で抉られたような傷がある。
鷲獅子にやられたにしてはどうにも腑に落ちない。
「それよりも……早く運びましょう。このままでは可哀想です」
病人やけが人を見慣れているフィオナやヘリオスと違い、メディアは悲しそうにカルロの亡骸を見つめていた。その様子にヘリオスは予備の外套を取り出すとゆっくりと遺体を動かして包む。
「そうだな。いくら戦いの後とはいえ、人の死を悼む心はわすれてはいけない」
「そうよね。このことを早くアンジェロにも知らせないと」
「せめて安らかに眠ってください」
メディアの祈りにあわせて二人も祈る。
この地に不慣れなカルロが誤って鷲獅子の巣に近づいてしまい二頭と交戦。
雌を仕留めるも撤退中に雄に不意を打たれて激突死。
姿を見失った雄は死んだカルロを探して飛び回っていた。
理屈の上では間違っていない。
捕らえた鷲獅子の扱いはアンジェロに任せることにした。
人を殺したかもしれない魔獣を無条件に解き放つわけにはいかない。
少し戻って遺体を横たえると合図の狼煙を炊いてカルロの死を知らせる。
明日の朝にはアンジェロが遺体の回収に来るだろう。
精神的にも肉体的にも疲れた体を引きずって最後の山小屋についたのは、日も沈み始めたころだった。ランタンを灯し簡単な食事を済ませベッドに横たわる。
明日の夜までには国境を抜けたデルフォイ側の村に着くだろう。
言葉少なに眠る三人が、扉をノックする音に起こされたのは世もかなり更けた頃だった。
短いですが本日二回目の更新です。
よろしくお願いいたします。